カテゴリー: 投資全般

中国のスティーブ・ジョブズと呼ばれる男

★★

優れたインターフェースの高機能スマホを、アップルやサムスンといった一流ブランドの半分以下の値段で提供することで、中国のスマホ市場を席巻しているシャオミの創業者、雷軍(レイ・ジュン)の伝記です。

本書のタイトルにあるように雷軍は、プレゼンの時の振る舞いや服装においてスティーブ・ジョブズを模倣していると言われており、中国のスティーブ・ジョブズとして欧米メディアで紹介されることが多くなっています。また、シャオミのOSはグーグルのアンドロイドを使っていますが、独自のユーザインターフェースを開発することで、製品の見た目も、使い心地もiPhoneとそっくりに仕上げられています。

こう書くと、中国メーカーにありがちな模倣者のように聞こえるかもしれません。しかし、中国の消費者も所得が上がるとともに、海外に旅行した経験を持つ人も増え、いくら安くても単なる模倣品ではシャオミのように成功することはできなくなっています。

本書で初めて、雷軍はシャオミを立ち上げる前に、大手ソフトメーカーの社長を20代で務めるなど、中国のIT業界の興隆において重要な人物であったことを知りました。そして、今まで培ってきた中国IT業界における人脈と知見がシャオミの大成功につながっていることが分かります。ただ記述が、時系列が前後しながら進むため、中国のIT業界に詳しくない人にとっては内容が理解しづらいことが残念です。

シャオミは、スマホ業界に限らず全業界で見ても、史上最速のペースで拡大している企業で、創業わずか5年で売上1兆円を達成しました。雷軍はまだ45歳で、アリババの創業者ジャック・マーが50歳、テンセントの創業者である馬化騰は43歳です。

日本では例がない40~50歳で、時価総額が10兆円以上の企業を率いる創業者たちが、これまで製造業が中心であった中国経済の次世代の成長を駆動していくと感じさせられます。

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未来のつくり方

★★★

よくあるシリコンバレーの現状の紹介や起業論とは一線を画した、シリコンバレーを中心とした米国がなぜイノベーションを生み出したのか、100年以上前からの米国の社会構造や思想体系にその解を求める大ぶりな本です。

50年前に提唱されて以来、ずっと当てはまっているムーアの法則「18~24ヵ月で半導体の集積密度は倍になる」など、米国人の未来へのある意味無邪気ともいえる楽観的な姿勢が、様々な技術や社会制度の核心を生んで、未来の予測を自己成就させるというサイクルを生んでいるというのが本書の主張です。

個人的には、企業やMITとスタンフォードに代表される研究機関の性格が、東海岸と西海岸で大きく異なることについての説明が、他書にはない内容で興味深かったです。こうしたマクロ的な主張を裏付ける文化論などと同時に、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェット、イーロン・マスク、ピーター・シールといった現在の米国経済を支える傑出した個人の人物像についてもよくまとまっています。

シリコンバレーを模倣しようとして失敗することは世界中でこれまで繰り返されてきています。次々と技術革新を生み出し、それが新規産業創出につながるという表面的なサイクルをまねしようとしても無理で、まずは本書にあるようなシリコンバレーを成功に導いている文化的、社会的背景まで深く理解する必要があるのでしょう。

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アップル・グーグルが神になる日

★★

センセーショナルなタイトルですが、内容はまじめなIT業界の行く末についての予測です。エンジニアによる著作なので、スマホやウェアブル機器、最近話題のIoT(Internet of Things:モノのインターネット化)が、今後どのように発展していくのか低消費電力タイプのブルートゥースなど、技術企画の内容から予測しています。

結論からいうと、タイトルにあるようにスマホのOSで支配的になっていて、その上のアプリの課金体型までプラットフォームを抑えている、アップルやグーグルの隆盛がさらに続き、スマホに移行してから完全に米国勢に押されている日本のメーカーは、ますます劣勢になっていくという予測です。

ハードウェアのコモディティ化が進み、ソフトウェアはもちろん、その上にどのような技術的・経済的プラットフォームを築くかに、IT業界の優勝劣敗はかかっているという指摘には同意できますし、その戦いで日本企業が負け組となってしまうという予測も正しいでしょう。

