カテゴリー: ★★★★

ウォール街のアルゴリズム戦争

レベル3 ★★★★

以前にこのブログで紹介したマイケル・ルイスの「フラッシュ・ボーイズ」でその存在が広く世の中に知られるようになった超高速取引ですが、本書ではその実像にさらに深く切り込んでいます。著者はウォール・ストリート・ジャーナルで長く金融市場を担当していた人物で、前著にはこちらもこのブログで非常に高く評価した「クオンツ」があり、超高速取引の実態についてその黎明期からどのように発展してきたのかが詳細に解説されています。

「フラッシュ・ボーイズ」が超高速取引業者を顔の見えない悪者として、その悪者に対抗するブラッド・カツヤマを主人公に超高速取引業者を排除した新しい取引市場の設計という物語調の展開であったのに対して、本書はそもそも株式市場の電子取引を可能にしたプログラマーや、電子取引を高速化することで利益を得ようとしたヘッジファンドなど超高速取引業者という、超高速取引の担い手に焦点が当たっています。

金融関係者にとっては本書の方が「フラッシュ・ボーイズ」より読みごたえがあり、超高速取引の実像により迫ることができるでしょう。これまでほとんど取り上げられることのなかった、電子取引のプログラミングの天才ジョシュア・レヴィンが、現在の世界中の過半の取引所のシステムの基本設計を作り上げたというエピソードはとても印象的です。

「クオンツ」でも取り上げられた超高速取引で知られるルネッサンス・テクノロジーズやシタデルなどヘッジファンドに関する記述は著者の得意とするところだけあって詳細かつ迫力がありますし、これらファンドと比較してその実像がほとんど知られることのなかったゲッコーやバーチュといった超高速取引業者がどのように拡大してきたのかを知っておくことは、現在の金融市場の性質を理解する上で大変役立つでしょう。

本書の最後では機械学習など人工知能の技術も金融取引に動員されていることが紹介され、取引の超高速化、機械化がさらに進められていくだろうことが示されています。フラッシュクラッシュなどの急落や一般投資家との公平性などデメリットも目立ってきている超高速取引ですが、本書を通じてその理解が進み、より健全な形での発展につながるルール作りが行われることを期待しています。

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国家はなぜ衰退するのか

レベル3 ★★★★

欧米の経済学者の著作には、とてつもないデータに裏付けられた力作がありますが、本書もその1つです。紀元前から様々な国や地域の経済動向を例にとって、経済発展と衰退を引き起こす条件について解き明かしていきます。

著者が本書で繰り返し指摘していることは、経済に限らず政治や社会も含めた包括的な制度が整っていることが経済発展に不可欠ということです。地理的条件や植生・動物相、遺伝的な条件などが経済発展を生み出したとする、これまで世間でもてはやされてきた理論を、豊富な事例からばっさりと切り捨てています。

本書には投資に役立つインサイトも豊富に盛り込まれています。20世紀後半まで、欧米の経済学者の多くが、ソ連のGDPが米国のそれを凌駕すると予測していたことなどは、現在の新興国投資ブームを俯瞰する上で貴重な情報でしょう。本書では、中国の経済発展など直近の事象が持続可能なものとなるにはどのような変革が必要になってくるかも具体的に指摘しています。また、本書では日本が成功例として度々登場します。明治維新についても詳細に取り上げられており、欧米の経済学者の研究の対象範囲の広さに驚かされるでしょう。

1つ残念なのは本書のタイトルが「~衰退するのか」になっていることです。経済発展への希望よりも、衰退への恐怖が勝っている日本だからこそのタイトルでしょうが、本書の核心は経済発展を生む条件です。ぜひ、本書から日本人が衰退を避ける道ではなく、再び経済を発展させる条件について学び、実践してほしいと思います。

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市場は物理法則で動く

レベル3 ★★★★

これまでも伝統的な経済分析を否定し、経済や社会構造を物理法則で読み解くべきと繰り返してきた著者による最新作です。金融危機後に執筆されただけあって、金融市場に焦点を絞って従来の経済や金融分析の手法には致命的な欠点があることを強調しています。

