レベル3 ★★★★★

ここまで、このブログで150冊以上の書評を書いてきましたが、3冊目となる★5つの最高評価です。米国の老舗シンクタンク「外交問題評議会」に所属する著者が3年にわたる綿密な取材で、その名は知られていても中々実態が見えないヘッジファンドの世界を解き明かしています。

ヘッジファンドという仕組みを作ったと言われるアルフレッド・ジョーンズから始まり、ヘッジファンドを主流の世界に押し上げた初期の大立者3人、ジョージ・ソロス、ジュリアン・ロバートソン、マイケル・スタインハート、クオンツの大物ジェームス・シモンズやデービッド・ショー、サブプライムで2兆円を稼いだジョン・ポールソン、若き業界の変革者ケネス・グリフィンなど、ヘッジファンド業界を代表する人物達の物語が章ごとに展開され、ヘッジファンドという産業が誕生からわずか50年ほどで、2兆ドル(約210兆円)の巨大産業にまで拡大してきた経緯が分かりやすく1つのストーリーにまとめられています。

上記の人物の中でジョージ・ソロスについてはこれまでも多くの著作に登場していますが、本書の記述は群を抜いて詳細で、部下のドラッケンミラーと共にポンド危機やアジア通貨危機、ITバブル崩壊でどのような取引を行い、とてつもない成功と共に大失敗もしてきたことがよく分かります。こうした大物たちの取引については大成功ばかりが喧伝されがちですが、本書には失敗談も数多く登場し、個人投資家としてはむしろ失敗から学べることの方が多いでしょう。

また、これまでほとんどメディアで取り上げられてこなかった、ジェームス・シモンズやデービッド・ショーの同じクオンツ投資家でも異なるスタイルなど、私達のような金融の世界に長くいる人間もうならされるマニアックな解説も多々あります。

著者の姿勢は明快で、サブプライム金融危機の時もヘッジファンドは救済されることなく淘汰されたにも拘わらず、巨大投資銀行や保険会社には多額の資金が各国政府から注入されたことからもわかるように、ヘッジファンド業界はモラルハザードがおきづらく、過度に規制する必要はないどころか将来の金融業界におけるプレゼンスはますます高まっていくだろうし、そうあるべきだとしています。

この結論に同意できるかはさておき、米国のノンフィクション業界の凄さを感じさせる素晴らしい著作ですからぜひ読んでみてください。本書の唯一の欠点は邦題で、原題は「More Money Than God (神様よりお金持ち)」という非常にスタイリッシュであるにもかかわらず、邦題に全くひねりがないのには、編集者にもう少し頭を使ってほしいと残念に感じました。