仕事に効く教養としての「世界史」

★★★

日本初のネット生命保険会社の会長を務める出口治明氏による世界史の入門書です。私は過去に彼の講演会に1度参加したことがあるのですが、教養あふれる内容と若者への優しいまなざしが印象的で本書を手に取りました。

タイトルに仕事に効くとありますが、大人として身につけておきたいリベラルアーツとしての歴史の流れがまとめられています。日本の学校であまり扱われない、中央アジアから中東、インドにかけての歴史や、日本の歴史上のイベントと世界史との関係性についてのトピックが、特に興味深かったです。

海外で仕事をしていて感じるのはその国の文化や成り立ちへの理解の大切さです。本書にも、シンガポールが大英帝国にとってどのような位置づけだったのか、アヘン戦争との関係で出てきますが、地政学上の要衝であることの優位性は時代に関係ないと再認識しました。

アジアが経済的に盛り返している21世紀だからこそ、欧米からの視点だけでなく多様な歴史的ストーリーを理解しておくことは、今後の世界経済の動向を占ううえでも非常に大切です。本書を著者が書いた理由として、負け戦を笑って受け止められる骨太の知性を持った若者がでてきてほしいからと書かれていますが、本書の内容はまさにその通りの、深い知識に裏付けられた重厚な歴史ストーリーが展開されています。

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第五の権力

★★★

グーグルの会長を務めたエリック・シュミットと、グーグルのシンクタンク”Google Ideas”のディレクターである政治学の俊才ジャレッド・コーエンの共著である本書は、邦題のサブタイトルに「Googleには見えている未来」とあるため、技術的な未来予測の本と思い手に取りました。

しかし、内容はインターネットの浸透による地政学的な影響が中心で、読む前の期待とはかなり異なりました。邦題の「第五の権力」とは、行政・司法・立法・メディアに加えてネットへのアクセスを持った個人が五番目の権力として浮上することからつけられています。国家や戦争・テロ・革命、アイデンティティにネットの浸透がどのような影響があるのかについて、緻密な論説が展開されています。

Google Glassなどのウェラブルコンピュータや自動運転車などの実用化されている、もしくは実用化が近い技術だけでなく、量子コンピュータや人工知能、寿命を延ばすバイオテクノロジー、火星探査など分野を問わずに数十年先の未来を見越した技術開発に取り組んでいるグーグルですが、ネットが社会に与える影響について人文学の見地からも様々な予測に取り組んでいることが本書からよくわかります。

ラリー・ペイジとサージェイ・ブリンという2人の若い創業者を補佐するためにグーグルのCEOを務めたエリック・シュミットが、技術ドリブンの創業者2人を補佐するために、人文学の分野にも造詣が深く、その想いが本書に込められているように感じました。

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ヘッジファンド

レベル3 ★★★★★

ここまで、このブログで150冊以上の書評を書いてきましたが、3冊目となる★5つの最高評価です。米国の老舗シンクタンク「外交問題評議会」に所属する著者が3年にわたる綿密な取材で、その名は知られていても中々実態が見えないヘッジファンドの世界を解き明かしています。

ヘッジファンドという仕組みを作ったと言われるアルフレッド・ジョーンズから始まり、ヘッジファンドを主流の世界に押し上げた初期の大立者3人、ジョージ・ソロス、ジュリアン・ロバートソン、マイケル・スタインハート、クオンツの大物ジェームス・シモンズやデービッド・ショー、サブプライムで2兆円を稼いだジョン・ポールソン、若き業界の変革者ケネス・グリフィンなど、ヘッジファンド業界を代表する人物達の物語が章ごとに展開され、ヘッジファンドという産業が誕生からわずか50年ほどで、2兆ドル(約210兆円)の巨大産業にまで拡大してきた経緯が分かりやすく1つのストーリーにまとめられています。