以前にソニーの凋落を描いたNHKの特集番組で、ソニーをやめた技術者たちがより画質のよいテレビの開発に注力しているシーンがありましたが、これなど日本企業のハードウェア信仰の典型で、一般の消費者にとってほとんど区別できない技術進歩を、コンテンツの単なる出口の1つになりつつあるテレビパネルで実現したところで、ビジネスとしては全くうまくいかないでしょう。

せっかく、大企業をやめてベンチャーとして身軽に動けるのに、旧態依然のハード開発にこだわっている姿に暗澹たる気持ちになったところで、本書を読み他の業界でも日本企業の躍進は望めないと感じました。

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孫正義の焦燥

★★★

ソフトバンクの孫社長についての書籍は数多ありますが、本書は近年孫社長に密着している日経新聞社の記者による書籍で、孫社長以外のソフトバンクの経営陣や直近のビジネスシーンについての解説が充実しているところに特徴があります。

孫社長についてはその出自と、圧倒的な成長の軌跡が物語としても一流であるため、伝記的な著作は数多くありましたが、本書は純粋に経営者としてのビジョンと、そのビジョンの実現をサポートする孫社長以外の経営陣について焦点が当たっており、経営に携わる人にはより参考になる内容でしょう。

東南アジアやインドを中心としたベンチャー投資や、苦戦が伝えられるスプリント買収による米国進出、再生可能エネルギーへの取り組みなど、最新のソフトバンクの経営を取り巻くトピックについて、最新の孫社長の声が伝わってきて、今後の展望について色々な手掛かりが得られます。

巻末の孫社長を取り巻く人物相関図もよくまとまっていて、本書を読むとやはり日本企業の経営者で本気でグローバルトップになろうとしているのは、孫社長しかいないという思いを新たにしました。最近大きなニュースとなった、グーグルから年収165億円で引き抜いたニケシュ・アローラが、なぜ後継者に指名されたのか、そして他の日本人の経営幹部に今後の役割についての、著者の予測もあります。

ソフトバンクのロボットや人工知能への取り組みなど、これまであまり書籍で取り上げられなかった、長期的なテクノロジーに対する孫社長のビジョンも紹介されています。事業会社ではなく投資会社であるとされることも多いソフトバンクですが、本書にある長期的なテクノロジーへの情熱が大きなビジネスとして結実するところまで持続するのか、ソフトバンクの今後の歩みへの関心も本書で大きくなりました。

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金融の世界史

レベル3 ★★★

大ぶりなタイトルが付けられていますが、内容もそれに恥じない骨太な内容です。古代メソポタミア文明から現代の金融工学まで、対象となる時代が長い分駆け足とはなっていますが、人類がどのように金融において発展を遂げてきたのか、歴史上のトピックを追いながら分かりやすくまとめられています。

特に、本書の白眉は、その長期間にわたる定量データでしょう。日露戦争時の日露両国の債券利回りの推移から戦況を各国の投資家がどのようにとらえていたかという記述や、世界大戦中の日米の株価の推移、日本円と米ドルの明治時代からの為替レートの推移などは、本書で初めて目にしました。定量的なデータから、遠く時代が離れた当時の状況がよくイメージでき、現代の金融市場における値動きの相似性に驚きました。

また、欧州の中世からの覇権争いなど、これまで歴史的な事実としては知っていた事象が、金融という観点から解説されることで、より体系的な理解を得られるということも新鮮でした。これまでの書評でも度々書いてきたとおり、日本ではなかなか優れた金融ノンフィクションはないと感じてきましたが、そうした観念を見事に覆される力作です。

資産運用をしているとどうしても近視眼的になりがちですが、ぜひ本書を読んで投資における大局観を培っていただければと思います。

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ライバル国から読む世界史

★★★

最近出た書籍ですが、全世界の隣接した国同士に戦いについて古代から現在まで一気通貫にまとめられています。最近、出版された本だけあってISを生み出した背景など最新のニュースとリンクする記述も多くあります。また、中東だけでなく、テロや紛争など世界中の様々な地政学リスクに関するニュースが日本にも毎日のように入ってきますが、その背景にある対立について幅広く理解できます。

世界史の授業でもアジアや欧米については学びますが、本書では学校教育であまり取り上げられない、中央アジアや中東、アフリカなど今まさに治安リスクが顕在化されている地域における対立の歴史についてもよくまとまっています。

シンガポールに居ると身近に感じる、オセアニアやミクロネシア・ポリネシアなどの太平洋に点在する島嶼についての歴史は本書で初めて知ることばかりでした。現状起きているニュースだけを追いかけていても構造を理解できず、対立の背景にある歴史的な経緯についても知っておかなければなりません。