その致命的な欠点は、金融市場は均衡するものだという前提で、それを裏付けるための精緻な数学モデルや理論は単なる自己満足にすぎないと切って捨てています。金融市場は、周期的に大きな災害を生み出す気候や地震などと似た振る舞いで、必然的にバブルや危機などが起きる構造になっているという主張が繰り返されています。

やはり、リーマンショックを契機とした金融危機はこの主張を裏付ける恰好のイベントで、リーマンショック以外にもクオンツ危機やフラッシュクラッシュなど様々な金融市場のイベントから、金融市場の物理法則に沿った振る舞いと、その構造についての物理的な理解が紹介されています。

既存の正規分布的な振る舞いを前提とした経済や金融工学では、リーマンショックのような大きな金融危機が説明できないことは、「ブラック・スワン」の著者ニコラス・タレブなどが繰り返してきましたが、本書ではさらに突っ込んでそのベキ分布的な振る舞いを生み出している構造を説明する理論や、危機を防ぐ対処法まで提案されています。

従来型の経済や金融工学の理論では、超高速取引が拡大している金融市場の実態は全く捉えられず、リーマンショックやフラッシュクラッシュを上回るような危機がいつ起きても不思議ではないという著者の懸念は正しいでしょう。本書で提案されているような金融機関がデリバティブ取引を介してどのようにネットワーク結合しているのかという、当局による金融市場の物理的な理解が進むことを期待しています。

一方、本書に金融危機として取り上げられているクオンツ危機のような事象への理解が深まり、リスクを減らすことは当のヘッジファンドにとっても有用ですから、市場の参加者からも本書にある金融市場において複雑系の物理学が有用であることの理解が広がることも望まれます。

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Work Rules

★★★★

今アップルと並んで世界でも最も注目される企業グーグルの人事担当の責任者による本です。この書評でもグーグルに関する本は色々と紹介してきましたが、ほとんどはグーグルの技術力やビジネスモデルの革新性に関するもので、人事についての本は初めて取り上げます。

本書を読んで最も強く感じることは、グーグルでは人事についても定量分析を非常に重視していることです。徹底した定量分析により効率的なデザインを吟味して使いやすいプロダクトを作りこんでいくように、社員の評価制度や福利厚生の仕組み、報酬決定のメカニズムも、科学的な実験プロセスにより最適化されていることが分かります。

グーグルの社内にはこうした統計分析やそのための情報システムに長けたエンジニアや科学者がたくさんいるので、新たな人事制度や福利厚生の仕組みを導入するときは、必ずそれをパイロット的に導入するグループと従来のままのグループを分けて、その効果を測定しています。同じような科学的な分析は、社員のパフォーマンスの差についての分析にも適応され、その差を計測するだけでなく、差を生んでいる要因の特定と、さらには効率的な改善策にまで踏み込んでいます。

グーグルの人事制度というと、高い報酬や無料で提供される食事や送迎サービスなどに目が行きがちですが、爆発的なリターンを上げている会社が気まぐれに大盤振る舞いをしているのではなく、このように精緻な分析に基づいてこうした制度が設計されていることが分かります。

そして、社内で長い期間をかけて練り上げた知見を本書で惜しみなく伝えていることは、グーグルーの本業におけるオープンソースの姿勢と共通するもので、企業イメージをさらに向上させるでしょう。グーグルはIT業界のビジネスや科学技術だけでなく、組織設計においてもオープンイノベーションを実現させそうです。

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イーロン・マスク 未来を創る男

★★★★

電気自動車(テスラ)/宇宙ロケット(スペースX)/太陽光発電(ソーラーシティ)と、民間企業が成功することが困難と考えられていた事業で、次々と世界的な成功をおさめ、スティーブ・ジョブズ亡き後にグローバルで最も注目されている起業家、イーロン・マスクの初めての公認伝記です。

マスクと同じペイパルマフィアのピーター・シールが「(21世紀に我々が期待していたのは)空飛ぶ自動車だったのに、手に入れたのは140文字(ツイッター)だった」と発言したように、金額的には急成長しているテック系のスタートアップも、技術的には革新性に乏しく、いかに広告のクリックレートをあげるのかなど、些末な技の巧拙を競っているだけだという声が、今のシリコンバレーを評して増えています。

