★★★

19世紀から現代までの100年以上に渡る、物理学者達の金融市場における活動が時系列で分かりやすくまとめられています。登場人物も類書によく登場するソープやマンデルブロなど著名な人物から、バシュリエ・オズボーン・ファーマー・パッカード・ソネットなど一般には知られていない人物まで多岐にわたります。

金融危機の元凶となったCDOなど複雑な金融商品とその背景になった金融工学、そしてこのトレンドを主導した数学・物理学にたけた金融業界の新たな職種クオンツは、昨今批判の対象となりがちです。しかし、本書ではどのような自然科学も、仮説構築と実験検証による理論化、そしてその理論では説明できない現象の登場による改良のサイクルで理論体系が磨きあげられ、金融工学の失敗もその途上にすぎないという主張が展開されています。

実際に、主流の金融工学とは異なったアプローチをとるソネットの複雑系を用いた金融モデルは、2008年の金融危機も正確に予想しているなど、金融工学の発展の方向性も示唆されています。また、金融業界で活躍する最も著名な数理物理学者であるジェームス・シモンズ率いるルネッサンス・テクノロジーズは金融危機が起きた2008年にもコスト差し引き後で80%以上というリターンを上げていることも、著者は自身の主張を裏付けるものとして引用しています。確かに、金融危機の要因となったからといって、物理学者を中心となって構築した金融工学の体系を全て否定するのは乱暴にすぎるという主張には同意できます。

ただ、冒頭にジェームス・シモンズに関する記述があったにもかかわらず、彼らがどのようなアプローチをとっているのかは本書で一切明らかにされません。歴史的な評価が定まった1980年代以前の記述は詳細ですが、現代の物理学者たちによる金融工学のアプローチは詳述されていないことも残念でした。

もちろん、最新の投資理論は各ヘッジファンドの競争力の源泉なので容易には分からないのでしょうが、もう少し新らしい時代の記述が詳しければ、歴史的な名著となったと考えられるだけに、その点のみ少し残念に感じました。