レベル4 ★★★

日本へのインバウンド観光や投資が注目される中、円安により海外の主要都市より割安感が高まっている国内不動産への海外からの投資も増えてきています。ただ、そのほとんどは東京都心に集中していて、それ以外ではニセコなど一部のリゾート地に投資対象は限られています。

京都の何有荘という重要文化財にも認定されている庭園を有した邸宅が、3代目のオーナーにより荒れ果ててしまっていたところを再生し、最終的にオラクルの創業者ラリー・エリソンにクリスティーズのオークションを通じて売却することに成功した、奈良で不動産会社を営む川井徳子氏が著者です。

クリスティーズのオークションにおける初期価格は80億円でしたから、おそらくエリソンは100億円以上で何有荘を落札したと見られています。何有荘は元々南禅寺の敷地であったところに、明治初期に近代きっての庭師とされる小川治兵衛により作られ、歴史的価値に加えて立地や希少性に優れた物件ですからここまでの価格となりました。

ただ、その素材だけでは広くクリスティーズを通じてグローバルにその価値を訴求することはできず、川井氏の人並み外れた情熱により今の姿にまで昇華したからこそ、高い評価となったことが本書からよく分かります。川井氏の不動産の本質的価値を見抜く眼力が、その波乱万丈な人生を通じて培われただろうことも印象的でした。

日本のあちこちで、歴史的価値のある不動産が適切に管理されず、荒れ果てるままになっていますが、今や日本国内だけでなくグローバルに日本の歴史的価値がある物件に関心がある投資家は数多くいます。

川井氏のように物件の本質的価値を見抜いて、多大な労力をかけてその魅力を最大限に引き出し、グローバルに訴求することでエリソンのような日本文化を愛する大富豪が購入し、長きにわたって物件が魅力ある状態で維持されていくというケースがもっと増えていけば、インバウンド投資のトレンドが地方再生につながっていくでしょう。