カテゴリー: ★★★★

フラッシュ・ボーイズ

レベル3 ★★★★

これまでにも「ライアーズ・ポーカー」や「世紀の空売り」など優れたノンフィクションを数多く発表してきたマイケル・ルイスの最新作です。

まだ邦訳は出ていませんが、反響が非常に大きいようなので原書で読みました。本書の主題は超高速取引です。1,000分の1秒単位、最近では100万分の1秒単位で繰り広げられている超高速取引ですが、これまで広く一般に実態が知られることはありませんでした。

本書では、先物市場の中心であるシカゴと現物市場の中心であるニュージャージーを、一切の迂回がない完全な直線の光ファイバーの取引データ専用回線を敷設することで結び、片方の市場での取引データを誰よりも早くもう一つの市場に送ることで、いずれ来る注文を先回りして利ザヤを稼ぐなど、驚くべき手法で超高速取引業者がリターンを上げている実態が明らかにされています。

また、各投資銀行が開設している私設取引所ダークプールや新設の取引所が、取引データを一部の超高速取引業者に高額で開示しており、かつ超高速取引業者たちはこうしたデータを元に高確率でリターンを上げているということも明らかにしています。直近、バークレイズのダークプールでこうした不正が行われているか検察当局から検査が入り、閉鎖される見通しも出ていますがそのきっかけとなったのも本書です。

本書の主人公は、投資銀行で働いているときの経験から超高速取引による不正に気付き、こうした不正が行えない新しい取引所を解説すべく奮闘するブラッド・カツヤマ氏です。最終的には取引所開設にこぎつけ、既存業者からの色々な嫌がらせにあいながらも、大手機関投資家や投資銀行から評価され繁栄するというストーリーは、これまでのマイケル・ルイスの著作によく見られる、マイノリティがマジョリティの間違いをついて成功するという流れを踏襲しています。

ただ、「世紀の空売り」に比べると物語のスケールが小さく、かつ超高速取引の実態も深くまでは堀込まれていないため若干の不満も感じました。もちろん、議会での超高速取引業者の聴取にまで発展した本書の影響力は素晴らしいものですが、「世紀の空売り」があまりにも見事にサブプライム危機とそこからリターンを得た投資家を描いていたため、物語の規模や主人公の存在感がどうしても見劣りするように感じました。

いずれにしても、毎回著書が大きな社会的なインパクトを生むマイケル・ルイスの次回作が楽しみであることには間違いありません。

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ツイッター創業物語

★★★★

2013年下旬に華々しく上場し、サービスの利用はもちろん投資対象としても世界中から注目を集めるツイッター社の創業経緯と、その後の権力闘争を克明にまとめた優れたノンフィクションです。

一般的にツイッターの創業者として知られるのはジャック・ドーシーですが、本書にはそれ以外の3名の創業者エヴァン・ウィリアムズ、ビズ・ストーン、ノア・グラスにも焦点があたっています。米国の経済ノンフィクションには、とてつもない労力をかけて膨大な取材を行ったうえで、さらにその内容を分かりやすくまとめた良書が年間数冊出てきますが、本書もその1つです。

とても内気な青年だったのにわずか数年でジョブズの後継者とも目されるカリスマ経営者と脱皮したジャック、ツイッターのアイディアを最初に思いついたにも拘わらず会社を追い出され株式もほとんどもらえなかったノア、ジャックの投資家も巻き込んだ血みどろの権力闘争を行ったエヴァン、そして独特の価値観を持つビズと、創業者4名ともが特異な個性を持つ人物だけに興味深いエピソードが次々に出てきます。

本書を読んで感じるのはツイッターが真のベンチャー的存在であることです。グーグルやフェイスブックが高学歴の創業者により始まり、社員もエリートぞろいであるのに対して、ツイッターの創業者や従業員はこうした企業では相手にされないような人物ばかりです。

そうした人物たちだからこそ、本書にあるようなカラフルな物語がつむぎだされたのでしょうし、そもそもツイッターというカテゴリ分けが難しい、でも圧倒的な人気を誇るサービスが生み出されたと感じました。本書は米国でも大きな話題を呼び、テレビドラマ化もされるようです。起業に少しでも関心のある人はぜひ読んでください。起業の魅力と恐ろしさ両面が心行くまで味わえます。

