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テクノロジーの進化がAIの発展により加速度的になっていくというシンギュラリティというタームは、日本でもかなり浸透してきています。本書は、そのシンギュラリティという概念を最初に世の中に打ち出した、レイ・カーツワイル氏の書籍です。

元々、カーツワイル氏によって2007年に書かれた600ページ以上の大著から、エッセンス部分を抜き出した要約版となっています。カーツワイル氏は現在、AIで世界最先端を進んでいるグーグルで、機械学習と自然言語処理の研究責任者を務めている著名なエンジニアですから、本書で展開されている2045年にはシンギュラリティが訪れて、22世紀には銀河はおろか宇宙全体に人類が進出するようになるという予想を一笑することはできません。

ただ、一方で2007年に予測された2010年代に達成される技術的内容は、残念ながら2016年現在ほとんど実現しておらず、本書の内容を全て真に受ける訳にはいきません。確かにグーグルを筆頭にAIの開発は急速に進んでいて、10年以上先と考えられていた囲碁で世界トップクラスの棋士を打ち破るなど、着実に世の中にインパクトを残す成果は出てきています。しかし、本書で予測されている2030年までにAIが完全に人間の頭脳を凌駕して、科学研究を加速度的にAIが行っていくことで、人類も脳をそのままデジタルデータとしてサイバースペースにアップロードして永遠の存在となっていくというのはあまりに楽観的過ぎるでしょう。

本書の楽しみ方としては、グーグルの研究開発者はこれくらい楽観的かつ野心的なビジョンの持ち主で、だから米国のトップIT企業は懐が深く、本書の内容のどれくらいの割合が、どれくらいの時間軸でこうした米国のトップIT企業を中心に実現されそうか、読者それぞれが想像しながら読み進めるという姿勢が良いと思います。