カテゴリー: 投資全般

バフェット合衆国

レベル3 ★★

バークシャー・ハサウェイを経営するようになってちょうど50年が経ったため、再び脚光があたっている人類史上最高の投資家ウォーレン・バフェットですが、これまで日本語でも彼についての多くの書籍が出版されています。

しかし、本書はバフェット本人ではなく、バフェットが投資をしている企業の経営者という、バフェットを支える人物たちに焦点を当てているがユニークです。バフェットは最も気に入った企業は100%株式を保有して、自身が経営するバークシャー・ハサウェイの傘下におさめます。

傾いた繊維会社だったバークシャー・ハサウェイですが、バフェットが経営するようになってから50年で、世界でも有数の巨大コングロマリットにまで成長しています。本書では、バークシャー・ハサウェイ傘下の経営者それぞれの生い立ちから、経営者として成長する軌跡、そしてバフェットの出会いと現在までの協業についてまとめられています。

バフェットのファンであった香港の投資家である著者が、米国に何度も足を運びながらまとめられた内容からも、バフェットの投資家としての価値観がよく伝わってきます。企業経営で長期に成長するには、飛び道具は必要なく当たり前のことをいかに徹底できるのか、「凡事徹底」が最も重要であることがよく分かります。

ただ、各人のインタビュー内容が定型的であるため、その人となりにまでは踏み込めておらず、さらにバフェットとの個人的エピソードもあまりなかった点については残念に感じました。

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人と企業はどこで間違えるのか

レベル3 ★★★

ビル・ゲイツが2014年夏に、これまで読んだ中で最高のビジネス書として本書を紹介したことで一躍有名になり、邦訳も出されました。本書は1959年~69年に書かれた10編のコラムをまとめたもので、ビル・ゲイツ自身も友人であるウォーレン・バフェットから紹介され20年前に読んだようです。

本書を読んで最も強く感じたのは、ビジネスにしても、運用にしても人がやることで、時代が変わっても現象は同じということです。10編のコラムそれぞれテーマが異なり、新製品投入やインサイダー取引、株価暴落など色々なトピックが取り上げられていますが、どれも50年前とは思えないほど、現代にも共通する内容です。当然、そこからの学びも多くあります。

本書をビル・ゲイツやウォーレン・バフェットが愛読している理由も、時代背景や価値観と関係なく、ビジネスや投資で大切であるのは人間の本質への深い洞察を持つことだと考えているからではないでしょうか。現代は、本書のコラムが書かれた時代よりも、比較にならない大量の情報が、リアルタイムに出されています。しかし、それをただ追いかけるだけでは決して将来を予測することにはつながらず、ただ徒労するだけに終わるでしょう。

本書を読むことで、人間の本質、そしてビジネスや投資で成功/失敗する理由も変わらないことを理解して、情報を集めるだけではなく、常にそこから導き出される事実は何なのかを考える習慣の大切さをあらためて意識しました。

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アリババの経営哲学

★★★

ソフトバンクが投資をして巨額のリターンを上げたと、日本でも話題になったアリババですが、創業者のジャック・マーについてはあまり知られていません。本書は、本人の談話を他者が編纂する形をとった書籍で、ジャック・マーのこれまでの歩みについて、アリババ創業前までさかのぼって書かれています。

ジャック・マーが、どのような状況においてどのような発言をしたのか克明に書かれているので、彼の人となりや経営スタイルについてイメージしやすく、アリババの成長に感情移入しながら読み進められます。今やアリババは、フェイスブックやアマゾンを上回り、IT業界ではグーグル、マイクロソフトに次ぐ世界3位の時価総額となっています。

しかし、創業時はジャック・マーがITについて専門的な知識がなかったことや、創業メンバーも有名人がおらず、ましてや多数の偽物が横行する中国において、世界的なeコマースの会社が出てくるはずがないと相手にもされていませんでした。

海外展開を積極的に進めるために、ドイツに講演に行った時も1,500人の会場にわずか3人しか集まらずみじめな思いをしたことなど、起業している身としては身につまされるとともに、今のアリババの成功ぶりから励まされるエピソードが色々と出てきます。

