Makers

★★★★

本書の著者はIT情報誌「ワイアード」の編集長を長く務めたクリス・アンダーソン氏で、以前の著書「フリー」も大きな話題となりました。3Dプリンターなど製造装置や、モノづくりに関わるソフトウェアの高機能化・低価格化が進んだことで、20世紀の大量集約型製造業と対照的な、小規模でアドホックな製造業が21世紀に拡大していくこということが本書の主張です。

本書の重みを増しているのは、著者自身が長らく活躍したメディア業界から、ドローン製造会社の創業者と転身していることで、まさに本書の主張通りの選択をしていることです。娘を通わせているシンガポールのアメリカンスクールにも3Dプリンターが備えられていて、科学の授業で利用しているのを初めて見た時には驚きましたが、本書を読むと米国では人々のメイカー化がさらに進んでいることがよく分かります。

日本はもちろん、米国でも製造業の中国など発展途上国への流出は重要なトピックとなっていますが、本書ではそれほど悲観する必要がないとしています。今後はオンデマンドの製造需要の拡大に伴って、米国で繁栄を極めるソフトウェア産業と同じく製造業のかなりの部分も米国で十分勝負できるというのがその根拠です。

もちろん、iPhoneに代表される世界的にヒットするハードウェアは今後も出てくるでしょうが、eコマースが趣味のモノを取引するオークションや通販サイトから拡大したいように、個人ベースの小規模な製造業(メイカー)達も、本書の著者のように大手業者では相手にしないニッチな趣味のモノを製造すること頃から拡大していくのでしょう。

本書を読んで、子供と一緒にCADを勉強して、学校の3Dプリンターで何か作りたくなりました。本書の指摘通り、ビット(電気信号によるバーチャルな世界)の世界からアトム(原子でできた実世界)に個人のクリエイティビティを存分に発揮できる環境が広がってきていることにワクワクしています。

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究極の海外不動産投資

レベル4 ★★★

私たちもまさに本書のテーマである海外不動産投資でコラボしたことのある内藤忍さんによる、海外不動産投資の入門書です。本書の白眉は、著者が実際に足を運び購入した国について解説していることです。

円安により海外投資に関心を持つ人が多くなっており、目に見えて分かりやすい海外の不動産投資も人気となってきています。しかし、流動性が低くただでさえリスクが高い不動産投資に、さらに海外という要素が加わることで様々なトラブルも出てきています。私たちも、お客様に不動産投資をご案内するうえで、最も気を遣うのが現地の提携先の選定です。

本書では主に米国、マレーシア、タイ、フィリピン、カンボジアの不動産投資が紹介されていますが、それぞれの国について情報提供がどの不動産エージェントであるか明記されています。どれも、内藤さんが自分自身でサービスを受けて納得して付き合っている会社ですから、このリストが手に入るだけでも本書の価値はあるでしょう。

新興国を中心として外国人による不動産投資に関する規制は頻繁に変わり、ネットでは古い情報も目立ちますが、本書は今年時点の最新のもので統一されています。内藤さんは金融商品について海外投資の啓蒙家として日本の第一人者でしたが、不動産についてもそのポジションを築きつつあります。海外不動産投資に関心にある人はぜひ本書でベーシックな情報を身につけてから、関心のある場所を選び現地に足を運ぶようにしてください。

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沈みゆく帝国

★★★

スティーブ・ジョブズの病状や、アップル幹部の辞任など、アップルの番記者として数々のスクープを飛ばしてきた著者が、ジョブズ亡き後のアップルの歩みを克明にまとめたノンフィクションです。過去の出来事だけでなく、今後の予測もされていますが、その結論はタイトルにもあるように悲観的なものです。著者は以前にソニーも記者として担当しており、創業者の盛田昭夫亡き後のソニーの凋落ぶりも間近に見ており、アップルの現状もソニーと同調しているところが多いと感じているようです。

本書は、世界的ベストセラーとなったウォルター・アイザックソン氏によるジョブズの自伝には出てこなかったエピソードも豊富なので、これまでのアップルの歩みとジョブズの人となりを把握するうえでも興味深い内容です。ただ、本書の多くはアップルとサムスンの訴訟合戦や社内の混乱ぶりなど、ジョブズ亡き後のアップルの低迷についての描写です。