その声に真っ向から反論するように、化石燃料への依存を抜本的に改善する電気自動車や太陽光発電、アポロ計画以来停滞している宇宙開発など、人類全体の課題解決に大きく資する骨太なトピックで次々とマスクは起業しています。そして、どの事業においても大成功を収めているマスクは、人類全体の可能性を感じさせてくれる稀有な存在です。マスクは南アフリカに生まれ、壮絶ないじめを経験しながらもたぐいまれな知的能力を発揮し、14歳の時に親族を頼って単身カナダに渡ります。その後、ペンシルバニア大学に進学し、スタンフォード大学の博士課程に進みますが、起業家となるためすぐに退学します。

兄弟と立ち上げた位置情報サービスの会社や、次に立ち上げたオンライン決済企業ペイパルの売却益で、数億ドルの資産を得ますが、マスクはそこで満足しません。学生時代から、人類の存続可能性を高めるために、輸送機器/宇宙開発/再生可能エネルギーの分野でのビジネスを手掛けたいと考えていて、その夢を形にするために上記の3社を起業します。骨太なトピックなだけに必要となる資金も膨大で、一時は破産寸前まで追い込まれながらも、なんとか成功に結び付けるプロセスは、本書に詳細な記述があり、その迫力に読み手としても震えました。

マスクを知る人は、彼のことを「ジョブズのセンスと、ゲイツの頭脳を合わせて、それをグレードアップした人物」と評しているようですが、ここまでの彼の歩みはそれを裏付けています。しかし、マスクは全く現状に満足しておらず、テスラでは世界にある全電池工場の生産キャパシティを1つの工場で上回るギガファクトリーという施設を立ち上げる予定ですし、スペースXでも宇宙ステーションへの荷物の運搬はあくまで1ステップで、最終的には火星への定期的な有人飛行を目的としています。

世界を巻き込みながら、自分の資産も時間もすべてをオールインして勝負し続けるマスクについて、ぜひ本書を通じて学んでみてください。

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40兆円の男たち

レベル3 ★★★★

投資家たちのノンフィクションを書かせれば、米国が圧倒的に世界一ですが、また素晴らしい著作が発表されました。原題は“The Alpha Masters”で、リスクを高めたことによるリターンであるベータではなく、リスクを増やさずに得られた超過リターン、アルファを生み出す天才投資家たちについての書籍です。投資家としてのキャリアパスから現在の投資戦略まで詳しく書かれています。

本書の秀逸なところは、紹介されている投資家たちがまさに今最も優れた実績を出している、油が乗り切っているヘッジファンド・マネージャーたちであることです。バフェットやソロスについてはこれまで多くの著作が発表されてきましたが、本書で紹介されている世界最大のヘッジファンド「ブリッジ・ウォーター」を率いるレイモンド・ダリオや、昨年のファンドマネージャー報酬ランキングで1位となったデービッド・テッパーなど、これまでほとんど書籍で紹介されてこなかった人物たちについて、投資家としてのキャラクターがイメージできるところまで深く踏み込んでいます。

ビル・アックマンやジム・チェイノスなど、空売りにおいても優れた手腕を示す投資家たちもきっちりと含まれていることは玄人好みでしょう。本書の著者は、自身もウォール街で働いた経験がある、金融メディアCNBCの人気番組のプロデューサーです。

本書で紹介されているデービッド・テッパーや、デービッド・アインホーンなど敏腕ヘッジファンド・マネージャーを番組に出演させた手腕で、投資戦略について語ることの少ない、現役ヘッジファンド・マネージャーから、アイディアの創出/検証方法や資産運用における心構えまで、大変参考になるコメントを数多く引き出しています。

本書は英語で3年前に出版されています。リアルタイムで書籍が読め、さらに連動する形のテレビ番組まで視聴できる米国人は恵まれていると言わざるをえません。1点残念なのは、原書の出版から3年近くたち多くの時間があったにも拘わらず、日本語訳に数値や単位の誤りがかなり見られることです。やはり、英語でこうした書籍を出版からすぐに読み込まなければならないと強く感じました。

