アルゴリズムが世界を支配する

レベル3 ★★★

タイトルを見ると近年の人工知能ブームにあやかった本のように見えますが、本書の出版は4年前で時代を先取りしていたことが分かります。本書が興味深いのは、アルゴリズムがどのように世界を変えているのかテクノロジーの観点から分析しているだけでなく、その担い手であるエンジニアの動向にも焦点をあてていることです。

本書の前半はアルゴリズムによる自動化がいち早く取り入れられた金融業界にフォーカスしています。金融業界では40年以上前からコンピュータによる取引の自動化が行われていて、そこからテクノロジーの発展とともにどのようにアルゴリズムの活用が拡大してきたのか、金融業界の記述だけでも普通の本1冊に匹敵するほど詳細に紹介がされています。

しかし、リーマンショックによって、コンピュータサイエンスのエンジニアがウォール街を敬遠するようになって、グーグルやフェイスブックに代表されるシリコンバレーのテック企業を目指すようになり、これらの業界でどのようにアルゴリズムが活用され高度な分析が行われているかに話が進みます。

本書が出版されて4年が経過したことで、音声や画像の認識、さらには自然言語処理など高度なアルゴリズムはますます生活の中に浸透してきています。本書の内容と現状との差分を把握することで、今後のアルゴリズムの発展の方向性について、色々な手掛かりを与えてくれます。

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スティーブ・ジョブズ 無謀な男が真のリーダーになるまで

★★★★

ウォルター・アイザックソン氏による公認伝記が出版されてから5年が経過しましたが、スティーブ・ジョブズ氏と長く付き合いのあったビジネス誌のライターによる新たな伝記です。アイザックソン氏の伝記は世界中で大ベストセラーとなりましたが、その内容については出版直後から賛否両論が巻き起こりました。特に、ジョブズ氏と親交が深かった周囲の人からの評判はあまり芳しくありませんでした。

アイザックソン氏はジョブズ氏からのリクエストで、人生の最後の3年間において密着取材をして公認伝記を書き上げました。ジョブズ氏を良く知る周囲の人にも多くの取材をしたようですが、どうしても昔からの知り合いではないために、「現実歪曲フィールド」に代表されるジョブズ氏のエキセントリックなところを強調した表現が前面に出ていて、そのことが親しい人にとってはジョブズ氏の良い面を消してしまっていると感じたようです。

その点で本書は、ジョブズ氏がアップルを創業して追放される前からインタビューをしたことがあり、ジョブズ氏からの信頼を得て彼の人生の重要な局面を常に取材をしてきた2人による作品であるので、昔はエキセントリックであったジョブズ氏が多くの苦難を乗り越える中でどのように成熟してきたのか、その軌跡が詳細にまとめられています。

アイザックソン氏が描くジョブズ像では、アップル復帰後に多くの才能を束ねてアップルを世界一の企業に押し上げることは不可能だったでしょう。もちろん、ジョブズ氏のリアルな振る舞いを知っている著者による作品だけに、人生の最終局面においてもジョブズ氏が人格上の色々な問題を抱えていたことはきちんと指摘されています。

それでも、相手のことを思いやる優しさをきちんとジョブズ氏が育んできたからこそ、アップル復帰後にあそこまでの成功をおさめられたことが、本書によりよく分かりました。ビジネスマンとしては、公認伝記よりも一人の偉大な起業家の成長の軌跡がよりリアルに分かるこちらの著作の方が、参考になる部分が多かったと感じました。

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ビッグデータの残酷な現実

★★★

日本でも浸透しきった感のあるビッグデータというフレーズですが、本書はハーバード大学の数学科を卒業して米国で大手出会い系サイトを創業した人物という、まさにビッグデータの専門家による作品です。データ分析により社会の様々な側面がどこまで定量的に把握できるようになったのかについて、具体例を多く交えながら解説されています。

出会い系サイトの創業者で、数千万人の会員の個人情報に基づいて、太古の昔から人間が関心を持っていた「ルックスがどれほど恋愛的な魅力につながるか」、「人種により異性への印象はどれほど変わるか」、「同性愛者など性的マイノリティはどれほど存在するか」など、恋愛にまつわる様々なトピックについて、結果がすばりまとめられています。

