レベル1 ★★★★

過去700年以上にわたる信用不安、金融危機を調べあげた超大作です。日本語版は600ページ以上ですが、そのうち200ページが過去の危機の事例紹介で、書籍としてはもちろん、データ集としても有用です。

原著のタイトルも秀逸で、“This Time is Different(今回はちがう)”という、人類が何度も同様の財政破たんや経済危機を繰り返してきた理由の本質を説いたものとなっています。2007年以降のサブプライム危機もまさにそうですが、一見バブルに見えるけれども金融工学の発達により昔とは異なるというように、人間は常に「今回はちがう」と錯覚しがちで、でも必ず最後には悲劇的な結末に至るということが、圧倒的な量の歴史的事実からいやというほど思い知らされます。

本書は、金融危機前から準備されていたものですが、金融危機の深刻化により俄然注目を浴びました。何より興味深いことは、サブプライム危機の発生前後のGDP成長率、株価の推移、住宅価格の推移が、過去の危機のパターンと酷似していることです。

グローバル化が進もうとも、金融工学がいくら発達しようとも、経済の根幹をなす人間の本質は全く変わらず、新たに悲劇的な経済史の1ページを作ってしまったことがよく分かります。

今までほとんど調査されることのなかった19世紀以前の経済危機や、国内債務による信用不安についても徹底して調査したことで、本書は他に類を見ない、国家財政の人類史となっています。

折しも、未曾有の国家債務がつみあがる中、「先進国だから」、「ほとんどの債務が国内で消化されているから」などと、稚拙な「今回はちがう」という論理がはびこっている日本にとって、本書は重大な警告を発してくれます。

一点だけ残念に感じたポイントは、本書の中でも第二次大戦後には先進国は国家破たんから卒業したと書かれていることです。2012年のギリシャ国債のデフォルトでこのことは明確に否定され、さらにスペイン・イタリアにおいてもデフォルトが発生するかもしれないところまで、欧州の危機は発展しています。

このような名著をまとめ上げ、過去の歴史に通じたきわめて優秀な学者であっても、「今回はちがう」と先進国の国家破たんについて思いこんでしまったことから、国家財政という問題がいかに個人には想像が及びづらい複雑なものかを思い知らせてくれます。