上記の人物の中でジョージ・ソロスについてはこれまでも多くの著作に登場していますが、本書の記述は群を抜いて詳細で、部下のドラッケンミラーと共にポンド危機やアジア通貨危機、ITバブル崩壊でどのような取引を行い、とてつもない成功と共に大失敗もしてきたことがよく分かります。こうした大物たちの取引については大成功ばかりが喧伝されがちですが、本書には失敗談も数多く登場し、個人投資家としてはむしろ失敗から学べることの方が多いでしょう。

また、これまでほとんどメディアで取り上げられてこなかった、ジェームス・シモンズやデービッド・ショーの同じクオンツ投資家でも異なるスタイルなど、私達のような金融の世界に長くいる人間もうならされるマニアックな解説も多々あります。

著者の姿勢は明快で、サブプライム金融危機の時もヘッジファンドは救済されることなく淘汰されたにも拘わらず、巨大投資銀行や保険会社には多額の資金が各国政府から注入されたことからもわかるように、ヘッジファンド業界はモラルハザードがおきづらく、過度に規制する必要はないどころか将来の金融業界におけるプレゼンスはますます高まっていくだろうし、そうあるべきだとしています。

この結論に同意できるかはさておき、米国のノンフィクション業界の凄さを感じさせる素晴らしい著作ですからぜひ読んでみてください。本書の唯一の欠点は邦題で、原題は「More Money Than God (神様よりお金持ち)」という非常にスタイリッシュであるにもかかわらず、邦題に全くひねりがないのには、編集者にもう少し頭を使ってほしいと残念に感じました。

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決断力

★★★

史上最高の棋士とされる羽生善治さんの勝負に向かう時に意識している姿勢・思考スタイルを簡潔に解説した本書は、資産運用においても非常に参考となります。

将棋もPCを使えば過去の棋譜がいくらでも手に入るようになる中、それでも実戦に勝る学びの場はないという羽生さんの言葉はとても重く、かつ資産運用にもそのまま当てはまると思います。もちろん、過去の様々な事象を踏まえて局面ごとの戦略をあらかじめ練っておくことは大切ですが、それでも実戦において揺れる心の中、どこまでその戦略は実行できるのか、さらには実戦の集中の中、事前に考えた以上の戦略を編み出せるのかは、精神的な要素に掛っていて、この精神力がなければ適切な決断は望めないということが、繰り返し語られ、心に響いてきます。

最も印象的だったことは羽生さんがもはや勝つことにこだわっていないことです。勝つことより良い将棋を後世に残すために、得意な戦法にこだわらずどのようなスタイルの将棋でも指すという姿勢は、トップ棋士として中々できることではないですし、さらにはそれでも圧倒的な実績を残していることは凄味を感じさせます。

本書の中で、コンピュータがトップ棋士と互角に戦えるようになるのは早くて2010年、遅くて2050年と言及がありましたが、これについては昨年にA級棋士がコンピュータに敗れるという衝撃的なニュースが報じられました。しかし、本書を読んでそのことはあまり意味を持たないと感じました。そもそもコンピュータがここまで強くなったのもこれまでのプロ棋士たちによる膨大な勝負があってこそですし、そもそも限られた体力・精神力を限界まで研ぎ澄ませて対峙するトップ棋士の勝負の迫力はコンピュータ将棋には望めません。

傍観者として評論していても何にもならない厳しい世界の勝負師の言葉から、資産運用に参考となるポイントを導き出してください。

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アップル 驚異のエクスペリエンス

★★★★

日本とシンガポールを行き来する生活の為に、日本で最近発売が始まったSIMフリーのiPhone5Sに先日機種変更をしました。銀座のアップルショップで購入したのですが、いつもながら素早く親切な対応に感動しました。

本書は、これまで「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼンテーション」、「スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション」というアップル本がどちらも世界的なベストセラーになったカーマイン・ガロ氏のアップル本の第3弾です。