著者はデータ分析の専門家なので、後半では恋愛に関するトピックだけでなく、政治的な意見や知能レベル、反社会的な行動をとるリスクなど人間の振る舞いの様々な側面について、ビッグデータ時代ではデータ分析だけで、かなり事実に肉薄できることについても解説されています。

SNSがあまねく世界に浸透し、オンラインでのコミュニケーションがますます活発化する中、積極的に情報発信をしていなくても、ただWebやSNSを閲覧しているだけで、個人の様々な特性が高確度で推測できることは十分に認識していたつもりですが、本書の分析の多くはその認識を上回り怖さも覚えます。

情報のシェアが進む中で、もちろん良い面だけでなく悪い面もありながらも、こうしたトレンドを追い風に自分のプレゼンスをどんどん上げて行ける人とそうでない人との格差も、どんどん進んでいくだろうなという感想も持ちました。

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ビッグデータと人工知能

★★★

またまた人工知能の本を取り上げますが、ここまで紹介してきた一連の人工知能本と本書は趣が異なります。それは、ここまでの本が人工知能の進化の凄さと将来の可能性にフォーカスしているのに対して、本書は安易な人工知能に対する期待を戒める内容となっているからです。

本書の著者の西垣氏は、私の大学院時代の恩師です。私が通った大学院である東京大学の学際情報学府は文字通り、文理の垣根を超えて学際的に情報に関する学ぶという野心的な目標を掲げて新設された大学院でした。西垣氏はこの大学院において目玉の研究者で、実際に彼の授業は分野を縦横に、最新の情報学に関するトピックが繰り広げられてとても刺激的な内容だったことを記憶しています。

本書を読んで、西垣氏の舌鋒鋭い評論が全く衰えていないことを知ってとてもうれしく感じました。西垣氏は現在3回目のブームを迎えている人工知能について、約30年前の前回のブームの際に世界の先端を行っていたスタンフォード大学で研究していました。前回の人工知能ブームはエキスパートシステムに代表される知識群をコンピュータに付与することで、人工知能に専門家を代替させることを目指しましたが大失敗に終わりました。

そして、西垣氏は現在の3回目のブームでもてはやされているディープラーニングやシンギュラリティに同じ危うさを感じています。人工知能ブームに乗って斬新さや奇抜さにフォーカスを当てた情報発信ばかりが注目をされるので、上記の用語とともに人工知能の発展の本質が誤って理解されている現状を著者は強く憂いています。

もちろん、人工知能の発展とその可能性を否定するのではなく、ビッグデータと昨今の人工知能のテクノロジーの進化でどのような成果が期待され、社会の構成員としてどのようにその成果を受け止め、正しく使っていくのかについての心構えが丁寧に解説されています。安易な人工知能本に辟易している人は、本書でフラットな視点を手に入れてから自分の思考をまとめていくことがオススメです。

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人間さまお断り

★★★

最近、この書評でも人工知能に関わる本を頻繁に取り上げていますが、本書も邦題にあるように人工知能の進化によって人間の労働のかなりの部分が必要なくなるという内容です。原題は”Human needs not apply”で、人工知能のみを対象とした労働募集という、より著者の意図が伝わりやすい表現になっています。

こう紹介すると、人工知能ブームに乗っかって過剰に危機をあおろうとしていると感じるかもしれませんが、スタンフォード大学の研究所で人工知能について研究し、シリコンバレーでいくつものベンチャーを成功させたシリアルアントレプレナーという顔も持つ著者による地に足がついた分析が展開されています。

著者が人工知能による社会へのインパクトとして最も懸念しているのは経済的な格差拡大です。社会学の研究者ではなく、アマゾンのジェフ・ベゾスやDEショーのデービッド・ショウといった人工知能時代の覇者も知り合いに居る起業家が、格差拡大に関心をもっているということからも、人工知能により更なる格差拡大が引き起こされる可能性が高いことが伝わってきます。

