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この書評では資産運用やビジネス、テクノロジー、サイエンスがテーマの本を中心に扱ってきて、将棋をメインとした書籍は初めて紹介します。この本をこちらの書評で紹介したのは、棋士たちとファンドマネージャーが置かれている状況が、人間vs人工知能/ソフトウェアという点で極めて似ていると感じたからです。

本書は、近年ソフトが飛躍的に強くなって劣勢に立たされている棋士たちに、ソフトや人工知能についてどのように感じているのかインタビューした内容を中心に構成されています。自分たちの存在価値を脅かしている存在について聞くというのは中々センシティブな事ですから、長く棋士たちに取材している筆者だからこそ聞き出せた内容でしょう。

棋士と言えば羽生善治氏が一般的には圧倒的な知名度を誇り、羽生氏は本業だけでなく、最近では人工知能をテーマとしたNHKスペシャルに出演するなど、日本では知性の象徴の様に見られています。将棋よりはるかに知名度を誇るチェスについても、20年ほど前にIBMの開発したソフトに世界チャンピオンが負けた時はセンセーショナルに報道されましたし、今年はボードゲームの中で最も局面が多いとされる囲碁でも、グーグル傘下のディープマインド社がディープラーニングという最新の人工知能の手法を用いて、これまでの予想よりもはるかに早く世界最強クラスとされる棋士イ・セドル氏を破ったことも世界的な話題となりました。

そして、冒頭で紹介したように、ヘッジファンドの世界でも近年人間のマネージャーが率いるファンドよりも、アルゴリズム取引を主とするファンドの方が総じて成績が良いということが話題となっています。これまで人間の牙城とされてきた知性にまつわる作業においても、ソフトウェアや人工知能が次々と侵食してきています。そうした時に、その道のプロは何を感じどのようにこうしたテクノロジーと向かい合うべきなのか、そして人々や社会はどのような感想を持つのかについて、本書からは色々な示唆が得られます。