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伝説の投資家 バフェットの教え

レベル3 ★★★★

世の中にはバフェットを題名に使った本がかなりの数にのぼり、当然ながらその内容はピンキリです。私も10冊以上のいわゆるバフェット本を読んできましたが、本書はその中でも屈指の出来ばえです。

毎年1回、ウォーレン・バフェットが経営するバークシャー・ハサウェイの株主総会に向けて、彼自身が執筆する「株主への手紙」は大きな注目を集めますが、本書はその「株主への手紙」の編集者が執筆しています。ただ、執筆といっても著者が編集者を務めているフォーチュン誌に掲載されたバフェット関連の記事をトピックごとにまとめて、それに解説を加えるという形をとっています。

こう書くと、雑誌記事をまとめたものかと思われる方も居るでしょうが、フォーチュン誌が誇る練達の執筆陣による長編記事ばかりですし、50年近く前の記事から掲載されているので、各時代におけるバフェットの考えや周囲からの評価が時系列で追えるので非常に読み応えがあります。個人的には、ソロモン・ブラザーズの不祥事とバフェットが会長を務めて危機を脱する下りと、直近の篤志家としてのバフェットの活躍ぶりについての記述が興味深かったです。

いかなる人物も長期にわたってアクティブ運用で市場平均を上回ることができないという効率的市場仮説の反例としてバフェットが取り上げられた30年ほど前の記事も登場しますが、その後の彼の実績を見ても効率的市場仮説を擁護しようと思う人はほとんどいないでしょう。

本書を読んであらためて、「周りが悲観的な時に大胆になって、周りが楽観的な時に慎重になる」という投資の王道を長期にわたって継続することがいかに難しく、そして達成できれば途轍もない偉業につながるのかということを認識しました。凡事徹底こそ非凡への道ということですね。

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マネーの支配者

レベル3 ★★★★

本書はFRBのバーナンキ、ECBのトリシェ、イングランド銀行のキングの3人の中央銀行総裁に焦点をあて、金融危機の渦中から中央銀行がどのような行動をとり、何とか危機を脱っすることができたのかという経緯が克明にまとめられています。リーマンショック以降の金融市場において、中央銀行の政策は企業業績以上に株価に影響を与えてきましたが、意外に中央銀行の意思決定がどのように行われてきたのかについては知られていません。総裁たちが局面局面において、どのような思いを持っており、何をよりどころに意思決定を下してきたのかを知ることは、中央銀行の振る舞いを今後予測していくことに役立ち、中央銀行の施策に大きく左右される金融市場のメカニズムを理解することにつながります。

本書の原題はThe Alchemists(錬金術師たち)で、量的緩和や財政政策への関与など金融危機前は中央銀行において禁じ手とされてきた手段も用いるようになった、現在の中央銀行総裁達の実態を皮肉も含めてよく表した秀逸なタイトルです。一応、中央銀行がそもそもうまれるきっかけとなった17世紀のスウェーデンから解説は始まりますが、本書の白眉はなんといっても金融危機以降の記述です。

中央銀行総裁達を対象とした本書の性格上、中央銀行が金融危機以降果たした役割が誇張されている傾向があると考えられますが、そうした面を割り引いたとしても、FRBのバーナンキ議長を中心として中央銀行のトップたちが果敢な策をとったことが、危機からわずか5年で主要国のかなりの国々で史上最高値を株価が更新するまでに、金融市場を回復させたことがよく分かります。

バーナンキ議長だけでなく、日本ではあまり動向が報じられなかったECBのトリシェやイングランド銀行のキングがどのような意思決定を行い、間違いもありながらなんとか欧州の金融市場と経済を軌道に戻してきたのかについての記述は、事後となった今でもハラハラさせられます。

本書の中心登場人物である3名は、すでに全員後進に道を譲っています。金融危機の記憶も薄くなりつつある今だからこそ、本書により金融危機とその後の金融政策の流れを理解しておくことの意味は大きいでしょう。現代社会において最大級のベールに包まれた中央銀行の実態に肉薄している名著です。

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アップル 驚異のエクスペリエンス

★★★★

日本とシンガポールを行き来する生活の為に、日本で最近発売が始まったSIMフリーのiPhone5Sに先日機種変更をしました。銀座のアップルショップで購入したのですが、いつもながら素早く親切な対応に感動しました。