アップルショップは一般的な小売店の10倍も、単位面積あたりの売上がありますが、その秘訣を利用者のコメントをもとに詳細に明かしてくれます。アップルの新製品が、iPodやiPhone、iPadも発売当初は売れないと批判を浴びたように、アップルショップの構想も評論家から酷評されました。しかし、アップルショップは大成功をおさめ、ニューヨークの5番街やセントラル駅の基幹店は、海外からも多くの顧客が殺到しています。

アップルショップの運営方法は全てが小売りの常識に反するものです。店員に販売ノルマはなく、店舗の設計も天井がとても高く、商品の陳列も何も置かれていない余白が非常にゆったりとしていて空間効率が悪いため、アップルショップがスタートした当初、評論家たちが巨額の赤字を出して閉店に追い込まれるとしたのも理解できます。

スティーブ・ジョブズはハードウェアだけでなく、小売り店舗でもイノベーションにより常識を覆しました。アップルショップの原動力はスタッフの質の高さにあります。アップル製品を購入しようとした人はもちろん、製品が故障して修理に向かった人も多くが笑顔で帰るアップルショップのサービスは、モチベーションが高いスタッフにより支えられています。

どのようにモチベーションを高く保っているのか、アップルショップのスタッフは売上でなく何を目標としているのか、そしてサービスで顧客を喜ばせる秘訣まで、具体的なポイントにまとめられているので、小売りビジネスに従事している人はもちろん、全ての職種のビジネスマンに参考となります。

アップルショップのモデルを設計する際に、ジョブズ達は他の競合小売り企業ではなく、フォーシーズンズやリッツカールトンといった高級ホテルやフェデックスなど、他の業種のサービスを参考にしました。私達も、アップルとは全く違った業種ですが、本書を参考にサービスのクオリティを高めていきたいと奮い立たされました。

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イーロン・マスクの野望

★★

最近、ネクスト・ジョブズは誰だという記事がよく書かれます。先週に紹介したジェフ・ベゾスもその候補ですが、最もネクスト・ジョブズとして取り上げられることが多いのは、本日ご紹介する本の主人公イーロン・マスクです。日本での知名度はベゾスに劣りますが、起業家としてのスケール感はベゾスに勝るとも劣りません。

イーロン・マスクは、南アフリカ出身で17歳の時に親戚のつてを頼ってカナダに移住し、その後米国の大学に通います。スタンフォード大学の物理学の博士課程に進学しますが、2日で退学し、兄弟とオンラインコンテンツの編集ソフトの会社を起業します。

この会社をコンパックに売却して資産を築いたマスクは、この資金を元にオンライン決済の会社を創業します。この会社は後に別会社と統合してペイパルとなり、オンラインオークションの世界最大手eBayに売却することで、マスクは大富豪となります。

起業家は大富豪となった後に、エンジェルとして後進のサポートに回る人が多いですが、マスクは以前から温めていた壮大なテーマの起業をします。1つが米国の高級車マーケットを席巻しつつある電気自動車メーカー「テスラ・モーター」で、もう1つは民間企業として初めて国際宇宙ステーションに資材を運ぶことに成功した「スペースX」です。

学生時代から、マスクは人類の永続性を高めるためにインターネット・再生可能エネルギー・宇宙の3つの分野で起業することを目標としていましたが、40歳そこそこで既に達成しました。このままいくと、21世紀で最大のインパクトを残す起業家になりそうなマスクですが、最近でも火星移住計画や音速を越える高効率な移動システムなど、とてつもない計画を続々と発表しています。

この刺激的な人物についてあまり知らない人にとっては、マスクのこれまでの歩みコンパクトにまとめられていて、クイックに読めるので本書はオススメです。ただ、本書は本人や周囲の人へのインタビューを行っておらず、これまでマスクについて書かれた記事をまとめているだけなので、既にマスクについて良く知っている人にとっては物足りない内容です。

いずれ、本人に肉薄した骨太な伝記が出版されることを期待したいと思います。

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ジェフ・ベゾス 果てなき野望

★★★★

もはやこの会社がなくては日々の生活もままならないという人が日本にも多いアマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスの初めての公認伝記です。