人口知能の進化に伴って人間がやるべき労働内容と、それに必要となるスキルが急速に変化しているにも拘わらず、教育機関がそれに対応していないため、教育ローンを抱える低所得者や失業者が絶望的な環境に置かれている著者の指摘は心に突き刺さります。

単なる警鐘だけでなく、上記の問題に対しては就業機会と対応した形式の教育ローンなど、具体的な対策まで提示されているので、人工知能の進化の影響とその対応策について思索したい方にとっては絶好の入門書と言えるでしょう。

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人工知能が金融を支配する日

レベル3 ★★★

人工知能が第3次ブームを迎えて、メディアでもこのワードを見ない日はありませんが、金融業界においてもアルゴリズム取引の増加など人工知能の影響についても関心が高まっています。本書はタイトルだけ見るとキャッチーなタームをちりばめて、人工知能ブームに乗ろうとした本のようにも見えますが、内容はしっかりとしています。

著者は邦銀でトレーディングの一線に長くいた方なので、歴史的に金融業界が現在人工知能と呼ばれている様々なテクノロジーを利用してきたことについて精通していて、歴史的な経緯から最新の情勢まで詳しくまとめられています。

特に、米国のルネッサンス・テクノロジーズやブリッジウォーター・アソシエイツ、シタデルといった米国の巨大ヘッジファンドが、どのように最新の機械学習やディープラーニングに代表される人工知能分野のテクノロジーについて取り組んでいるのかの事例については私も知らないことがあり有用でした。

著者は本書の中で繰り返し、このままでは先行している上記のような米国の巨大ファンドが洗練された人工知能分野の金融テクノロジーを独占してしまい、日本を始めとした他国の金融機関や個人は搾取される一方になる可能性があることを指摘しています。

金融業の歴史が始まってから最も破壊力のあるテクノロジーと言える現在の人工知能に関わる技術が今後どのように金融業界、ひいては社会全体にインパクトを与えるのか、関心がある方は議論のスタートとして必要な知識がコンパクトにまとまった良書です。

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不屈の棋士

★★★

この書評では資産運用やビジネス、テクノロジー、サイエンスがテーマの本を中心に扱ってきて、将棋をメインとした書籍は初めて紹介します。この本をこちらの書評で紹介したのは、棋士たちとファンドマネージャーが置かれている状況が、人間vs人工知能/ソフトウェアという点で極めて似ていると感じたからです。

本書は、近年ソフトが飛躍的に強くなって劣勢に立たされている棋士たちに、ソフトや人工知能についてどのように感じているのかインタビューした内容を中心に構成されています。自分たちの存在価値を脅かしている存在について聞くというのは中々センシティブな事ですから、長く棋士たちに取材している筆者だからこそ聞き出せた内容でしょう。

棋士と言えば羽生善治氏が一般的には圧倒的な知名度を誇り、羽生氏は本業だけでなく、最近では人工知能をテーマとしたNHKスペシャルに出演するなど、日本では知性の象徴の様に見られています。将棋よりはるかに知名度を誇るチェスについても、20年ほど前にIBMの開発したソフトに世界チャンピオンが負けた時はセンセーショナルに報道されましたし、今年はボードゲームの中で最も局面が多いとされる囲碁でも、グーグル傘下のディープマインド社がディープラーニングという最新の人工知能の手法を用いて、これまでの予想よりもはるかに早く世界最強クラスとされる棋士イ・セドル氏を破ったことも世界的な話題となりました。

そして、冒頭で紹介したように、ヘッジファンドの世界でも近年人間のマネージャーが率いるファンドよりも、アルゴリズム取引を主とするファンドの方が総じて成績が良いということが話題となっています。これまで人間の牙城とされてきた知性にまつわる作業においても、ソフトウェアや人工知能が次々と侵食してきています。そうした時に、その道のプロは何を感じどのようにこうしたテクノロジーと向かい合うべきなのか、そして人々や社会はどのような感想を持つのかについて、本書からは色々な示唆が得られます。

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貨幣の新世界史

レベル3 ★★★

貨幣についての世界史という大仰な邦題がついていますが、内容はそれに恥じない大作です。著者は投資銀行マンですが、リーマンショックによりお金の本質を知りたいという欲求にかられ、太古の歴史からお金と人類はどのように向き合ってきたのかについて調べ始めます。