本書は、これまで「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼンテーション」、「スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション」というアップル本がどちらも世界的なベストセラーになったカーマイン・ガロ氏のアップル本の第3弾です。

アップルショップは一般的な小売店の10倍も、単位面積あたりの売上がありますが、その秘訣を利用者のコメントをもとに詳細に明かしてくれます。アップルの新製品が、iPodやiPhone、iPadも発売当初は売れないと批判を浴びたように、アップルショップの構想も評論家から酷評されました。しかし、アップルショップは大成功をおさめ、ニューヨークの5番街やセントラル駅の基幹店は、海外からも多くの顧客が殺到しています。

アップルショップの運営方法は全てが小売りの常識に反するものです。店員に販売ノルマはなく、店舗の設計も天井がとても高く、商品の陳列も何も置かれていない余白が非常にゆったりとしていて空間効率が悪いため、アップルショップがスタートした当初、評論家たちが巨額の赤字を出して閉店に追い込まれるとしたのも理解できます。

スティーブ・ジョブズはハードウェアだけでなく、小売り店舗でもイノベーションにより常識を覆しました。アップルショップの原動力はスタッフの質の高さにあります。アップル製品を購入しようとした人はもちろん、製品が故障して修理に向かった人も多くが笑顔で帰るアップルショップのサービスは、モチベーションが高いスタッフにより支えられています。

どのようにモチベーションを高く保っているのか、アップルショップのスタッフは売上でなく何を目標としているのか、そしてサービスで顧客を喜ばせる秘訣まで、具体的なポイントにまとめられているので、小売りビジネスに従事している人はもちろん、全ての職種のビジネスマンに参考となります。

アップルショップのモデルを設計する際に、ジョブズ達は他の競合小売り企業ではなく、フォーシーズンズやリッツカールトンといった高級ホテルやフェデックスなど、他の業種のサービスを参考にしました。私達も、アップルとは全く違った業種ですが、本書を参考にサービスのクオリティを高めていきたいと奮い立たされました。

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ジェフ・ベゾス 果てなき野望

★★★★

もはやこの会社がなくては日々の生活もままならないという人が日本にも多いアマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスの初めての公認伝記です。

私自身の生活にもアマゾンは欠かせません。書籍だけでなく、食品・飲料などの生活用品もほぼ全てアマゾンで購入していますし、最近ではiPad上のKindleアプリで本や漫画を読むようになったので、日常的な支出の過半はアマゾンを通じて購入しています。都心ですと、その日のうちに商品が届くことも多いですし、不在にしていたとしても宅配ボックスに商品をいれておいてもらえるので、帰宅時にまとめて受け取れます。

アマゾンは創業から20年未満で、世界最大のオンライン小売り企業となり、オンラインの世界だけでなくウォルマートなどリアルな店舗を持つ小売りチェーンも含めて、世界最大の時価総額となることも視野に入ってきます。

この急成長を成し遂げた最大の要因として創業者ジェフ・ベゾスの存在があることが本書を読むとよく分かります。他のIT企業の創業者と異なって、世界的なヘッジファンドDEショーのやり手社員として、金融業界のエリートであったベゾスですが、ありとあらゆるモノをネットにより購入できる「エブリシング・ストア」を夢見て、金融業界での高報酬と地位を捨ててアマゾンを創業します。

徹底したユーザー志向により、創業期の巨大な赤字やITバブル崩壊をしのぎ、最近では米国の都市部で生鮮食品の販売も始め、無人ヘリロボットによる30分以内の宅配計画も発表するなど、今や創業した時の夢であった「エブリシング・ストア」に近付きつつあります。

米国のメディアの中では、その壮大なビジョンとそれを具現化する手腕、そして容赦ない過酷なコミュニケーションスタイルから、ベゾスこそスティーブ・ジョブズを継ぐものだとする記事も増えてきています。

経営者という視点からも、稼いだ資金をほぼ全て成長の為の投資に回して、赤字すれすれを20年近く継続し、しかしそのスタイルが投資家からも評価され、高い時価総額を誇るというアマゾンのスタイルは特異で目を引きます。スティーブ・ジョブズのミスは、iPhoneを高収益のビジネスとしたことで競合を多く引き寄せてしまったことで、利益を出しておらず、しかも市場を支配する企業があれば誰も競合してこないベゾスの発言には、全てを飲み込もうとする貪欲さを感じ、恐怖すら覚えます。

