カテゴリー: 投資全般

科学の発見

★★★

ノーベル物理学賞受賞者であるスティーブン・ワインバーグ氏の著作というと、物理学の研究の最前線について解説したものと思う人も多いでしょうが、はるか紀元前からの科学研究についての歩みをまとめた科学史です。

そして、本書の冒頭にあるように、科学史をまとめる上で変則的な手法を用いています。それは、歴史について記述する際は時代ごとの常識に沿ってまとめるのが一般的であるのに対して、本書は現代科学の視点から古代を含めて科学研究について論評するというスタイルです。当然ながら、現代科学の常識に照らし合わせると古代はもちろん、ルネッサンス期の科学革命時代の研究も色々と瑕疵があります。そして、本書ではそうした瑕疵が遠慮なく指摘されています。

では、本書は当たり前と言える昔の科学研究の不備をあげつらうニヒルな内容で、読後感が悪いものかというと全くそうではありません。むしろ、厳密な歴史学の手法に沿った科学史よりも、本書の方が一般の読者にとっては時代ごとの科学研究のスタイルの差異が明確になって学びが大きいでしょう。

もちろん、科学史を専門とする人からは色々と言いたいことがあると思います。しかし、時代ごとの科学研究の前提を知らない一般読者からすると、古代ギリシャの科学研究は現代科学と全く異なっていてその成果について過大評価であるとか、ルネッサンス期においても科学と宗教が不可分な存在であったとか、率直な感想を持ちました。

客観性を保ち、普遍性を獲得している現代科学の洗練された手法が、いかに長い時間をかけて苦難の連続を乗り越えて奇跡的に得られたのか、本書を読むことで感動する人も多いでしょう。現代では当たり前すぎる存在となった科学の成り立ちについて知りたい方にはとてもオススメです。

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ロケット・ササキ

★★★

何年にもわたる紆余曲折を経て、台湾のホンハイに買収されることになったシャープですが、そのシャープが弱小メーカーから液晶を軸に大手電機メーカーにまで飛躍する礎を作った人物に焦点をあてたドキュメンタリーです。

その人物とは佐々木正氏で、御年101歳で今も健在です。佐々木氏は第2次大戦中に軍の兵器開発に従事するエンジニアでしたが、戦後にGHQからの命令で通信機器の開発に身を投じます。米国に渡って半導体を開発してノーベル物理学賞を受賞したウィリアム・ショックレー氏らと交流して、多くの功績を残します。佐々木氏の力量にほれ込んだシャープの創業者である早川徳次氏から猛烈な誘いを受けてまだ電器メーカーとして弱小だったシャープ(当時早川電機工業)に入社します。シャープでも電卓や液晶、太陽電池など、米国との太い人脈を活かしてシャープが総合電機メーカーとして躍進していく原動力となります。

ただ、佐々木氏の功績はシャープでの活動にとどまりません。本書でも紹介されているように、シャープのライバルだったソニーやパナソニックの創業者である井深大氏や松下幸之助氏にもアドバイスをしたり、はるか年下であるスティーブ・ジョブズ氏や孫正義氏のメンターとなったりもしました。

特に、孫氏に対しては創業期に個人保証で融資を受けられるようにまでしたり、まだ実績がほとんどないにもかかわらず研究開発費をシャープから出したりするなど、多大なサポートをして未だに孫氏は佐々木氏が居なければ今の成功はなかったと毎年感謝の席を設けているほどです。

佐々木氏のこの敵味方分け隔てなくサポートする姿勢は早川氏の姿勢に見習ったもので、「共創」というフレーズで本人はこのスタイルを表現しています。佐々木氏が去った後のシャープが凋落し、ついには海外企業に救済されまでに至ったことの背景には、この共創の精神の欠如があったと、本書を読んだ多くの人が感じるでしょう。

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ヤバすぎる経済学

★★★

本作は、「ヤバい経済学」、「超ヤバい経済学」がベストセラーとなった経済学者とジャーナリストのコンビの4作目にあたります。前2作では「中絶の容認が犯罪率を大きく下げること」、「テロリストの典型的な銀行口座の使い方」、「学力テストで大規模な不正が行われている証拠とその見つけ方」など、経済学が普通対象としないような分野も含めて深く切り込んで、直観に反する鮮やかな分析結果を突きつけるスタイルで人気を博しました。日本では八百長の証拠が見つかって大騒ぎになる前から、これまでの勝敗結果から見て明らかに大相撲で八百長が行われていると指摘していたが話題になりました。