私自身の生活にもアマゾンは欠かせません。書籍だけでなく、食品・飲料などの生活用品もほぼ全てアマゾンで購入していますし、最近ではiPad上のKindleアプリで本や漫画を読むようになったので、日常的な支出の過半はアマゾンを通じて購入しています。都心ですと、その日のうちに商品が届くことも多いですし、不在にしていたとしても宅配ボックスに商品をいれておいてもらえるので、帰宅時にまとめて受け取れます。

アマゾンは創業から20年未満で、世界最大のオンライン小売り企業となり、オンラインの世界だけでなくウォルマートなどリアルな店舗を持つ小売りチェーンも含めて、世界最大の時価総額となることも視野に入ってきます。

この急成長を成し遂げた最大の要因として創業者ジェフ・ベゾスの存在があることが本書を読むとよく分かります。他のIT企業の創業者と異なって、世界的なヘッジファンドDEショーのやり手社員として、金融業界のエリートであったベゾスですが、ありとあらゆるモノをネットにより購入できる「エブリシング・ストア」を夢見て、金融業界での高報酬と地位を捨ててアマゾンを創業します。

徹底したユーザー志向により、創業期の巨大な赤字やITバブル崩壊をしのぎ、最近では米国の都市部で生鮮食品の販売も始め、無人ヘリロボットによる30分以内の宅配計画も発表するなど、今や創業した時の夢であった「エブリシング・ストア」に近付きつつあります。

米国のメディアの中では、その壮大なビジョンとそれを具現化する手腕、そして容赦ない過酷なコミュニケーションスタイルから、ベゾスこそスティーブ・ジョブズを継ぐものだとする記事も増えてきています。

経営者という視点からも、稼いだ資金をほぼ全て成長の為の投資に回して、赤字すれすれを20年近く継続し、しかしそのスタイルが投資家からも評価され、高い時価総額を誇るというアマゾンのスタイルは特異で目を引きます。スティーブ・ジョブズのミスは、iPhoneを高収益のビジネスとしたことで競合を多く引き寄せてしまったことで、利益を出しておらず、しかも市場を支配する企業があれば誰も競合してこないベゾスの発言には、全てを飲み込もうとする貪欲さを感じ、恐怖すら覚えます。

この破壊的な企業アマゾンの行く末を占う上で必読の好著です。

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アップル vs グーグル

★★★

副題に「どちらが世界を支配するのか」という非常に刺激的なタイトルがついていますが、中身は丹念な取材に基づいた良質なノンフィクションです。

世界最大の時価総額を誇るアップルと、そのアップルのiPhone/iPadの牙城に対して、オープンOS「アンドロイド」により攻め込んでいるグーグルという、スマートモバイル端末の雄2社の動向について詳細にまとめられています。

約20億台と全ての電化製品の中で桁違いの出荷数を誇る携帯電話は、グローバルでそのほとんどがスマートフォンに置き換えられつつありますが、両社はこの市場で激しく競合しています。そして、今やPCをしのぐ出荷台数となったタブレット端末においても、iPadの圧倒的な優位が徐々にグーグルにより崩されつつあります。

スティーブ・ジョブズがiPhone/iPadをどのように生み出したのかは、その歴史的なプレゼンを含めて多くの人々に認知されていますが、今やiPhoneを押しのけて全スマートフォンの80%を占めるまでになったグーグルのスマートフォンOS「アンドロイド」の開発の経緯はあまり知られていません。本書では、アンドロイドの父であるアンディ・ルービンを中心として多くのグーグル社員へのインタビューにより、検索エンジンが主力であったグーグルがいかにスマートフォン市場に事業を拡大してきたのかを明らかにしています。グーグルの敵方として描かれるスティーブ・ジョブズの強烈さも含めて、世界で最も規模が大きく、収益性が高いスマートフォン市場で両社がどのような思惑を持って戦ってきたのか、迫力あるビジネスストーリーに興奮させられます。

