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スティーブ・ジョブズの公認伝記です。当初、英語版で読破しようと思い3分の1ほど読み進めたのですが、日本とシンガポールを行き来する中で600ページ以上の大著を読破することは難しく感じ、日本語版に切り替えて一気に読みました。

スティーブ・ジョブズ自らが、良いところだけでなく悪いところも書いてほしいという要望を出したようですが、その通りに稀代の起業家にして複雑な内面を持つジョブズに深く切り込んでいます。ジョブズはもちろん、家族や知人、同僚に広く、そして深いインタビューを行ったことで、ジョブズの人生の歩みが鮮明にかつ網羅的に描かれています。

養子として育てられ、大学を中退したにもかかわらず20代で世界的企業を作り上げ億万長者になったのもつかの間、自らがスカウトしてきた経営者にアップルを追い出され、創業した次のコンピュータ企業NeXTはうまくいかず、でもCGアニメ会社ピクサーで大ヒット作を生み出し、さらにNeXTをアップルが買収したことでアップルのCEOとして復活し、iPod・iPhone・iPadなど大ヒット製品を次々と打ち出してアップルを世界最大の時価総額の企業へと上り詰めさせるも、50代で癌に倒れてCEOを辞任して間もなく亡くなる。

どんな、波乱万丈の物語を描く脚本家でも、あり得ないと一笑に付すだろう浮き沈みの激しい人生が、まるで親友の人生を振り返るかのようなリアリティで再現されていることは、著者の恐るべき筆力の賜物でしょう。上記のようなビジネスマンとしての歩みだけでなく、ジョブズが外部に知られることを極端に嫌った家族やガールフレンドといったプライベートのやり取りも、ジョブズの人物像を深く理解する助けとなっています。

途中まで英語で読みましたが、ネイティブでない私にとっても著者の英語の記述は美しく、流麗であることが分かり、このような伝記作家を持つ英語ネイティブの人はうらやましく感じました。本書を読むとスティーブ・ジョブズがいかに狂気と紙一重の天才であったかがよく分かります。日本の官庁が次のジョブズを作り出すという政策を直近打ち出していますが、学校秀才の官僚が考える政策では絶対にこのような突出した人物を生み出すことはできません。多様な評価軸を持った懐の深い社会をじっくりと育てていくしかありません。

いずれにしろ、同時代を生きた人物として万人が絶対に読んだほうがよい、歴史的な名著です。