本作でも、これまでの作品と同じく「人種がオンライン取引に与える影響」、「大災害の寄付額と報道時間との関係」、「環境のために車を使わず歩くことの無意味さ」など、タブーを一切恐れない分析が縦横無尽に展開されています。このように書くと、いい加減な人物が執筆していると思う人もいるかもしれませんが、著者のスティーヴ・レヴィットはノーベル経済学賞の登竜門ともいわれる、ジョン・ベイツ・クラーク・メダルも受賞した一流の研究者です。

経済学の固定観念を取っ払って、定量的な分析が可能であれば自分が関心を持ったどんな問題でも研究対象とするのがレヴィットのスタイルです。研究に必要とあれば、ギャングや高級コールガールなどアカデミアの人間が通常付き合わない人たちにも躊躇なくインタビューしますし、本書でもその内容が色々と紹介されています。レヴィットが徹底しているのは人間性や倫理観の欠如に社会問題の答えを求めないことです。先入観を排して、どんな人間でもインセンティブ構造に沿って行動するものだというビジョンにより、直観に反する斬新な分析結果を得ています。その点で、レヴィットが指摘した大相撲で八百長が生まれるインセンティブ構造の欠陥が未だ放置されていることは気になります。

注意が必要なのは、「ヤバい経済学」、「超ヤバい経済学」と異なって、本作は著者たちが運営するブログの中から反響が大きかったコラムをピックアップする形式で、前2作と比較してより雑多な小粒なコラムの集まりであることです。その点で原題では続編でないことが分かるタイトルとなっているにもかかわらず、ヤバいシリーズの最新作と錯覚させる邦題には感心しません。

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10億ドルを自力で稼いだ人は、何を考え、どう行動し、誰と仕事をしているのか

レベル3 ★★★

ファミリーオフィスという富裕層向けのビジネスを営んでいますが、本書のような金持ち本を読むことはほとんどありません。ほとんどの金持ち本の著者よりも富裕層と接していると自負しているからですが、本書は大手監査法人PWCがビリオネア(10億ドル以上の個人資産を保有)100人以上にインタビュー・アンケートをして作成した書籍なので手に取りました。

米国の経済誌フォーブスの調査によると2016年初頭のタイミングで、世界には1,800人以上のビリオネアが居ます。本書では、その中から富を築いた手段が公明正大で、かつ相続ではなく自力で資産を築いた人物を120人選び出して、取材をしています。

世間のビリオネアのイメージを壊す事実が色々と紹介されていて、興味深い内容に仕上がっています。ビリオネアというとITで一発あてた若者というイメージが強いでしょう。しかし、ほとんどのビリオネアは30代以降に成功のきっかけをつかみ、幾度か事業に失敗した後に成功しています。また、ビリオネアも一般の人も将来予測の能力はほぼ同じで、では何が成功の要因であるのかといった分析も面白く読みました。日本人ではユニクロの柳井氏が取り上げられています。

ビリオネアとのインタビューでは1度も電話や部下によるメモの回覧などの邪魔が入らなかったことから、自分の時間の使い方を完全にコントロールして集中できるようにしていることなど、実際にビリオネアを取材したからこそ得られるエピソードもふんだんに盛り込まれています。一方、いくつかの分析結果は後付けの色が濃く、最終章のあなたの会社にも居るビリオネアマインドを持った人物の育て方も少し無理があると感じました。

グローバル資本主義時代の究極のエリートと言えるビリオネアに関心がある人には一読の価値がある書籍です。

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NEXT WORLD

★★★

NHKスペシャルの未来技術についての番組内容を再編集した書籍です。本書のあとがきにもありますが、これまでNHKで未来技術について特集するときは、そのデメリットや既存の社会構造への影響などネガティブな面が強調されるきらいがありました。

しかし、本書は概ね未来技術の可能性に焦点を当ててポジティブなトーンでとらえています。技術的な内容だけでなく、起業家や科学者、エンジニアたちがどのようにその技術を社会で活用していこうと考えているのかについても良くまとまっています。

IT技術があまねく社会に浸透してきたことで、IOTやAI、バイオテクノロジーといったテックワードが経済誌や一般のニュースでも頻繁に使われるようになりましたが、その技術的な内容や社会にどのような影響があるのか応用面まで正しく理解できている人はまだ少ないでしょう。

