レベル3 ★★★★

本書はFRBのバーナンキ、ECBのトリシェ、イングランド銀行のキングの3人の中央銀行総裁に焦点をあて、金融危機の渦中から中央銀行がどのような行動をとり、何とか危機を脱っすることができたのかという経緯が克明にまとめられています。リーマンショック以降の金融市場において、中央銀行の政策は企業業績以上に株価に影響を与えてきましたが、意外に中央銀行の意思決定がどのように行われてきたのかについては知られていません。総裁たちが局面局面において、どのような思いを持っており、何をよりどころに意思決定を下してきたのかを知ることは、中央銀行の振る舞いを今後予測していくことに役立ち、中央銀行の施策に大きく左右される金融市場のメカニズムを理解することにつながります。

本書の原題はThe Alchemists(錬金術師たち)で、量的緩和や財政政策への関与など金融危機前は中央銀行において禁じ手とされてきた手段も用いるようになった、現在の中央銀行総裁達の実態を皮肉も含めてよく表した秀逸なタイトルです。一応、中央銀行がそもそもうまれるきっかけとなった17世紀のスウェーデンから解説は始まりますが、本書の白眉はなんといっても金融危機以降の記述です。

中央銀行総裁達を対象とした本書の性格上、中央銀行が金融危機以降果たした役割が誇張されている傾向があると考えられますが、そうした面を割り引いたとしても、FRBのバーナンキ議長を中心として中央銀行のトップたちが果敢な策をとったことが、危機からわずか5年で主要国のかなりの国々で史上最高値を株価が更新するまでに、金融市場を回復させたことがよく分かります。

バーナンキ議長だけでなく、日本ではあまり動向が報じられなかったECBのトリシェやイングランド銀行のキングがどのような意思決定を行い、間違いもありながらなんとか欧州の金融市場と経済を軌道に戻してきたのかについての記述は、事後となった今でもハラハラさせられます。

本書の中心登場人物である3名は、すでに全員後進に道を譲っています。金融危機の記憶も薄くなりつつある今だからこそ、本書により金融危機とその後の金融政策の流れを理解しておくことの意味は大きいでしょう。現代社会において最大級のベールに包まれた中央銀行の実態に肉薄している名著です。