ハーバード大学で講演したときのエピソードも秀逸で、ジャック・マーが10回はアプライしたのに相手にもされなかったけれども、今はこうしてハーバードの学生の前で講演しているということで、学生たちから拍手喝さいを浴びました。

本書を読むと、ジャック・マーが飾らない気さくな人物であることが分かります。ジャック・マーはCEOからは降りていますが、NY市場への上場など重要なタイミングでは登場し、依然影響力を保持しています。最近では、銀行や運用事業に進出するなどアリババの事業展開も拡大の一途をたどっています。

気さくなジャック・マーの歩みが世界経済にどのようなインパクトを与えるのか楽しみになる好著です。

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人工知能は人間を超えるか

★★★

著者は人工知能の若き権威である東大准教授の松尾豊さんですが、大学の部活の先輩で、先日そのご縁でインタビューをさせて頂いた時に、ご本人からプレゼントをして頂いて読みました。

本書にもありますが、人工知能は現在3回目のブームを迎えています。2000年代以降の急速なネットとIT機器の普及によるビッグデータが利用可能になったことがその要因ですが、これまでも人工知能は20年ごとにブームを迎えてきました。

まず1960年代に大型コンピュータの普及により人工知能への期待がふくらみ、その後1980年代にはプロセッサーとメモリの機能の進化により人工知能はブームとなりました。ただ、最初のブームは推論と探索では現実社会の複雑な問題は解けないことから、2回目は人間が常識的に身に着ける知識を記述することの難しさからブームはしぼみ、その後10年以上に渡る冬の時代を迎えました。

松尾さんは第2次ブーム後の冬の時代に人工知能の研究をスタートさせたので、今でこそ人工知能は多大な関心を集めていますが、ブームの本質的な意味について客観的な立場から淡々と評価しています。

直近では、人工知能が発達しすぎると人間の存在をも脅かしかねないといった議論もよく目にしますが、そうした迷走気味の人工知能に対する論評についても、杞憂であるものが多く、心配する必要はあまりないことも明快に説明されています。

本書の白眉は、人工知能の分野で現在最も期待を集めているディープラーニングという手法についての解説です。画像認識などこれまで人工知能が苦手にしていた機能を飛躍的に発展させ、様々な応用が期待されていますが、その実態が素人にも理解できる書籍は他にほとんどないでしょう。

金融分野にも今後多大な影響を与えると考えられる人工知能について、本書をもとに概要を理解しておくことは、資産運用にも有用です。

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ITビジネスの原理

★★

マッキンゼーやリクルート、グーグルなど10回の転職を経て、現在は楽天の取締役をつとめている著者によるIT業界のビジネスモデルについての入門書です。

多くの事業会社やコンサルティング会社での実務経験から、現在IT業界で成功している企業のビジネスモデルについて、各社どこに特色と強みがあり、どのように稼いでいるのかがわかりやすくまとめられています。そして、なぜ大成功を収めているグーグルから、規模がはるかに小さく事業エリアも大きく異なる楽天に転職することになったのかという経緯を通じて、日本のIT企業が持っているポテンシャルについても解説されています。

日本社会が持っているハイコンテクストという特性から、これまでローコンテクストの国である米国が発祥で、英語というデフォルト言語による情報発信が中心だったところに、日本のIT企業が異なった発展の方向性を打ち出せるという視点は興味深く感じました。ただ、マッキンゼーの同僚で他にも楽天に転職した知り合いがおり、彼はこの本の著者と逆に楽天からグーグルに転職したのですが、本書にあるハイコンテクストなサービスの担い手として、楽天がふさわしいのかという点にはこの知り合いの話を聞く中で疑問を持っています。この点については、この見方を覆すような展開を将来の楽天が成し遂げることに期待しています。

また、原理という言葉がタイトルにありながら、フェイスブックの広告単価が低くならざるを得ないという記述や、未来のIT機器の代表例として先日開発の中止が発表されたグーグルグラスが取り上げているなど、出版から1年が経過した現在、疑問を感じるような部分があったのは残念でした。もちろん、非常に変遷が早いIT業界のことなので仕方がない部分もあるでしょうが、IT業界のビジネスモデルのより普遍的な部分についての説明を増やしたほうが、タイトルのイメージに合致すると感じました。