本書にはこうしたこれからの数十年における技術革新のカギとなるようなキーワードが50ほど紹介されていますから、本書をざっと読んで理解すればメディアで触れるテックワードについての理解は飛躍的に高まるでしょう。

本書を読んで感じたことは、今後の主要技術のほとんどで米国企業が圧倒的に先行していることです。本書が10~20年前にまとめられれば、もっと日本企業やそこで活躍する日本人の存在感は大きかったでしょう。米国経済の独り勝ち、そしてその米国でも基礎技術を含めて技術革新の中心が大学や研究所から企業にシフトしていることも印象に残りました。

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ぼくらの仮説が世界をつくる

★★★

高校の同級生で、講談社で「ドラゴン桜」や「宇宙兄弟」など数々の大ヒット作を手掛けた後に独立して、エージェント会社のコルクを創業した佐渡島君の著作です。これまで、編集者としてコミックや小説を世に送り出す側であったため、佐渡島君が著書となった初めての作品です。

高校時代から文芸春秋に小説が掲載されるなど佐渡島君は異彩をはなっていましたがほとんど交流はありませんでした。お互い就職してから少しずつ会うようになり、お互いベンチャーの経営者となった今ではゴルフや講演会などでよく交流します。

彼と話していると何気ない会話の中にも鋭い示唆があって、とても刺激的です。本書は佐渡島君の過去の講演内容を編集者がまとめて、それに彼が加筆する形式をとっています。ですから、佐渡島君の鋭いものの見方と、それによってどのようなアクションが生まれたのかが豊富に盛り込まれていて、コンテンツを作ることに関わっている人はもちろん、どの業界で働く人にとっても色々と参考になるでしょう。

同級生で、かつ同じ起業家として活躍している佐渡島君は、私自身にとっても刺激をもらえる有難い存在です。本書でどのような思いで起業をして、今経営をしているのかはまさに我が意を得たりという内容で、初心を思い出させてくれました。佐渡島君がコルク創業後に初めて手掛けたコミック「インベスターZ」は、資産運用がテーマということもあり8巻巻末に私のインタビューを掲載してもらいました。

これからも色々とコラボしていけることを楽しみにしています。

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スーパーパワー

★★★

冷戦後、唯一の超大国となって久しい米国ですが、今後世界をリードしていく中でどのような政治的な立ち位置があり得るのか、大胆な予測とその的中率で知られる著名な政治学者イアン・ブレマーが3つの現実的な選択肢を提示して、議論が展開されています。

その3つの選択肢はできる限り対外的な軍事的干渉を制限して国内にリソースを集中する「独立するアメリカ」と、経済的効率性から外交政策を判断する「マネーボール」、さらには対外的に積極的な働きかけをする「必要不可欠なアメリカ」の3つです。

そして、著者が本書の結論部分で次期大統領に薦めるのが「独立するアメリカ」です。「マネーボール」には米国の国家としてのビジョンをお金で換算してしまうことのデメリットが大きいこと、そして「必要不可欠なアメリカ」は聞こえがいいものの、米国の世界的なプレゼンスをその地位までもっていくにはあまりに人的・経済的リスクが大きいことがマイナス要因として挙げられています。

上記2つの方針よりも、米国国内にリソースを集中することで、米国が理想とする国家のビジョンを体現することが、現在の米国のプレゼンスを踏まえた最も現実的かつ効率的なやり方であると著者は主張しています。次期大統領の最有力候補であるヒラリー・クリントンの外交施策に対する主張と共通するところが多く、著者の主張はとてもリアルに感じられました。

一方、同盟国である米国に安全保障の大部分をこれまで依存してきた日本にとっては「独立するアメリカ」という選択肢は厳しいモノでしょう。安全保障問題に関する老舗シンクタンクであるランド研究所からも、日中が尖閣諸島を巡って衝突した場合に米国は積極的な関与をせず、結果わずか5日で中国が勝つというレポートが先日出されましたが、これも「独立するアメリカ」の現実性と日本へのネガティブな影響を推測する上で大きな意味を持つ内容です。