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ジョナサン・アイブ

★★★★

iPhone6の販売が世界的に好調で、株価も史上最高値を更新し続けているアップルですが、その競争力の源泉と多く人が見ている、アップルのデザイン責任者ジョナサン・アイブのこれまで軌跡について、初めて網羅的にまとめられた著書です。

ジョナサン・アイブとも親交があり、IT業界への造詣が深いライターが著者なので、これまでほとんど知られていなかった、アイブがどのように今のような傑出したデザイナーとなったのか、生い立ちからキャリアステップ、アップルでの活動まで、時系列で分かりやすく紹介されています。

アイブの才能にはスティーブ・ジョブズもほれ込み、ジョブズが亡くなるまでの数年間、彼は奥さん以上の時間をアイブと過ごしたと言われています。iMac、iPod、iPhone、iPadとジョブズがアップルに復帰した1997年以降、アップルは次々と世界的ヒット商品を生み出し、現在は時価総額で世界最大の企業となっていますが、アップルのここ20年の主力商品のデザインには、常にアイブの貢献があったことが分かります。

ジョブズの後をついでアップルのCEOとなったティム・クックは、どちらかというと能吏タイプの経営者で、サプライチェーンマネジメントなどオペレーション周りを得意としているため、アップルをアップルたらしめている洗練されたデザインの商品群とサービスの提供には、クック以上にアイブが欠かせないと言えるでしょう。

銀細工の職人であった父親からデザインの魅力について学んだアイブは、英国というデザイン教育に優れた環境を活かして成長し、アップルでの成功により世界最高にして、最重要のデザイナーとなっています。

日本でも、徐々にデザイン思考といった言葉が広まっていますが、本書を読めば優れたデザインを生み出すために、並外れた個人の才能はもちろん、徹底して上質なものを追求するこだわり、多様なバックグラウンドからなるチームのハーモニー、さらには全社的にデザインに関する機能を尊重する雰囲気まで、ありとあらゆる努力と犠牲が必要となることが分かります。

デザインに興味がない人も、こんにちのアップルの成功の秘訣についても色々と示唆を与えてくれる好著ですから、ぜひ手に取ってみてください。

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マーケットの魔術師 エッセンシャル版

レベル3 ★★★★

これまで4冊の書籍が発表されてきた「マーケットの魔術師」シリーズから、特に重要な部分を抜き出した要約版です。私たちもマーケットの魔術師シリーズは4冊とも読んでいますが、合わせて2,000ページの大著ばかりですから、手元に電子版などで持っておくといつでも読み返せて便利に感じました。

本書では著名なヘッジファンド・マネージャーやトレーダーが、金融市場で成功する上で有用だと感じているルールが数多く紹介されています。金融市場の状況は時々刻々変わっていきますが、マーケットで成功するための法則は全く変わらないことが分かります。

書店やアマゾンを見ていると、「XXXでXXX億儲ける」といった即物的な本が多々見られますが、こうした本は役に立ったとしても、通用するケースは非常に限定的です。本書のルールはそのほとんどが人間の直観や本性に反するものなので、なかなか受けづらいかもしれませんが、だからこそこれらのルールを守れる人が数少ないマーケットの勝者となれると肝に銘じて下さい。

著者自身がマーケットで長く取引をしている人物で、著名投資家にも鋭く切り込んだ質問をしているため、凡庸なインタビューでは引き出せない鋭いフレーズが引き出されています。私自身、特に心に響いた文章を電子書籍でマークアップし、読後もその部分を繰り返し検索して読み返しています。金融市場は常に人の心を惑わすものですが、本書でそれと対峙する上でのスタイルを形成していってください。

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ピクサー流 創造するちから

★★★★

トイ・ストーリーでCGアニメという新しい境地を開いたピクサーの創業者エド・キャットムルが、自身のキャリアとピクサーのこれまでの歩みを振り返っています。ピクサーのアニメ映画は子供が好きなので、映画館や自宅でよく鑑賞しますが大人でも引き込まれる良作ばかりです。