確かに、2010年のiPad発表以降4年近くにわたって新製品の発表はありませんし、株価も2012年9月の史上最高値をつけてから、依然この株価を更新できていません。一方、豊富な手元資金による自社株買いや他社の買収を市場は概ね好感し、株価も昨年の安値からは6割以上上昇しています。ジョブズの死の直後は、Siriや地図アプリなど大きな不具合がありましたが、直近の製品やソフトウェアのバージョンアップでは混乱がなく、ユーザーからも一定の評価を得ています。

そもそも、カリスマ創業者がなくなった後にスムーズに成長していった企業などないでしょう。ジョブズ健在の時にはありえなかった、決算発表にCEOが参加するといった企業の一般的な振る舞いをアップルが身に着けてきていることへの安心感も、投資家は感じていると思います。

長年アップルを取材してきたが故の愛の裏返しもあるのでしょうが、著者のアップルの現状に対する悲観的な論調があまりに行き過ぎで、ないものねだりとも感じました。

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不動産投資 1年目の教科書

★★

不動産投資や海外投資の著作で知られる著者による最新の不動産投資の入門書です。書名からはビジネス書としてベストセラーになった「社会人 1年目の教科書」を想起させますが、内容も不動産投資の経験が豊富な著者による不動産投資をこれから始める人向けの手ほどきとなっています。不動産投資を始める際に多くの人が持つだろう疑問を80個列挙し、それに回答を与えていく形で展開しています。不動産投資について幅広くトピックをカバーした本がなかなかないので、その意味では入門書として優れているといえるでしょう。

ただ、本書では東京の不動産投資が良いとされていますが、筆者がこれまでの書籍で取り扱ってきた海外投資、特に海外の不動産投資と比較した場合の優位性について論じられていないのは物足りないところです。また、初心者向けの解説書として位置付けながら、色々な用語が出てくるのもついていけない読者が結構居るのではないかと感じました。もちろん、日本の不動産投資は税制や規制周りが複雑なので、ある程度専門用語が多くなるのは仕方がないかとは思いますが。

本書を読んで最も強く感じたのは、日本の不動産投資周りの税率がとてつもなく高いことです。シンガポールから自在に海外も含めて投資をしているケースを多く目の当たりにしているだけに、このことが日本で不動産投資を行ううえで最大のハードルとなっていると感じました。

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フラッシュ・ボーイズ

レベル3 ★★★★

これまでにも「ライアーズ・ポーカー」や「世紀の空売り」など優れたノンフィクションを数多く発表してきたマイケル・ルイスの最新作です。

まだ邦訳は出ていませんが、反響が非常に大きいようなので原書で読みました。本書の主題は超高速取引です。1,000分の1秒単位、最近では100万分の1秒単位で繰り広げられている超高速取引ですが、これまで広く一般に実態が知られることはありませんでした。

本書では、先物市場の中心であるシカゴと現物市場の中心であるニュージャージーを、一切の迂回がない完全な直線の光ファイバーの取引データ専用回線を敷設することで結び、片方の市場での取引データを誰よりも早くもう一つの市場に送ることで、いずれ来る注文を先回りして利ザヤを稼ぐなど、驚くべき手法で超高速取引業者がリターンを上げている実態が明らかにされています。

また、各投資銀行が開設している私設取引所ダークプールや新設の取引所が、取引データを一部の超高速取引業者に高額で開示しており、かつ超高速取引業者たちはこうしたデータを元に高確率でリターンを上げているということも明らかにしています。直近、バークレイズのダークプールでこうした不正が行われているか検察当局から検査が入り、閉鎖される見通しも出ていますがそのきっかけとなったのも本書です。

本書の主人公は、投資銀行で働いているときの経験から超高速取引による不正に気付き、こうした不正が行えない新しい取引所を解説すべく奮闘するブラッド・カツヤマ氏です。最終的には取引所開設にこぎつけ、既存業者からの色々な嫌がらせにあいながらも、大手機関投資家や投資銀行から評価され繁栄するというストーリーは、これまでのマイケル・ルイスの著作によく見られる、マイノリティがマジョリティの間違いをついて成功するという流れを踏襲しています。