本書はまだiPadが優位性を保ちながらも、スマートフォン市場ではiPhoneの牙城が崩れつつあるという場面で終わりますが、その後は上記のようにアンドロイドOS端末がスマートフォン市場を席巻し、タブレットにおいてもアンドロイドOSの存在感は高まるばかりです。

さらには、そのアンドロイドOSの父であるアンディ・ルービンはロボット開発という新たな市場に転じています。IT業界、特にスマートモバイル市場の変化の速さには驚くばかりですが、その黎明期から成熟期までの流れを俯瞰するには格好の書籍です。

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グローバルリッチ

★★★

日本語版でも副題に「超格差の時代」とありますが、英語の原題は”Plutocrat (財閥、金権政治家)”と少しネガティブな表現が使われています。

本書はまず前半で、様々な定量的なデータから米国を中心として世界中で格差が拡大し、上位1%(特に上位1%のさらに上位1%)に、富や権力が集中してきており、その水準は歴史上に類を見ないレベルに達していることが描かれています。そして、後半ではそうした集中のメリット・デメリットがどのようなものか議論が進んでいきます。

日本でこのテーマを扱われるときは、そのほとんどがとてもネガティブなものとなっていますが、本書では、新興国で多くの人が貧困から抜け出し、世界のどこでも大きな成功を収めることが可能になっているなど、グローバル化・富の集中のプラスの面も書かれています。また、世界のトップに人気が集中するスーパースター現象など、格差が拡大する構造的要因についても言及されています。

ただ、このようなメリットを踏まえても、あまりに格差が拡大しすぎ、富の一極集中は社会の不安定化もまねく可能性があるという論旨が展開されています。ヒト・モノ・カネが国境を越えて自由に動く時代に、どの程度の再分配が妥当で、どのように再分配を行うのか考えさせられます。

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「エンタメ」の夜明け

★★★

週刊漫画誌「ビッグコミックスピリッツ」で30年以上にわたる長期連載「気まぐれコンセプト」で有名なクリエイター集団「ホイチョイ・プロダクションズ」の創設者が、日本にディズニーランドを誘致する経緯を細かなエピソード満載で解説しています。

本書の主要な登場人物は小谷正一氏と堀貞一郎氏、そしてウォルト・ディズニーです。ウォルト・ディズニーは万人が知っていますが、小谷氏と堀氏を知っている人は限られているでしょう。これは、両名ともプロデューサーたるもの裏方に徹するべきという信念があったからです。

しかし両名がいなければ、毎年3,000万人以上が訪れる巨大テーマパーク「東京ディズニーリゾート」は実現しなかったことが分かるでしょう。大正生まれで戦後の元気を失った日本を元気づけるために、大阪万博を含む数々の巨大イベントを手掛けた小谷。その薫陶を受けて、ディズニーランドを東京に誘致する陣頭に立った堀。

2人と身近に接していた著者の馬場氏でなければ書けない豊富なエピソードから、この両名が多くの人を喜ばせたいという純粋な思いにつき動かされて、不可能だと思われるプロジェクトの数々を成し遂げたことがよく分かります。

そして両名のスタイルが、ウォルト・ディズニーが大切にしていたものと同じであったことから、海外の諸都市を押しのけて東京が世界で最初のディズニーランドの設立地として選ばれたというストーリーがすんなりと入ってきます。

いつの時代も、大きなことを成し遂げるのは純粋で熱い思いに突き動かされた一握りの人間達であることに、会社を経営していくモチベーションが高まりました。前向きな思いを持ちたいビジネスマンにぜひ読んでほしい爽やかな快作です。

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ウォール街の物理学者

★★★

19世紀から現代までの100年以上に渡る、物理学者達の金融市場における活動が時系列で分かりやすくまとめられています。登場人物も類書によく登場するソープやマンデルブロなど著名な人物から、バシュリエ・オズボーン・ファーマー・パッカード・ソネットなど一般には知られていない人物まで多岐にわたります。