米国の傘の下というこれまでの安全保障の前提が変化したときに、日本にどれだけ自前のリソースで安全保障問題に対する有効な手立てを打ち出せるのか、甚だ不安に感じます。

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なぜ専門家の為替予想は外れるのか

レベル3 ★★★

いやゆるFX本以外、為替についての書籍はあまりありませんが、本書は30年以上に渡って大手金融機関の一線で為替のトレーダーとして活躍してきた著者による本です。タイトルへの著者の回答は、「為替の相場の歴史が浅いから」というシンプルなものです。

数百年の価格推移の歴史がある株式や債券、不動産に対して、為替は本格的な変動相場に突入したのは1970年代以降の40年程であるという主張です。歴史が浅いために、PERやPBR、配当利回りのように定量的な割安・割高指標もあまりなく、トレーディングの一線でも勘に頼った取引が中心であるため、為替予測はそもそも困難だという主張には納得しました。

また、巷に出ている為替予測は、そもそも為替の本当のプロであるトレーダーからは全く参考にされていないということも繰り返し説明されています。著者はステートストリート銀行というカストディサービスで世界最大手の金融機関に努めていて、世界の大きな資金の流れを元にした社内の敏腕なクオンツ分析家たちによる予想の方がはるかに役立つという点にも納得です。

このようにプロですら、中々実態がつかめない為替の世界で個人投資家がレバレッジをかけて取引するFXの世界に絶対に足を踏み入れてはならないという著者の主張は、とても大切です。一部、ヘッジファンドのスキルをあまりに高く評価していたり、円キャリー取引の存在を否定したりと極端な主張もありますが、概ね個人投資家にも参考になる点が多い、為替についての貴重な好著といえるでしょう。

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世界の権力が寵愛した銀行

レベル3 ★★

ここ数年で米国のIRS(内国歳入庁)を中心として情報開示が進み、鉄の結束の象徴だったスイスの銀行の情報秘匿は大きく崩れましたが、本書はその崩壊の象徴的な事件の1つを扱っています。

HSBCのシステムエンジニアであった本書の著者は、モナコで生まれ育ちフランス/イタリアの両方の国籍を持ち、HSBCのプライベートバンキングで働くというユニークなバックグラウンドを持っています。モナコでとんでない大富豪があふれている世界と、フランスやイタリアの一般庶民が多くいる世界のギャップを常に見ながら育った著者は、以前から銀行システムについて懐疑的な視点を持っていました。

その視点が、HSBCで働く中で富裕層たちが世界中のタックスヘイブンを通じて脱税していることをとらえた時に、著者はプライベートバンキングの個人情報を取得してそれをフランス政府に持ち込むという行動につながりました。著者が開示した情報を元に、欧州主要国で脱税を摘発する動きが広がっています。一方、スイス当局は自国最大の産業である銀行の信頼性を傷つけた許しがたい犯罪者として著者を追い続けています。

確かに、そのプロセスはエキサイティングですが、全般的に本書に対しては失望感を持ちました。その理由としては著者の主張にどうしても首をかしげざるを得ない部分が多いからです。著者の主張の矛盾や反論については、冒頭や巻末で海外投資の第一人者である橘玲さんが解説していて、この記述は大きな助けとなります。

また、タイトルに反して著者の行動は本当の世界の権力者を追い詰める効果は持ちませんでした。せいぜい、小金持ちの脱税を暴いたくらいです。同時に、本書を読むとプライベートバンキングとは犯罪行為の温床のように映りますが、その理解もまたとても偏っています。

より広範でバランスの取れた視点からの、プライベートバンキングとタックスヘイブンについての問題提起が望まれます。

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あのバカにやらせてみよう

★★★

1990年代後半から2000年代初頭にかけてのITバブルにわく、渋谷を中心とした国内の起業家たちの様子がよくまとめられています。ジョホールで同じコンドに住む加藤さんに薦められて手に取りました。加藤さん自身も何度か本書に登場します。

当時から20年近くが経過していますが、本書に登場する中でも孫正義氏、南場智子氏、松本大氏、松山大河氏などは今でも同じポジションで活躍しています。ただ、裏を返すとこの20年でほとんどの起業家が一線を去ったことになります。

1990年前後のダイヤルQ2ブームで誕生した通信関連ベンチャーが、1995年のWindows95誕生とインターネット普及、2000年のiモード誕生により百花繚乱の様相を呈していくことが本書から分かります。私は2000年当時、大学生だったので起業家コミュニティのことをほとんど知らなかったので、この時代の雰囲気や起業家たちの関係性がよく分かりました。