ただ、「世紀の空売り」に比べると物語のスケールが小さく、かつ超高速取引の実態も深くまでは堀込まれていないため若干の不満も感じました。もちろん、議会での超高速取引業者の聴取にまで発展した本書の影響力は素晴らしいものですが、「世紀の空売り」があまりにも見事にサブプライム危機とそこからリターンを得た投資家を描いていたため、物語の規模や主人公の存在感がどうしても見劣りするように感じました。

いずれにしても、毎回著書が大きな社会的なインパクトを生むマイケル・ルイスの次回作が楽しみであることには間違いありません。

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ツイッター創業物語

★★★★

2013年下旬に華々しく上場し、サービスの利用はもちろん投資対象としても世界中から注目を集めるツイッター社の創業経緯と、その後の権力闘争を克明にまとめた優れたノンフィクションです。

一般的にツイッターの創業者として知られるのはジャック・ドーシーですが、本書にはそれ以外の3名の創業者エヴァン・ウィリアムズ、ビズ・ストーン、ノア・グラスにも焦点があたっています。米国の経済ノンフィクションには、とてつもない労力をかけて膨大な取材を行ったうえで、さらにその内容を分かりやすくまとめた良書が年間数冊出てきますが、本書もその1つです。

とても内気な青年だったのにわずか数年でジョブズの後継者とも目されるカリスマ経営者と脱皮したジャック、ツイッターのアイディアを最初に思いついたにも拘わらず会社を追い出され株式もほとんどもらえなかったノア、ジャックの投資家も巻き込んだ血みどろの権力闘争を行ったエヴァン、そして独特の価値観を持つビズと、創業者4名ともが特異な個性を持つ人物だけに興味深いエピソードが次々に出てきます。

本書を読んで感じるのはツイッターが真のベンチャー的存在であることです。グーグルやフェイスブックが高学歴の創業者により始まり、社員もエリートぞろいであるのに対して、ツイッターの創業者や従業員はこうした企業では相手にされないような人物ばかりです。

そうした人物たちだからこそ、本書にあるようなカラフルな物語がつむぎだされたのでしょうし、そもそもツイッターというカテゴリ分けが難しい、でも圧倒的な人気を誇るサービスが生み出されたと感じました。本書は米国でも大きな話題を呼び、テレビドラマ化もされるようです。起業に少しでも関心のある人はぜひ読んでください。起業の魅力と恐ろしさ両面が心行くまで味わえます。

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資本主義の終焉と歴史の危機

★★

超長期的な歴史から見たスケールの大きい論考で知られる水野和男氏の最新作です。ただ、これまでの著作で見られたデータや論考がほとんどで、新しい考察は見当たりませんでした。

また、結論も先進国の金利が直近低迷していることを受けて、もはや資本が利潤を生みだすことができない時代に突入しており、このことから資本主義という概念自体が終わりを迎えているという内容となっていますが、米国の長期金利も2%台後半にまで上昇してきておりこの決めつけは性急すぎるように感じました。

東南アジアを中心として、まさにこれから経済成長が本格化するだろう新興国の様子を目の当たりにしているため、先進国特に日本の現状のみでグローバル経済に成長の余地がなくなってきているという本書の論説には納得しかねます。また、技術発展やイノベーションによる経済成長の余地も一切論考にいれないことも乱暴でしょう。

先進国中間層の没落を憂う内容がたびたび出てきますが、新興国も含めた機会の平等がどうあるべきかなど、より広範囲な議論の展開を著者には期待したいところです。これまでの論考に、広く一般大衆に受けそうな結論のみ強引につけた形式となっていて残念に感じました。

グローバルの経済界では、トマス・ピケティの大著「21世紀の資本論」が大きな話題となっていますが、著者は日本で珍しい大ぶりな経済分析ができる人物だと思いますから、ピケティの本とまではいかなくとも新たな分析とともに21世紀の社会構造がどうあるべきかを客観的に論じる著作を出してもらいたいです。

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スティーブ・ジョブズ

★★★★★

スティーブ・ジョブズの公認伝記です。当初、英語版で読破しようと思い3分の1ほど読み進めたのですが、日本とシンガポールを行き来する中で600ページ以上の大著を読破することは難しく感じ、日本語版に切り替えて一気に読みました。

