レベル3 ★★★★
これまでにも「ライアーズ・ポーカー」や「世紀の空売り」など優れたノンフィクションを数多く発表してきたマイケル・ルイスの最新作です。
まだ邦訳は出ていませんが、反響が非常に大きいようなので原書で読みました。本書の主題は超高速取引です。1,000分の1秒単位、最近では100万分の1秒単位で繰り広げられている超高速取引ですが、これまで広く一般に実態が知られることはありませんでした。
本書では、先物市場の中心であるシカゴと現物市場の中心であるニュージャージーを、一切の迂回がない完全な直線の光ファイバーの取引データ専用回線を敷設することで結び、片方の市場での取引データを誰よりも早くもう一つの市場に送ることで、いずれ来る注文を先回りして利ザヤを稼ぐなど、驚くべき手法で超高速取引業者がリターンを上げている実態が明らかにされています。
また、各投資銀行が開設している私設取引所ダークプールや新設の取引所が、取引データを一部の超高速取引業者に高額で開示しており、かつ超高速取引業者たちはこうしたデータを元に高確率でリターンを上げているということも明らかにしています。直近、バークレイズのダークプールでこうした不正が行われているか検察当局から検査が入り、閉鎖される見通しも出ていますがそのきっかけとなったのも本書です。
本書の主人公は、投資銀行で働いているときの経験から超高速取引による不正に気付き、こうした不正が行えない新しい取引所を解説すべく奮闘するブラッド・カツヤマ氏です。最終的には取引所開設にこぎつけ、既存業者からの色々な嫌がらせにあいながらも、大手機関投資家や投資銀行から評価され繁栄するというストーリーは、これまでのマイケル・ルイスの著作によく見られる、マイノリティがマジョリティの間違いをついて成功するという流れを踏襲しています。
ただ、「世紀の空売り」に比べると物語のスケールが小さく、かつ超高速取引の実態も深くまでは堀込まれていないため若干の不満も感じました。もちろん、議会での超高速取引業者の聴取にまで発展した本書の影響力は素晴らしいものですが、「世紀の空売り」があまりにも見事にサブプライム危機とそこからリターンを得た投資家を描いていたため、物語の規模や主人公の存在感がどうしても見劣りするように感じました。
いずれにしても、毎回著書が大きな社会的なインパクトを生むマイケル・ルイスの次回作が楽しみであることには間違いありません。