レベル3 ★★

ここ数年で米国のIRS(内国歳入庁)を中心として情報開示が進み、鉄の結束の象徴だったスイスの銀行の情報秘匿は大きく崩れましたが、本書はその崩壊の象徴的な事件の1つを扱っています。

HSBCのシステムエンジニアであった本書の著者は、モナコで生まれ育ちフランス/イタリアの両方の国籍を持ち、HSBCのプライベートバンキングで働くというユニークなバックグラウンドを持っています。モナコでとんでない大富豪があふれている世界と、フランスやイタリアの一般庶民が多くいる世界のギャップを常に見ながら育った著者は、以前から銀行システムについて懐疑的な視点を持っていました。

その視点が、HSBCで働く中で富裕層たちが世界中のタックスヘイブンを通じて脱税していることをとらえた時に、著者はプライベートバンキングの個人情報を取得してそれをフランス政府に持ち込むという行動につながりました。著者が開示した情報を元に、欧州主要国で脱税を摘発する動きが広がっています。一方、スイス当局は自国最大の産業である銀行の信頼性を傷つけた許しがたい犯罪者として著者を追い続けています。

確かに、そのプロセスはエキサイティングですが、全般的に本書に対しては失望感を持ちました。その理由としては著者の主張にどうしても首をかしげざるを得ない部分が多いからです。著者の主張の矛盾や反論については、冒頭や巻末で海外投資の第一人者である橘玲さんが解説していて、この記述は大きな助けとなります。

また、タイトルに反して著者の行動は本当の世界の権力者を追い詰める効果は持ちませんでした。せいぜい、小金持ちの脱税を暴いたくらいです。同時に、本書を読むとプライベートバンキングとは犯罪行為の温床のように映りますが、その理解もまたとても偏っています。

より広範でバランスの取れた視点からの、プライベートバンキングとタックスヘイブンについての問題提起が望まれます。