スティーブ・ジョブズ自らが、良いところだけでなく悪いところも書いてほしいという要望を出したようですが、その通りに稀代の起業家にして複雑な内面を持つジョブズに深く切り込んでいます。ジョブズはもちろん、家族や知人、同僚に広く、そして深いインタビューを行ったことで、ジョブズの人生の歩みが鮮明にかつ網羅的に描かれています。

養子として育てられ、大学を中退したにもかかわらず20代で世界的企業を作り上げ億万長者になったのもつかの間、自らがスカウトしてきた経営者にアップルを追い出され、創業した次のコンピュータ企業NeXTはうまくいかず、でもCGアニメ会社ピクサーで大ヒット作を生み出し、さらにNeXTをアップルが買収したことでアップルのCEOとして復活し、iPod・iPhone・iPadなど大ヒット製品を次々と打ち出してアップルを世界最大の時価総額の企業へと上り詰めさせるも、50代で癌に倒れてCEOを辞任して間もなく亡くなる。

どんな、波乱万丈の物語を描く脚本家でも、あり得ないと一笑に付すだろう浮き沈みの激しい人生が、まるで親友の人生を振り返るかのようなリアリティで再現されていることは、著者の恐るべき筆力の賜物でしょう。上記のようなビジネスマンとしての歩みだけでなく、ジョブズが外部に知られることを極端に嫌った家族やガールフレンドといったプライベートのやり取りも、ジョブズの人物像を深く理解する助けとなっています。

途中まで英語で読みましたが、ネイティブでない私にとっても著者の英語の記述は美しく、流麗であることが分かり、このような伝記作家を持つ英語ネイティブの人はうらやましく感じました。本書を読むとスティーブ・ジョブズがいかに狂気と紙一重の天才であったかがよく分かります。日本の官庁が次のジョブズを作り出すという政策を直近打ち出していますが、学校秀才の官僚が考える政策では絶対にこのような突出した人物を生み出すことはできません。多様な評価軸を持った懐の深い社会をじっくりと育てていくしかありません。

いずれにしろ、同時代を生きた人物として万人が絶対に読んだほうがよい、歴史的な名著です。

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タックスヘイヴン

レベル4 ★★

著名な投資アドバイザーである橘玲氏による金融小説です。著者の該博な知識に裏付けられ、日本の富裕層の節税や海外移住と、シンガポールでの金融業の実態が様々な場面で描かれています。

グローバル金融都市シンガポールの光だけでなく、影の部分も描くために小説という形態をとったのでしょう。シンガポールで1,000億円を運用するファンドマネージャーが自殺をしたところから物語が始まり、この自殺したマネージャーの妻と闇の金融アドバイザー、しがない翻訳家という3人の同級生を中心としてめまぐるしくストーリーが展開していきます。

シンガポールやジョホールバル、バンコクなど私たちがよく訪れる都市が舞台なので、情景がイメージしやすくその点でも興味深く読めました。ただ、東南アジアの地理に明るくない読者は地名を羅列されても頭に入って来ないのではないでしょうか。

ストーリー展開にも無理が多く、また登場人物のキャラクターもステレオタイプで魅力に乏しいため、物語に没入することもできませんでした。お金の残酷さを描きたいという思いが強すぎることが無理なストーリー展開の要因となってしまっているのでしょう。ノンフィクションを書いてきた著者がフィクションを手掛けることの難しさを感じさせられました。

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勝つための確率思考

レベル3 ★★

副題に「東大卒ポーカー王者が教える」とありますが、著者は日本人で初めてWSOP(ワールド・シリーズ・オブ・ポーカー)で世界王者となった人物です。米国でのプロポーカーの人気はすさまじく、WSOPのメインイベントで優勝すると10億円近い賞金が得られます。著者も、WSOPのメインイベントではないですがサブイベントに勝ったことで5,000万円近くの賞金を手に入れました。

ヘッジファンドや投資銀行で働くトレーダーの中でも、確率思考と強い精神力が必要で、かつ運にも左右されるという資産運用と近いゲームの性質から、プロレベルのポーカーの腕前を誇る人は数多くいます。

ポーカーのゲームとしての分析や確率思考についての専門手金考え方を期待して手に取ったのですが、あまりそうした記述はなくどちらかというとプロポーカープレーヤーとして活躍する中で身に着けた基本的な思考スタイルが中心でした。

