★★★★

邦題は大仰ですが、原題はLove and Mathと親しみやすくなっています。日本語のタイトルでは本書の大きな2つの軸の内の1つであるラグランジュプログラムのことしか伝わらず、不満が残るところです。

ラグランジュプログラムとは、数学において代数や幾何、数論といった全く別とされていた分野間に驚くべき類似性があり、この類似性の研究を推し進めて数学の全分野にわたる統一理論を作り上げるという野心的な研究プログラムです。

この統一理論という発想は元々物理で生まれました。この世の中に存在する重力/電磁気力/強い力/弱い力を1つの方程式で説明するという統一理論は、ここ100年にわたる物理界の悲願で、アインシュタインもこの研究に後半生をささげましたが、ほとんど何の成果も得られなかったほど難解です

ラグランジュプログラムはこの数学版と言えます。そして、最近ではこのラグランジュプログラムが数学の枠にとどまらず、物理における統一理論の有力候補である超ひも理論など、最新の物理理論にも関係することが分かってきました。物理・数学の両面において傑出した業績を残し地球上でもっとも頭の良い人間とされるエドワード・ウィッテンが、著者の説得によりラグランジュプログラムへの参加を決断するシーンは、数学ファンであれば鳥肌が立つでしょう。

こう書いてくると本書は難解な現代数学についての書籍と感じるかもしれませんが、英語の原題にあるようにラグランジュプログラムは縦糸にすぎず、本書を並みの数学書と決別させているのは、著者の数学に対する愛が横糸として織り込まれていることです。

著者はユダヤ人として冷戦下のロシアの片田舎に生まれ、本来数学を学ぶことが許されない立場でした。モスクワ大学の受験時にありとあらゆる嫌がらせを受けて、傑出した数学の才能を持っているにもかかわらず、入学試験に落とされるシーンは胸に苦しさを覚えるほど辛い内容です。しかし、著者はもちろん周囲の人の限りない数学への愛により、モスクワ大学に進学できなくても素晴らしい数学教育を受けられ、最終的にハーバード大学にポストを得たことで一流数学者への道が開かれました。著者は上記のラグランジュプログラムの中枢の1人として活躍しています。

第一線で活躍する数学者でありながら、本書のような広い読者向けの書籍の執筆や数学をテーマとした映画製作まで活動を広げているのは、人生を救ってくれた数学というかけがいのない存在の魅力を、1人でも多くの人に知ってほしいという著者の情熱から来るのでしょう。