もちろん、新書なので歴史的な出来事をなぞっているだけですが、それでもこれを手掛かりにより関心がある地域について掘り下げていくきっかけには十分になる内容です。長期的な海外投資のリスクを自分なりに把握する上でも、基本的な歴史の流れについて本書でグローバルに理解しておくことは有用でしょう。

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市場リスク 暴落は必然か

レベル3 ★★★

モルガン・スタンレーやソロモンなどの投資銀行、ムーア・キャピタルなどのヘッジファンドといった数々の一流金融機関で、リスク管理の責任者をつとめてきた著者により、金融市場のリスクの実態が詳細に解説されています。

著者の強みは、様々な金融業界の最前線で、ブラック・マンデーやLTCM危機、ITバブル崩壊など歴史的な暴落相場を経験していることです。これまでも、上記の金融危機についてはあまたの解説書が出されましたが、本書は下落相場の要因からその後の金融業界への影響に至るまで、主要プレーヤーの人物像や会議の様子を通じて網羅的に解説されており、類書の中では際立っています。

金融危機だけではなく、過去30年近くにわたってどのような投資戦略が開発され、どのように成功をおさめたのかについての記述も充実しています。何より、英語の原書がリーマンショック前に出版されており、レバレッジの大きさと高速取引の普及、グローバルの金融市場が緊密さをましていることから、市場の暴落リスクはますます高まっているという指摘は白眉とするほかありません。

章立てが時系列ではなく、アカデミックな内容と実務的な内容が混在していることから、読みづらい部分が多いことは残念ですが、こうした欠点を差し引いても、また次の過熱相場が訪れている現在、本書を目を通しておくことは示唆が多いことは間違いありません。

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0ベース思考

レベル3 ★★★

「ヤバい経済学」と「超ヤバい経済学」が世界中でベストセラーになったコンビの第3作目です。前2作を読み、経済学があまり研究対象としない生活に根差した身近なテーマに計量的な経済の分析を持ち込んで、直観に反する結論をあざやかに導き出していることに魅了されましたが、本作も前2作にたがわぬ出来ばえです。

ホットドッグの早食い競争や、ナイジェリアの資産家をうたった詐欺事件まで、前2作以上に幅広い事例を用いながら、人間が持つバイアスがいかに事実をゆがめ、誤った結論に至りがちであるのかを繰り返し説明しています。投資という作業は、人間の直観というバイアスをいかに抑えて、合理的に行動するかのゲームですから、資産運用にも本書は役立つでしょう。

前2作で事実を暴露したことで批判を浴びた、テロリストの見つけ方のアルゴリズムについても、本で暴露した内容がテロリストへのトラップとなっていて、彼らの行動をコントロールしさらなる摘発につなげたといった痛快なエピソードも本作にはちりばめられています。ここまでの3作で、著者たちが訴えたいバイアスの危険性と、フラットな心構えでデータにあたり結論を導き出すという思考法については十分把握できたので、次回作はこの思考法を現実社会にどのように応用して成果が出たかについてのエピソードをもっと知りたいと感じました。

本書の内容とは関係ないことですが、1点気になったのは本書のカバーに「どんな難問でもシンプルに解決できる」というフレーズがあることです。これは本書にあるバイアスを避ける思考法を指していると思うのですが、安直に1つの方法を色々な事象に適応することは、著者たちが最も避けるべきと指摘しています。本書はあくまで心構えを説いていて、具体的な問題に対処するには各自創意工夫をしなければなりません。

巷によくある浅薄な自己啓発本と見まがい、かつ書籍の内容と反するようなコピーは避けてほしいところです。

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波の音が消えるまで

レベル3 ★★★

シンガポールで師事している著名相場師の方に紹介してもらった小説です。ルポルタージュで名を馳せる沢木耕太郎氏による作品で、バカラ賭博にはまった人物が主人公です。

バカラはこれまでカジノでもやったことがありませんが、その勝負の雰囲気が良く伝わってきます。上記の相場師がこの小説を評価していたのは、相場で勝つことも基本的に不可能で、その不可能なことを目指すという行為の厳しさと儚さを、バカラ賭博という相場と似た行為を通じてよく表現しているからという理由でしたが、私も同じ感想を持ちました。