エド・キャットムルは元々コンピュータサイエンスの科学者であるため、常にその文章は控えめで、ビジネス書にありがちな自分の体験の安易な一般化を避けようとする真摯な姿勢が貫かれています。ピクサーは元々スターウォーズの監督ジョージ・ルーカスの元でスタートし、その後スティーブ・ジョブズから出資を受け、トイ・ストーリーの監督として世界に名をはせたジョン・ラセターをディズニーから引き抜き、現在はディズニーの傘下にあると、エンタメ業界の大立者、巨大企業たちとともに事業を拡大してきました。

こうした人物・企業たちの知名度に本書の著者エド・キャットムルは隠れがちで、私自身本書を読むまで彼のことについて良く知りませんでしたが、本書を読むと彼なくして今日のピクサーがなかったことがよく分かります。キャットムルはまだCGがこの世に生まれたことから、いつかCGでアニメを作りたいという先駆的な夢を持っていました。そのころの夢を実現した後も、数多くの成功した作品をピクサーは生み続けていますが、その背景には優れた創造性に不可欠である自由闊達な議論を促す種々の工夫を、キャットムルがこれまで凝らしてきたことがあります。

ピクサーがディズニーに買収されたのちは、ディズニーのアニメ部門もキャットムルが率いていますが、過去の栄光にとらわれ優れた作品を生み出せなくなっていたディズニーを変革し、「アナと雪の女王」などの名作を再び創作できるようになったのかという物語は、ピクサーや直近のディズニーの映画と同じく一級品です。

エドの目から見たスティーブ・ジョブズ像も、これまでの数多くのジョブズにまつわる書籍のイメージと異なるもので、この章だけでも一読の価値はあります。創造性が必要とされるような仕事をしている人、そしてそのような環境を作りたい人は必読の良書です。

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How Google Works

★★★★

タイトルを見ると、よくあるグーグル本に見えます。グーグルやアップル、マッキンゼーなど世の中でビジョナリーとされる企業の働き方についてOBが解説する本は世の中に数多く出版されていますが、本書がその中で際立つのは執筆陣です。若い創業者2人のお目付け役として、長くグーグルのCEOを務めたエリック・シュミットをはじめ、どのようにグーグルという組織を活性化してきたのか、デザインした経営幹部たち自らが解説しています。

以前はマイクロソフト、最近ではアップルやフェイスブックがグーグルのライバルとしてよくあげられますが、こうしたエクセレントカンパニーであるライバルたちと比較しても、その創造性は一段高く評価できるでしょう。本業である検索事業と連動広告だけでなく、スマホのOSやマップサービス、メーラー、ブラウザなどでグローバルトップシェアとなり、まだ収益化はされていませんが車の自動運転や宇宙開発、ロボット、人工知能、バイオテクノロジーなど、21世紀のフロンティアと考えられる分野の多くで最先端を行っています。

興味深いのは、上記にあげた事業の多くが、トップダウンではなく社員の自発的な活動から生まれていることです。グーグルの働き方としては20%の時間を自分が決めたミッションに使えるルールが有名ですが、検索連動広告の改良やG-mailの開発などが、この20%ルールにより実現しました。

本書では自発的に創造的な仕事をする人材を「スマートクリエイティブ」と名付け、スマートクリエイティブたちがどうすれば気持ちよく働けるのか、グーグルのトップマネジメントが常に心を砕いていることが紹介されています。

20%ルールも、スマートクリエイティブ向けの施策の1つですが、本書で紹介される事例の多くが20世紀の企業経営では否定されてきた、もしくは考えもつかなかったようなモノばかりです。グーグルという世界屈指の人材を誇る企業だからこそ成功したと感じる人も多いでしょう。しかし、技術の革新によって変化が加速している現代において、ビジネスで成功するにはグーグルの働き方をまずは意識しておくだけでも価値があるでしょう。私たちも時間がかかりそうですが、本書で紹介されているような、そしていずれはさらに上回るような創造性を刺激する環境を自社に広めていきたいと考えています。

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Zero to One

★★★★

日本でも騒がれているので読んだ方も多いかもしれませんが、米国のスタートアップシーンの頂点に君臨しているペイパルマフィアのドン、ピーター・シール氏による起業論です。ただ、一般的なビジネス書とは異なり、起業や事業に関するノウハウを解説しているのではなく、シール氏の思想体系が幅広く展開されています。