この破壊的な企業アマゾンの行く末を占う上で必読の好著です。

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フォーシーズンズ

★★★★

今や誰もが認める世界最高のホテルブランドであるフォーシーズンズ・ホテルの創業者イサドア・シャープの公認自伝です。フォーシーズンズ・ホテルは他の高級ホテルブランドの多くと異なり、イサドア・シャープが1代で作り上げたものです。この事実はイサドア・シャープがメディアにほとんど登場しないこともあり、世の中ではあまり知られていません。

イサドア・シャープはカナダの貧しい家庭に育ち大学にも通っていません。社会に出て最初は大工として建設現場で働く所からスタートします。そこで建築に対する知識を身につけ、30歳になって初めて奥さんと欧州に旅行に出かけた時に滞在したホテルの素晴らしさに感動して、ホテルビジネスを自分でやりたいと決意します。

近所によい条件の物件を見つけますが、ホテルビジネスと関わったことのないシャープは、融資を多くの人から断られます。何とか熱意にほだされて資金を出してくれる人を見つけ、最初のホテルを手掛けますが、そのホテルはなんとモーテルです。最初のフォーシーズンズ・ホテルがモーテルであったことを知っている人も少ないでしょう。

ただ、モーテルであってもできる限りの工夫をして、評判を呼び徐々に大型ホテルを手掛け始めます。米国に進出してしばらくしてから、今の中規模で超高級ラインのみに絞ったホテルブランドというスタイルを確立し、その圧倒的なハード・ソフト両面の質の高さから、グローバルで高い評価を得て現在の地位にまで上り詰めます。

若い大工がホテルを手掛けること、モーテルから大規模ホテル運営に乗り出すこと、世界で最も競争が激しい米国市場にカナダから参入すること、高級ラインに絞ったホテル運営をすること、世界中にホテルチェーンを拡大することなどこのシャープの取り組みはどれをとっても専門家から手をつける前に酷評され、実現不可能と嘲笑されたものばかりでした。そして、これら全て不可能であると思われたことを成し遂げた偉業が、シャープ本人の人柄そのもののように、飾ることなく淡々とした筆致で描写されていきます。

今では株主にビル・ゲイツとアル・ワリード王子を迎えて、資金面でも盤石の態勢を整えたフォーシーズンズ・ホテルが今後どこまで発展していくのかワクワクさせられます。本人の情熱があればどんなことでも成し遂げられると多くの人の心を奮い立たせてくれる好著です。

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Lean in

★★★★

世界で最も影響力のある女性の1人とされるフェイスブックのCOOシェリル・サンドバーグによる本書は、世界中の女性に対してもっと野心的になるべきだというメッセージで一貫されています。

Lean inとは一歩踏み出すという意味で、女性が遠慮を捨ててキャリアと結婚や子育てなど家庭生活の両立を目指していくべきというサンドバーグのメッセージをよく表しています。ただ、いわゆるフェミニズムの内容の本が苦手という人や男性にとっては、敬遠されがちな内容に聞こえるかもしれません。

私自身、女性論に関する本は一切呼んだことがありませんでしたが、最も関心のある企業の一つであるフェイスブックの経営者の本ということで手に取りました。私達は夫婦で起業していることもあり、仕事はもちろん家事の多くも分担しています。限られたリソースで効率よくビジネスを行うために、女性を活用すべきという理念からではなく、当たり前のように夫婦で協業してきましたが、本書を読むとこれからはほとんどの国において女性が仕事をしやすい環境を作ることが重要になっていくことがわかります。

本書は世界中でベストセラーとなりましたが、賛否は大きく分かれています。内容を素直に称賛する声がある一方、能力の点でも資産の点でもサンドバーグはあまりに特異な例で、多くの女性には参考にならないという声もあります。しかし、これまでの社会通念に過度にしばられることなく、女性が自己実現をなしとげるチャンスを増やしていかなければならないという思いを、女性に加えて私を含む男性にも持たせただけで、本書の果たした役割は非常に大きいでしょう。