巻末に名前は明かされていませんが、この小説のために取材した人物への感謝が書かれています。おそらく、バカラ賭博の表も裏も知り尽くした人物に取材したのでしょう。沢木耕太郎氏の「鼠たちの祭」という作品もこのブログで紹介しましたが、スポーツや旅を中心としたルポルタージュで培った物事の神髄を見抜く眼力が存分に活かされています。

弊社のセミナーではインデックス投資をオススメしていますが、アクティブ投資に取り組みたい方はこの作品を通じて、相場で勝つことの厳しさ、そしてむなしさを感じてから始めてください。

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失われた国家の富

レベル4 ★★★

今世界で最も注目されている経済学者トマ・ピケティの弟子によるタックスヘイブンの解説書です。データが入手しづらいため、なかなか経済学者の分析の対象とならないタックスヘイブンですが、本書では世界中の資本と負債/資産の合計額の差を取るという巧妙な手法で、タックスヘイブンに蓄えられている富の額を推定し、タックスヘイブンにより失われている税収を推定しています。

格差を問題視するピケティの弟子で、フランス人の経済学者であるため、スイスやシンガポールを中心として、低税率国に対しては容赦ない批判を浴びせています。一方、フランスをはじめとした高税率国で政府が肥大化し、運営効率が悪くなる問題については全く指摘されていないことは、バランス悪く感じました。

もちろん、世界で最も富む企業や個人が、一般の起業や大衆よりはるかに低い税率しか適用されていないことは到底公平とはいえません。しかし、タックスヘイブンは既に世界の企業経営や金融市場と密接に組み込まれており、一方的に活動を制限すると実体経済に多大な影響が出てしまいます。

本書で提案されているタックスヘイブンの対抗策も、全世界での金融資産の所有者を全て名簿化することやタックスヘイブンへの送金や貿易に多額の税金を課すなど、実体経済への悪影響や手間の問題を考えると実現性があるとは思えないモノばかりです。本分の分量も100ページ強と少なく、あくまでタックスヘイブンに関する議論の入り口だけを提示したという印象を受けました。

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リスク・テイカーズ

レベル3 ★★★

著名投資家の列伝ですが、日本語ではあまり取り上げられることのない投資家をカバーしているところが本書の興味深いところです。本書には8名の投資家が登場しますが、巻末をかざっているウォーレン・バフェットを除く7人は、ヘッジファンド業界に特に詳しくない人にとっては聞いたことがない人物が多いでしょう。

世界最大のヘッジファンドを率いるレイ・ダリオや昨年もっとも高い報酬を稼いだヘッジファンド・マネージャーであるデービッド・テッパーや、ソニーの大株主となったことが日本でも報じられたダニエル・ローブなど取引手法が異なるヘッジファンド・マネージャーたちが取り上げられています8名について、それぞれの章に分けて投資家としての履歴や投資手法を紹介されているので、深堀はされていませんが現在の米国のヘッジファンド業界で名があがっている人物ばかりなので、業界のイメージを大まかにつかむにはいいでしょう。

本書に取り上げているのも全員米国人であることからも、ヘッジファンド業界が米国勢に支配されていることが分かります。いつか、こうした書籍に取り上げられる日本人のトップ・ヘッジファンド・マネージャーは出てくるのかと読後に感じました。

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セックスと恋愛の経済学

★★

センセーショナルなタイトルですが、カナダの名門ブリティッシュ・コロンビア大学で経済学を教える人気女性教授の著作です。最近、通常は経済学が研究対象としない分野における経済分析の書籍が増えてきていますが、本書もその一環といえます。

セックスや恋愛に関する様々な事象が、経済的なインセンティブに基づいたどのような意思決定から行われているかについて明らかにされています。女子学生が多い大学ほどセックスの体験年齢が低くなるといった直観に反する事実も色々と紹介され、それについての経済的な解説が加えられています。

ただ、事例が米国を中心としているため、日本とは大きく前提条件が異なるため、あまり参考にならないと感じるケースも多く、著者自身が行った研究についての事例も少ないため、やや物足りなく感じました。

本書と同様に普段は経済学が対象としない著作であれば、「ヤバい経済学」の方が数段インサイトに満ちた好著だと思います。本書では、主に一般の男女間の恋愛についてのケースでしたが、本書の著者は次回作として金銭的なやり取りが発生する恋愛、つまり風俗産業についての著作を準備しているようです。経済学的には、非常に大きな産業であるので、次回作を期待して待ちたいと思います。

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