金融の世界のプロとして身に着けなければならないモノが中心でしたが、広く一般の人にとっては参考になるポイントも多いと思います。資産運用で成功するには合理的な思考と、それを継続して実践する精神力が欠かせません。いつも結果に一喜一憂して余計な行動をとってしまうという人は、本書から基本的な思考スタイルをおさらいしてみてください。

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伝説の投資家 バフェットの教え

レベル3 ★★★★

世の中にはバフェットを題名に使った本がかなりの数にのぼり、当然ながらその内容はピンキリです。私も10冊以上のいわゆるバフェット本を読んできましたが、本書はその中でも屈指の出来ばえです。

毎年1回、ウォーレン・バフェットが経営するバークシャー・ハサウェイの株主総会に向けて、彼自身が執筆する「株主への手紙」は大きな注目を集めますが、本書はその「株主への手紙」の編集者が執筆しています。ただ、執筆といっても著者が編集者を務めているフォーチュン誌に掲載されたバフェット関連の記事をトピックごとにまとめて、それに解説を加えるという形をとっています。

こう書くと、雑誌記事をまとめたものかと思われる方も居るでしょうが、フォーチュン誌が誇る練達の執筆陣による長編記事ばかりですし、50年近く前の記事から掲載されているので、各時代におけるバフェットの考えや周囲からの評価が時系列で追えるので非常に読み応えがあります。個人的には、ソロモン・ブラザーズの不祥事とバフェットが会長を務めて危機を脱する下りと、直近の篤志家としてのバフェットの活躍ぶりについての記述が興味深かったです。

いかなる人物も長期にわたってアクティブ運用で市場平均を上回ることができないという効率的市場仮説の反例としてバフェットが取り上げられた30年ほど前の記事も登場しますが、その後の彼の実績を見ても効率的市場仮説を擁護しようと思う人はほとんどいないでしょう。

本書を読んであらためて、「周りが悲観的な時に大胆になって、周りが楽観的な時に慎重になる」という投資の王道を長期にわたって継続することがいかに難しく、そして達成できれば途轍もない偉業につながるのかということを認識しました。凡事徹底こそ非凡への道ということですね。

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マネーの支配者

レベル3 ★★★★

本書はFRBのバーナンキ、ECBのトリシェ、イングランド銀行のキングの3人の中央銀行総裁に焦点をあて、金融危機の渦中から中央銀行がどのような行動をとり、何とか危機を脱っすることができたのかという経緯が克明にまとめられています。リーマンショック以降の金融市場において、中央銀行の政策は企業業績以上に株価に影響を与えてきましたが、意外に中央銀行の意思決定がどのように行われてきたのかについては知られていません。総裁たちが局面局面において、どのような思いを持っており、何をよりどころに意思決定を下してきたのかを知ることは、中央銀行の振る舞いを今後予測していくことに役立ち、中央銀行の施策に大きく左右される金融市場のメカニズムを理解することにつながります。

本書の原題はThe Alchemists(錬金術師たち)で、量的緩和や財政政策への関与など金融危機前は中央銀行において禁じ手とされてきた手段も用いるようになった、現在の中央銀行総裁達の実態を皮肉も含めてよく表した秀逸なタイトルです。一応、中央銀行がそもそもうまれるきっかけとなった17世紀のスウェーデンから解説は始まりますが、本書の白眉はなんといっても金融危機以降の記述です。

中央銀行総裁達を対象とした本書の性格上、中央銀行が金融危機以降果たした役割が誇張されている傾向があると考えられますが、そうした面を割り引いたとしても、FRBのバーナンキ議長を中心として中央銀行のトップたちが果敢な策をとったことが、危機からわずか5年で主要国のかなりの国々で史上最高値を株価が更新するまでに、金融市場を回復させたことがよく分かります。

バーナンキ議長だけでなく、日本ではあまり動向が報じられなかったECBのトリシェやイングランド銀行のキングがどのような意思決定を行い、間違いもありながらなんとか欧州の金融市場と経済を軌道に戻してきたのかについての記述は、事後となった今でもハラハラさせられます。

本書の中心登場人物である3名は、すでに全員後進に道を譲っています。金融危機の記憶も薄くなりつつある今だからこそ、本書により金融危機とその後の金融政策の流れを理解しておくことの意味は大きいでしょう。現代社会において最大級のベールに包まれた中央銀行の実態に肉薄している名著です。

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