本書が取り扱った時代の後も、2005年前後のライブドアを中心とした盛り上がりや、100億円以上の評価額の未上場企業が続々と誕生する現在など、定期的に起業の盛り上がりが日本で起きています。残念なのは語られている言葉が、「どうすればシリコンバレーのような起業が当たり前の世界を作れるか」、「米国とのベンチャー業界の差はどうしたら埋められるか」など、本書とほとんど変わらないことです。

本書の締めはiモードが爆発的に普及し始めたところで終わっています。日本初のグローバルITサービスが生まれるかもしれないという期待が語られていますが、結果的にサービスだけでなくソフト、ハードウェアまでアップルやグーグルに抑えられてしまった結果はあえて多くを語らなくともご存知でしょう。

今から10年後も、同じ言葉が繰り返し語られることのないように、再び盛り上がりを示している日本での起業ブームを本物の流れとしていかなくてはと感じました。

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不動産は「物語力」で再生する

レベル4 ★★★

日本へのインバウンド観光や投資が注目される中、円安により海外の主要都市より割安感が高まっている国内不動産への海外からの投資も増えてきています。ただ、そのほとんどは東京都心に集中していて、それ以外ではニセコなど一部のリゾート地に投資対象は限られています。

京都の何有荘という重要文化財にも認定されている庭園を有した邸宅が、3代目のオーナーにより荒れ果ててしまっていたところを再生し、最終的にオラクルの創業者ラリー・エリソンにクリスティーズのオークションを通じて売却することに成功した、奈良で不動産会社を営む川井徳子氏が著者です。

クリスティーズのオークションにおける初期価格は80億円でしたから、おそらくエリソンは100億円以上で何有荘を落札したと見られています。何有荘は元々南禅寺の敷地であったところに、明治初期に近代きっての庭師とされる小川治兵衛により作られ、歴史的価値に加えて立地や希少性に優れた物件ですからここまでの価格となりました。

ただ、その素材だけでは広くクリスティーズを通じてグローバルにその価値を訴求することはできず、川井氏の人並み外れた情熱により今の姿にまで昇華したからこそ、高い評価となったことが本書からよく分かります。川井氏の不動産の本質的価値を見抜く眼力が、その波乱万丈な人生を通じて培われただろうことも印象的でした。

日本のあちこちで、歴史的価値のある不動産が適切に管理されず、荒れ果てるままになっていますが、今や日本国内だけでなくグローバルに日本の歴史的価値がある物件に関心がある投資家は数多くいます。

川井氏のように物件の本質的価値を見抜いて、多大な労力をかけてその魅力を最大限に引き出し、グローバルに訴求することでエリソンのような日本文化を愛する大富豪が購入し、長きにわたって物件が魅力ある状態で維持されていくというケースがもっと増えていけば、インバウンド投資のトレンドが地方再生につながっていくでしょう。

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人の砂漠

★★★

このブログでは、基本的に資産運用やビジネスに関わる書籍しか取り扱いませんが、本書はかなり古いルポルタージュと異色です。本書を取り上げた理由は、「鼠たちの祭」という穀物の先物相場で世間をにぎわせた相場師たちについての短編が本書におさめられているからです。著者の沢木耕太郎氏はスポーツを中心としたルポルタージュに定評があり、スポーツ以外にもアジアを鉄道で旅した様子をまとめた「深夜特急」は、一時バックパッカーを中心としてカリスマ的な人気がありました。

「鼠たちの祭」には、1970年前後に世間をにぎわせた大物相場師たちが数多く登場します。現代ですら、日本においては投資家・ファンドマネージャーは異質な存在ですが、40年以上前ではいかに際物的存在であったかがよく分かります。ただ、それだけに純粋に相場を愛し、相場でしか生きられない男たちが集っていたことが分かります。当時とは金融市場の在り方も大きく変わっていますが、相場自体の人間の欲望と希望を表して鳴動するという本質は何ら変わっていないことも分かります。

この作品はシンガポールで交流している大物相場師から薦められたことがきっかけでした。本作品にも登場する相場師たちのことを良く知る人がいい作品だと薦めるだけあって、時代を超えて伝わってくる独特の迫力があります。「鼠たちの祭り」以外は、金融市場と何の関係もないですが、現代に通ずる社会の闇について考えさせられる作品ばかりです。本書で沢木氏の作品への関心が高まったので、まずは代表的な「敗れざる者」や「深夜特急」から読み進めていきたいと思います。

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