投資銀行という激務の中よくぞこれだけ多彩な文献にあたり、必要であれば世界中の現場を訪れたと感動するほど、本書には紀元前の人類の歴史におけるお金のはたしてきた役割について、網羅的にまとめられています。人類の歴史だけでなく、貨幣というモノの本質は生物間の交換であるから、何十億年にわたる生命の発達についての記述まであります。

人類の歴史以外の記述は少しやり過ぎの感もありますが、著者のお金の本質に迫りたいという知的欲求がいかにすさまじいのかの表れでしょう。マイナス金利や異次元の金融緩和など、最近は人類が経験してこなかった未曾有の減少がお金の世界で起きていますが、その本質について深く理解するには、本書にまとめられているようなお金の歴史を知っておくことが不可欠でしょう。

一般的な経済書では決して学べない超長期的なお金の歩みが理解できる良書です。

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ネルソン・マンデラ 未来を変える言葉

★★

20世紀最後の偉人と呼ばれるネルソン・マンデラの発言の中から、ジャンルごとに明言をまとめた書籍です。マンデラは言わずと知られているでしょうが、南アフリカのアパルトヘイトに対して反抗したことで27年にもわたって投獄されても信念を曲げずに、最後は南アフリカの指導者となり世界から尊敬を集めた人物です。本書には革命の闘士だった時代から晩年に至るまで幅広い時代の発言がまとめられています。

私がマンデラにまつわるエピソードで印象的に覚えているのは、1994年のラグビーW杯の南アフリカ大会で日本代表から150点近くとるなど破竹の勢いで決勝まで来た、当時世界最強とされたNZ代表オールブラックスの面々が決勝の相手である南アフリカの指導者マンデラと握手したときに明らかに気圧された表情をしたというエピソードです。屈強な男たちを肉体からではなく、その偉業により精神的に圧倒したことが、大番狂わせといわれた南アフリカ大会での南アフリカチームの優勝を呼び込んだと複数のコラムニストが指摘していました。

本書にまとめられている言葉は確かに素晴らしい内容です。しかし人は言葉だけでは心を動かされることはありません。マンデラ自身の不屈で気高い行動があってこそ、本書にまとめられている言葉は意味を持ちます。本書を読んで、マンデラの人生の歩みについて深く知りたいと感じました。評価が星2つとなったのは、各ページに2‐3個の言葉のみという内容の少なさによるもので、もちろんマンデラの言葉自体は珠玉のモノばかりです。

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シンギュラリティは近い

★★★

テクノロジーの進化がAIの発展により加速度的になっていくというシンギュラリティというタームは、日本でもかなり浸透してきています。本書は、そのシンギュラリティという概念を最初に世の中に打ち出した、レイ・カーツワイル氏の書籍です。

元々、カーツワイル氏によって2007年に書かれた600ページ以上の大著から、エッセンス部分を抜き出した要約版となっています。カーツワイル氏は現在、AIで世界最先端を進んでいるグーグルで、機械学習と自然言語処理の研究責任者を務めている著名なエンジニアですから、本書で展開されている2045年にはシンギュラリティが訪れて、22世紀には銀河はおろか宇宙全体に人類が進出するようになるという予想を一笑することはできません。

ただ、一方で2007年に予測された2010年代に達成される技術的内容は、残念ながら2016年現在ほとんど実現しておらず、本書の内容を全て真に受ける訳にはいきません。確かにグーグルを筆頭にAIの開発は急速に進んでいて、10年以上先と考えられていた囲碁で世界トップクラスの棋士を打ち破るなど、着実に世の中にインパクトを残す成果は出てきています。しかし、本書で予測されている2030年までにAIが完全に人間の頭脳を凌駕して、科学研究を加速度的にAIが行っていくことで、人類も脳をそのままデジタルデータとしてサイバースペースにアップロードして永遠の存在となっていくというのはあまりに楽観的過ぎるでしょう。

