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ハードカバー15冊からなる超大作「ローマ人の物語」を始めとして、ルネッサンスを描いた数々の作品や、ローマ以降の地中海を舞台とした作品、さらには十字軍を描いた作品など、数々の傑出した歴史作品で知られる塩野七生さんの最新作です。

上記のように、これまでの作品は全て古代ローマ時代以降の歴史を扱ってきましたが、初めてそれよりももっと時代をさかのぼって、古代ギリシャ時代を扱っています。古代ギリシャ時代でいうと世界史の授業でさらっと扱う程度ですが、本書ではアテネやスパルタなど主要のポリスの社会制度、各ポリスから登場した傑出したリーダー、サラミスの海戦をピークとするペルシャ戦争など、ローマ人の物語と同じく、はるか古代の歴史が眼前に展開されるかのように鮮やかに描かれています。

歴史を個人に焦点をあてて、彼ら・彼女たちへの個人的な思い入れも含めて描くことには批判もあるでしょう。しかし、歴史を専門としない一般読者としては、傑出した個人を軸とした物語仕立ての方が歴史の流れがスムーズに入ってきますし、情報が限られた古代の歴史にはいずれにしろ後代の脚色が避けられないでしょう。もちろん、歴史を書かせれば当代随一の塩野さんの手による作品なので、本作も読者を歴史時代への興味をさらに駆り立てるレベルにまで昇華されています。

ローマ人の物語では特にカエサルに関する巻が愁眉でしたが、本巻にもテミストクレスというカエサルに負けず劣らず傑出した能力を持ち、かつ飄々としたリーダーが登場し、ペルシャ戦争にまつわる記述は圧倒的な興奮をよびます。本書は3部作の第1作という位置づけですが、現在78歳という高齢にもかかわらずここまでの大作を書き上げる彼女の情熱には頭が下がります。1年に1作ずつなのであと2年間、残りの2作を心待ちにしています。