レベル3 ★★★

経済小説の泰斗、黒木亮氏の最新作は国家と投資ファンドの攻防を描いた作品です。この小説の主人公のモチーフは、エリオットマネジメントのポール・シンガー氏ですが、彼は「世界で最も恐ろしい投資家」という異名で知られています。

長くバンカーとして活躍し、現在も世界最高の金融都市ロンドンで暮らしている著者だけあって、ハイエナファンドが新興国の債券を購入して、米国・英国での訴訟活動を駆使しながら、決して裕福でない新興国から巨額のリターンをどのように搾り取るのか、その手法が克明に描かれています。

本書の主人公であるサミュエル・ジェイコブスは、モチーフとなったポール・シンガー氏の実績をなぞるかのように、アフリカ諸国やアルゼンチンなど新興国からその圧倒的な法律についての知識と、グローバル大手ローファームのネットワークを活かして次々と巨額のリターンを得ていきます。

ただ、この小説を興味深くしていることは、強欲なファンドマネージャーだけでなく、その真逆の立場にあるファンドによる貧困国の搾取を禁じるために活動しているNPOや、ファンドの一社員など様々な立場から、この華麗な搾取劇を描いていることです。多様な立場の登場人物により、巨額のマネーが飛び交うグローバル金融市場の過酷さと、ある種のむなしさがうまく描かれています。

ロンドンやニューヨークといった金融都市を抱えている英国・米国の強みは、世界中の資金を自国に集めていることで裁判に勝ちさえすれば、すぐに自国にある訴訟先の金融資産を抑えて、リターンを確定できることです。

日本の投資ファンドには逆立ちしてもできない芸当であるだけに、本書を読むとアングロサクソンとユダヤ人が作り上げたグローバル金融のプラットフォームと、そのうえで勝ち続ける巨大ファンドの凄さがよく分かるでしょう。