ペイパルマフィアとは、フェイスブックに初期投資をして大富豪となったシール氏をはじめ、テスラ・モーター/Space Xの創業者イーロン・マスク氏、LinkedInの創業者リード・ホフマン氏、さらにはYou TubeやYelpの創業者など、米国の著名なスタートアップの立ち上げにことごとくオンライン決済会社ペイパルの創業メンバーが絡んでいることから名づけられた名称です。

このペイパルマフィアの中において、シール氏は多くのマフィアたちを相互に結びつけている最も重要な人物として知られています。スタンフォード大学で学びロースクールを出て、一流法律事務所に入社寸前まで行っていたシール氏がなぜ起業の世界に身を投じ、巨大な成功をおさめたのか、本書からその背景が浮かび上がってきます。

本書で展開されているシール氏の持論はほぼ全て世の中の常識と逆行しています。「独占は善だ」、「投資において分散は悪だ」、「リーンな起業は止めたほうがいい」、「キャリアアップの選択肢が多くとも意味がない」、「IT企業においても営業は技術者と同じくらい大切」などが主張の例ですが、ビジネススクールで教えられている、もしくは多くのベンチャー起業家が信じているのと真逆の内容です。しかし、シール氏自身が本書で展開されている思考にしたがって揺るぎのない成功実績をあげていることから、反論できません。

また、グーグルやフェイスブックなどうまく独占状態を作っている会社は自社の競合が多いことをアピールし、独占できていない会社は声高に独占状態を築いていることを叫ぶといった指摘も、直近のグーグル会長エリック・シュミット氏の「アマゾンが手ごわい強豪である」という発言などを見てもその通りでクスリと笑えますし、他にもこうした鋭い指摘が多々あるので、今後の経済記事を読む中で本書の内容を思い出すと示唆に富むでしょう。

もちろん、シール氏の主張は巨大な成功を目指す時に必要な発想で、広く一般的にあてはまるものではありません。しかし、タイトルにもあるように社会全体の成長には、0から1の非連続な飛躍が不可欠で、それを生みたいと願う人にはこれ以上参考になる書籍はないでしょう。最後に、本書を私は英語で読みましたが、シール氏のスマートさと歯切れの良さが存分に味わえるので、英語が苦手でない人はぜひ原書で読むことをオススメします。

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Makers

★★★★

本書の著者はIT情報誌「ワイアード」の編集長を長く務めたクリス・アンダーソン氏で、以前の著書「フリー」も大きな話題となりました。3Dプリンターなど製造装置や、モノづくりに関わるソフトウェアの高機能化・低価格化が進んだことで、20世紀の大量集約型製造業と対照的な、小規模でアドホックな製造業が21世紀に拡大していくこということが本書の主張です。

本書の重みを増しているのは、著者自身が長らく活躍したメディア業界から、ドローン製造会社の創業者と転身していることで、まさに本書の主張通りの選択をしていることです。娘を通わせているシンガポールのアメリカンスクールにも3Dプリンターが備えられていて、科学の授業で利用しているのを初めて見た時には驚きましたが、本書を読むと米国では人々のメイカー化がさらに進んでいることがよく分かります。

日本はもちろん、米国でも製造業の中国など発展途上国への流出は重要なトピックとなっていますが、本書ではそれほど悲観する必要がないとしています。今後はオンデマンドの製造需要の拡大に伴って、米国で繁栄を極めるソフトウェア産業と同じく製造業のかなりの部分も米国で十分勝負できるというのがその根拠です。

もちろん、iPhoneに代表される世界的にヒットするハードウェアは今後も出てくるでしょうが、eコマースが趣味のモノを取引するオークションや通販サイトから拡大したいように、個人ベースの小規模な製造業(メイカー)達も、本書の著者のように大手業者では相手にしないニッチな趣味のモノを製造すること頃から拡大していくのでしょう。

本書を読んで、子供と一緒にCADを勉強して、学校の3Dプリンターで何か作りたくなりました。本書の指摘通り、ビット(電気信号によるバーチャルな世界)の世界からアトム(原子でできた実世界)に個人のクリエイティビティを存分に発揮できる環境が広がってきていることにワクワクしています。

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