本書は、様々なデータで女性の社会進出の状況を解説していますが、先進国の中で最悪の例として日本が頻繁に取り上げられています。先進国の中でも最も厳しい少子高齢化に直面する日本にとって、女性が生き生きと自分の野心を達成できるような社会にしていくことは非常に大切です。キャリアと家庭生活のバランスについてどうあるべきか悩んでいる女性だけではなく、そうした女性をサポートできるように男性にもぜひ読んでほしい好著です。

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グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ

★★★★

ロックバンドをテーマにマーケティングを語るという本書は、内容も型破りですが装丁もフォントも風変りです。食わず嫌いで手に取らない人も多いかもしれませんが、非常に優れた内容で、3時間ほどで一気に読んでしまいました。

そもそも、私はグレイトフル・デッドについて、名前は聞いたことがある位で曲も聞いたことがありません。また、これまでマーケティングをメインテーマとしたビジネス書も読んだこともありませんでした。そんな本書と縁遠い私が、この本を読んだきっかけはフェイスブック上の友人たちが何人も絶賛していたからです。

日本きってのクリエイターである糸井重里さんが、英語の原書を読んで惚れ込んで出版を提案したようですが、さすが素晴らしい目利きで、創造力を刺激するエピソードがちりばめられています。グレイトフル・デッドはレコードの売上を重視する普通のバンドとは異なって、ライブに来て時間を共にすることを最も重視しています。商業的に利用しないのであれば、ライブを録音することも認めています。

フリーコンテンツをうまく使って認知度を一気にあげて、ロイヤリティが高い顧客を有料コンテンツへと誘導して、収益性を高めていくことは現在では珍しくありませんが、そのことを何十年も前から実践していたとして、グレイトフル・デッドのスタイルをお手本に、様々な最新のビジネス戦略の要諦がテンポよく解説されていきます。

本書の著者2人も、グレイトフル・デッドをこよなく愛するデッドヘッズの一員ですが、バンドへの愛もひしひしと伝わってきます。SNSでの口コミという、グレイトフル・デッドが実践していたオープンなマーケティングスタイルの最新形態がきっかけとなって、私が読むことになったこと自体も、グレイトフル・デッドスタイルがメジャーになってきた証拠です。

マーケティングだけではなく、ビジネスの様々な意思決定のヒントになる材料がたくさんありますから、起業家にはぜひ読んでほしいと思いました。ビジネス教育を全く受けたことがないバンドマンが、アーティストならではの感性で時代を大きく先取りしていたことが痛快です。

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ぼくとビル・ゲイツとマイクロソフト

★★★★

本書の原題は”Idea Man”ですが、日本では著者のポール・アレンの知名度が高くない為に全く異なったものとなっています。原題と日本語のタイトルが大幅に異なるときは、違和感があるものも多くありますが本書のタイトルは内容をよく表していて秀逸です。

ポール・アレンはビル・ゲイツと共に大学生の時にマイクロソフトを創業し、ミニコン向けの言語の開発からIBM PC向けのOSの開発まで、マイクロソフトが世界的な企業へと飛躍していく礎を、ビル・ゲイツと共に築きました。

本書の前半はポール・アレンの生い立ちとマイクロソフト時代について割かれています。彼が世界的企業を創業できた要因として、中学時代から当時まだ珍しかったコンピュータを使える環境にあったことと、同級生に極めて優秀なプログラマーにしてビジネスマンであるビル・ゲイツがいたことが大きかったことが良く分かります。子供時代を過ごす環境の大切さを再認識しました。

彼は30歳を前にして大病をしたことで、マイクロソフトでのビジネスを続けることに疑問を持ち始め、超負けず嫌いで激しい性格のビル・ゲイツとの確執も深刻化したことでマイクロソフトを退職します。ただ、マイクロソフトの20%以上の株式を持ち続けたことで世界的な大富豪となり、NBA・NFLチームのオーナーとなったり、90年代に高速通信システムの構築を目指すベンチャーに投資したりと様々なことに私財を投じます。

本書の後半は、こうした現代の大富豪が成し遂げられる道楽大全集の様相となっていて、上記以外にも世界屈指の脳研究所を設立したり、同じく世界屈指の大きさのヨットを建造して世界中を旅したりと、アメリカンドリームをそのまま1人の人生にまとめたようなエピソードの連続です。