本書の楽しみ方としては、グーグルの研究開発者はこれくらい楽観的かつ野心的なビジョンの持ち主で、だから米国のトップIT企業は懐が深く、本書の内容のどれくらいの割合が、どれくらいの時間軸でこうした米国のトップIT企業を中心に実現されそうか、読者それぞれが想像しながら読み進めるという姿勢が良いと思います。

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科学の発見

★★★

ノーベル物理学賞受賞者であるスティーブン・ワインバーグ氏の著作というと、物理学の研究の最前線について解説したものと思う人も多いでしょうが、はるか紀元前からの科学研究についての歩みをまとめた科学史です。

そして、本書の冒頭にあるように、科学史をまとめる上で変則的な手法を用いています。それは、歴史について記述する際は時代ごとの常識に沿ってまとめるのが一般的であるのに対して、本書は現代科学の視点から古代を含めて科学研究について論評するというスタイルです。当然ながら、現代科学の常識に照らし合わせると古代はもちろん、ルネッサンス期の科学革命時代の研究も色々と瑕疵があります。そして、本書ではそうした瑕疵が遠慮なく指摘されています。

では、本書は当たり前と言える昔の科学研究の不備をあげつらうニヒルな内容で、読後感が悪いものかというと全くそうではありません。むしろ、厳密な歴史学の手法に沿った科学史よりも、本書の方が一般の読者にとっては時代ごとの科学研究のスタイルの差異が明確になって学びが大きいでしょう。

もちろん、科学史を専門とする人からは色々と言いたいことがあると思います。しかし、時代ごとの科学研究の前提を知らない一般読者からすると、古代ギリシャの科学研究は現代科学と全く異なっていてその成果について過大評価であるとか、ルネッサンス期においても科学と宗教が不可分な存在であったとか、率直な感想を持ちました。

客観性を保ち、普遍性を獲得している現代科学の洗練された手法が、いかに長い時間をかけて苦難の連続を乗り越えて奇跡的に得られたのか、本書を読むことで感動する人も多いでしょう。現代では当たり前すぎる存在となった科学の成り立ちについて知りたい方にはとてもオススメです。

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ロケット・ササキ

★★★

何年にもわたる紆余曲折を経て、台湾のホンハイに買収されることになったシャープですが、そのシャープが弱小メーカーから液晶を軸に大手電機メーカーにまで飛躍する礎を作った人物に焦点をあてたドキュメンタリーです。

その人物とは佐々木正氏で、御年101歳で今も健在です。佐々木氏は第2次大戦中に軍の兵器開発に従事するエンジニアでしたが、戦後にGHQからの命令で通信機器の開発に身を投じます。米国に渡って半導体を開発してノーベル物理学賞を受賞したウィリアム・ショックレー氏らと交流して、多くの功績を残します。佐々木氏の力量にほれ込んだシャープの創業者である早川徳次氏から猛烈な誘いを受けてまだ電器メーカーとして弱小だったシャープ(当時早川電機工業)に入社します。シャープでも電卓や液晶、太陽電池など、米国との太い人脈を活かしてシャープが総合電機メーカーとして躍進していく原動力となります。

ただ、佐々木氏の功績はシャープでの活動にとどまりません。本書でも紹介されているように、シャープのライバルだったソニーやパナソニックの創業者である井深大氏や松下幸之助氏にもアドバイスをしたり、はるか年下であるスティーブ・ジョブズ氏や孫正義氏のメンターとなったりもしました。

特に、孫氏に対しては創業期に個人保証で融資を受けられるようにまでしたり、まだ実績がほとんどないにもかかわらず研究開発費をシャープから出したりするなど、多大なサポートをして未だに孫氏は佐々木氏が居なければ今の成功はなかったと毎年感謝の席を設けているほどです。

佐々木氏のこの敵味方分け隔てなくサポートする姿勢は早川氏の姿勢に見習ったもので、「共創」というフレーズで本人はこのスタイルを表現しています。佐々木氏が去った後のシャープが凋落し、ついには海外企業に救済されまでに至ったことの背景には、この共創の精神の欠如があったと、本書を読んだ多くの人が感じるでしょう。

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