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ウォルター・アイザックソン氏による公認伝記が出版されてから5年が経過しましたが、スティーブ・ジョブズ氏と長く付き合いのあったビジネス誌のライターによる新たな伝記です。アイザックソン氏の伝記は世界中で大ベストセラーとなりましたが、その内容については出版直後から賛否両論が巻き起こりました。特に、ジョブズ氏と親交が深かった周囲の人からの評判はあまり芳しくありませんでした。

アイザックソン氏はジョブズ氏からのリクエストで、人生の最後の3年間において密着取材をして公認伝記を書き上げました。ジョブズ氏を良く知る周囲の人にも多くの取材をしたようですが、どうしても昔からの知り合いではないために、「現実歪曲フィールド」に代表されるジョブズ氏のエキセントリックなところを強調した表現が前面に出ていて、そのことが親しい人にとってはジョブズ氏の良い面を消してしまっていると感じたようです。

その点で本書は、ジョブズ氏がアップルを創業して追放される前からインタビューをしたことがあり、ジョブズ氏からの信頼を得て彼の人生の重要な局面を常に取材をしてきた2人による作品であるので、昔はエキセントリックであったジョブズ氏が多くの苦難を乗り越える中でどのように成熟してきたのか、その軌跡が詳細にまとめられています。

アイザックソン氏が描くジョブズ像では、アップル復帰後に多くの才能を束ねてアップルを世界一の企業に押し上げることは不可能だったでしょう。もちろん、ジョブズ氏のリアルな振る舞いを知っている著者による作品だけに、人生の最終局面においてもジョブズ氏が人格上の色々な問題を抱えていたことはきちんと指摘されています。

それでも、相手のことを思いやる優しさをきちんとジョブズ氏が育んできたからこそ、アップル復帰後にあそこまでの成功をおさめられたことが、本書によりよく分かりました。ビジネスマンとしては、公認伝記よりも一人の偉大な起業家の成長の軌跡がよりリアルに分かるこちらの著作の方が、参考になる部分が多かったと感じました。