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トイ・ストーリーでCGアニメという新しい境地を開いたピクサーの創業者エド・キャットムルが、自身のキャリアとピクサーのこれまでの歩みを振り返っています。ピクサーのアニメ映画は子供が好きなので、映画館や自宅でよく鑑賞しますが大人でも引き込まれる良作ばかりです。

エド・キャットムルは元々コンピュータサイエンスの科学者であるため、常にその文章は控えめで、ビジネス書にありがちな自分の体験の安易な一般化を避けようとする真摯な姿勢が貫かれています。ピクサーは元々スターウォーズの監督ジョージ・ルーカスの元でスタートし、その後スティーブ・ジョブズから出資を受け、トイ・ストーリーの監督として世界に名をはせたジョン・ラセターをディズニーから引き抜き、現在はディズニーの傘下にあると、エンタメ業界の大立者、巨大企業たちとともに事業を拡大してきました。

こうした人物・企業たちの知名度に本書の著者エド・キャットムルは隠れがちで、私自身本書を読むまで彼のことについて良く知りませんでしたが、本書を読むと彼なくして今日のピクサーがなかったことがよく分かります。キャットムルはまだCGがこの世に生まれたことから、いつかCGでアニメを作りたいという先駆的な夢を持っていました。そのころの夢を実現した後も、数多くの成功した作品をピクサーは生み続けていますが、その背景には優れた創造性に不可欠である自由闊達な議論を促す種々の工夫を、キャットムルがこれまで凝らしてきたことがあります。

ピクサーがディズニーに買収されたのちは、ディズニーのアニメ部門もキャットムルが率いていますが、過去の栄光にとらわれ優れた作品を生み出せなくなっていたディズニーを変革し、「アナと雪の女王」などの名作を再び創作できるようになったのかという物語は、ピクサーや直近のディズニーの映画と同じく一級品です。

エドの目から見たスティーブ・ジョブズ像も、これまでの数多くのジョブズにまつわる書籍のイメージと異なるもので、この章だけでも一読の価値はあります。創造性が必要とされるような仕事をしている人、そしてそのような環境を作りたい人は必読の良書です。