金融危機の元凶となったCDOなど複雑な金融商品とその背景になった金融工学、そしてこのトレンドを主導した数学・物理学にたけた金融業界の新たな職種クオンツは、昨今批判の対象となりがちです。しかし、本書ではどのような自然科学も、仮説構築と実験検証による理論化、そしてその理論では説明できない現象の登場による改良のサイクルで理論体系が磨きあげられ、金融工学の失敗もその途上にすぎないという主張が展開されています。

実際に、主流の金融工学とは異なったアプローチをとるソネットの複雑系を用いた金融モデルは、2008年の金融危機も正確に予想しているなど、金融工学の発展の方向性も示唆されています。また、金融業界で活躍する最も著名な数理物理学者であるジェームス・シモンズ率いるルネッサンス・テクノロジーズは金融危機が起きた2008年にもコスト差し引き後で80%以上というリターンを上げていることも、著者は自身の主張を裏付けるものとして引用しています。確かに、金融危機の要因となったからといって、物理学者を中心となって構築した金融工学の体系を全て否定するのは乱暴にすぎるという主張には同意できます。

ただ、冒頭にジェームス・シモンズに関する記述があったにもかかわらず、彼らがどのようなアプローチをとっているのかは本書で一切明らかにされません。歴史的な評価が定まった1980年代以前の記述は詳細ですが、現代の物理学者たちによる金融工学のアプローチは詳述されていないことも残念でした。

もちろん、最新の投資理論は各ヘッジファンドの競争力の源泉なので容易には分からないのでしょうが、もう少し新らしい時代の記述が詳しければ、歴史的な名著となったと考えられるだけに、その点のみ少し残念に感じました。

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マッキンゼー

★★★

知名度の割に実態を知る人が少なく、それゆえ謎の存在とされがちなコンサルティング・ファームの雄、マッキンゼーの創立当初から現在までの歴史を克明にまとめたノンフィクションです。

恥ずかしながら、私もマッキンゼーに4年ほど在籍していたにもかかわらず、知らないことばかりでした。創業者ジェームス・マッキンゼーから、マッキンゼーの思想体系を確立するとともに経営コンサルティングという職業をメジャーな存在にまで成長させたマービン・バウアー、グローバル化を進めたロン・ダニエル、退職後にインサイダー取引のスキャンダルにまみれたラジャ・グプタなど、各世代のマッキンゼーのトップの功績と人物像から、マッキンゼーがどのようにグローバルファームに登りつめたのかが解説されています。

私が在籍していた時のマネージング・ディレクター(マッキンゼーのトップのポジション)は、英国人のイアン・デービスでしたが、彼がどのような背景で就任したのかも本書で初めて知りました。現在のマッキンゼーはグローバルに1万人近くのコンサルタントを抱える巨大ファームとなっているので、社内の人間であっても、どのように組織が運営されているのかほとんど知る機会はありません。

本書の中で数ページに渡って大前研一さんについて記述されていますが、今でも上層部はほぼ欧米の白人男性に占められる組織の中で、アジア人としてここまで権勢をふるったことは他のグローバル企業を含めてほぼ例がないことだと思います。大前さんと直接仕事をした経験がある人のほとんどは、彼について非常に厳しい人物だったと話していますが、その強烈なキャラクターがなければこの偉業は達成できなかったと思います。

ただ、社内にいた人間は興味深く読めましたが、数字的な面ではどうしても投資銀行やファンドなどのルポの方がカラフルで、広く一般の読者も面白く読めるのではとも感じました。組織のトップでもあったグプタがヘッジファンドとのインサイドトレードにより、コンサルタントしてよりも大きな報酬を求めたというスキャンダルにまみれたマッキンゼーが、はるかに高い報酬を誇り、さらにコンサルタントのように黒子に徹する必要がないため、世の中へのインパクトでも分かりやすい魅力を持つ金融業界に、人材獲得の面でどのように対抗していくのかという現在直面している課題も、本書を通じてよく理解できました。

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