直近に再び大病に罹ってしまったときにビル・ゲイツが頻繁にアレンの下を訪れるというシーンには、ゲイツの悪の帝王というイメージが少し変わりました。アレンは様々なことに私財を投じていますが、最も資金を使っているのは自分が生まれ育ったシアトル近郊のコミュニティへの寄付です。米国社会は成功者をヒーローとして素直に称賛して、社会全体を豊かにする振る舞いへと自然に導いていることはやはり素晴らしいと感じました。

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不格好経営

★★★★

DeNAを創業し、わずか10年強で日本を代表するIT企業に育て上げた南波さんの初めての著作です。著者は、私にとってマッキンゼーのコンサルタント、起業家としての大先輩ですが、接点は講演会で何度か話を聞いただけに留まります。

本書を読んで、彼女がDeNAの成長とともに雰囲気も含めて大きく変わったと感じたのは、接点の少なさからくる勘違いかもしれません。話を聞いた時には、とても明るく闊達な方で、ぐいぐいと周囲を引っ張るエネルギーに満ちた人だと感じました。

それが、本書のほとんどが周囲の人へのてらいのない感謝の言葉からなるのを読んで、周囲の力を全て引き出しながら重要な局面のみきちんとジャッジメントをする懐の深い経営者であると感じました。

女性のIT起業家であるだけでも日本では非常に珍しいですが、創業した会社を東証一部上場に導き、グローバル展開も積極的に行っており、会社の勢いが最高潮の時に、配偶者の病気により社長を退任するという彼女の物語は稀有のモノです。

でも、そのカラフルなドラマが彼女の素朴な文章で、すっと心に入ってきました。私にとって本書は起業してから読んだ経営者による本の中で、屈指の影響があるモノとなりました。起業家としてはまだ足元にも及びませんが、彼女のような姿勢を徐々にでも身につけていきたいと思います。

女性の社会進出が声高に日本でも叫ばれていますが、南波さんのような自然体で起業やビジネスで成功されることがでてくることが、社会がジェンダーフリーの点で成熟していく一番近道であるとも感じました。

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Yコンビネーター

★★★★

ベンチャー企業に資金を提供するベンチャー・キャピタルという存在は日本でもメジャーになってきていますが、本書はさらに初期段階にある企業に資金提供をするアクセラレーターに焦点をあてたノンフィクションです。

米国には数多くのアクセラレーターが出てきていますが、その中でも最も成功しているファームが本書の取材対象であるYコンビネーター(YC)です。YCは、企業価値が約50億ドル(約5,100億円)とされるドロップボックスや、同じく約25億ドル(約2,600億円)とされるAirbnbがまだ創業者のみだったタイミングで、投資を行っていたことで注目を集めています。

本書の著者は社内のあらゆるところへのアクセスを許可されたことで、世界で初めてYCが起業家をどのように評価し成長させていくのか、その全貌が明らかになりました。YCは年2回(夏・冬)の3ヵ月間、数十社の企業をシリコンバレーに集めて、YCの創業者ポール・グレアムをはじめ、ほとんどが起業家として成功した経験を持つパートナー陣により、濃密な指導を行うという形態をとっています。3ヵ月の最終日はデモ・デーと言われる全社一斉プレゼンで、そこに集まった数百の著名投資家達に自社の魅力を訴え、資金提供の交渉を行うことでプログラムは終了します。後は、各企業が獲得した資金により、それぞれの本拠地に戻って事業運営をするという、YCは起業家たちのための合宿のような存在です。

DropboxやAirbnbの成功でYCは広く知られるようになり、今や各学期に数千の企業が応募し、その中でわずか数パーセントのみが参加を認められます。各社は150~200万円の少額をYCから提供され、株式の6~7%をYCの持ち分とするところからスタートします。ただ、最近ではYCのプログラムに選ばれたと言うだけで、一定の評価を得たと見なされ、著名なベンチャーキャピタルから数千万円の資金提供を受けられるようです。

もちろん、これだけの資金が提供されるからといって必ず成功できるわけではなく、3ヵ月にわたって起業家たちが厳しいアドバイスを受けながら必死に努力する姿が克明に描かれています。シリコンバレーのように、プログラミングと経営それぞれに秀でた起業家チームに、助言を与えるアドバイザー、そして投資家が一定以上の密度で集積していることが、ベンチャー企業が次々と爆発的に成長していくために不可欠であることがよく分かります。起業を考える全世界の若者にとって必読の好著です。

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