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イスラーム国の衝撃

★★★

イスラム研究の一線で活躍する研究者である著者が、日本人人質事件により日本でも大きな関心を集めるようになったイスラーム国の誕生と現状、今後の展開について分かりやすくまとめています。

著者の講演は東大時代に何度か聞く機会がありましたが、日本人のイスラム研究者にありがちな過度な理想のイスラム教への投影がなく、極めて中立的で学問的な見地から、わかりやすく解説をしてもらえ、とても学びが多かったことを覚えています。

本書も、イスラーム国がどのような国際情勢から生まれ、現状どのような影響力を持っており、さらに中東における歴史的な文脈から今後どのような派生が予想されるのかまで、一般的読者にも分かりやすく、かつ中立的に書かれています。

本書のタイトルは扇情的ですが、日本人人質事件が公になる以前に本書は発表されています。本書の内容も、著者がここ10年発表してきた論文が下地となっており、今後イスラーム国をタイトルとした本が次々と出版されるでしょうが、そうした注目されてから書かれた浅薄な本とは、完全に一線を画す内容といえるでしょう。

本書でも著者が度々懸念を示している通り、日本でのイスラム研究の専門家ネットワークは欧米に比べて極めて貧弱です。そのことを示すかのように、イスラーム国による日本人の拘束とその殺害後に、日本のメディアでは専門家がこぞって今回の事件を強引に日本の政権や社会批判の道具として論考するシーンを多々目にします。

著者のブログやフェイスブックでは、そうした安直な言説に痛烈な批判が繰り返されているので、本書を読んでさらにイスラーム国とそれを取り巻く中東情勢についての理解を深めたい方は、参考にされることをオススメします。

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孫正義の参謀

★★

ソフトバンクの社長室長として8年以上孫正義氏を支えた著者が、入社したときには通信キャリアですらなかったソフトバンクが、どのように世界3位のキャリアにまで成長したのか、その軌跡を明かしています。

元衆議院議員からIT企業の社長室長という異例の転職をした著者ならではといえる、ソフトバンクの光の道構想や、再生可能エネルギーへの取り組み、米国第三位のキャリアであるスプリントの買収において、ソフトバンクがどのように政界への働きかけをしたのかを軸に話が展開します。

著者が民主党出身であるため、特に民主党政権時代に通信や電力といった国による規制が強い産業において、政界に巧みに働きかけたことがソフトバンクの成長の一助となったことがよく分かります。また、日本企業における米国企業の買収としては過去最高金額となったスプリントの買収時には、著者の人脈をフルに活かして上下院のキーパーソンやパウエル元国務長官など米政界の重鎮にアプローチし、支援を呼びかけ最終的にディール成功に結びつけたことが克明に描かれています。

ただ、同時に著者が元政治家であるため、ソフトバンクの成長の軌跡が主に政治面でのアプローチによる説明に偏り、ソフトバンクの創業者である孫正義氏をはじめ、ビジネス面での戦略立案についての記述があまりないことは残念に思いました。

著者も文中で指摘している通り、天才的な経営者である孫正義氏の唯一の弱点ともいえる、政治的な気配りに欠けることを著者が補完していたからこそ、政治面での記述が中心となったのでしょう。しかし、本書を手に取るほとんどの人は孫正義氏のビジョンがどのように生み出されているのかを知りたいというのが最大の動機でしょうから、本書の内容に不満を持つ人も多いと感じました。

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アジアシフトのすすめ

★★★

元国会議員で現在はシンガポール国立大学の教授である田村こうたろう氏による、シンガポールを中心としたアジアの解説本です。著者には、シンガポールでの高級不動産に関する弊社イベントにゲストスピーカーとして来ていただきました。日本人には珍しいスケール感の大きな話しを、豊富なファクトに基づきながら展開してもらえ、参加者のほとんどの方に喜んでいただけました。

本書でも、東南アジアを中心としたアジア経済の将来性と、日本人・日本企業のアジアでのポテンシャルが分かりやすくまとめられています。著者は、アジアの首脳とも幅広い関係を持っているので、こうした人物たちの会談における具体的なエピソードが多いことも、アジアの現状のイメージをクリアにしてくれます。

アジアの成長性とともに、日本の将来に待ち受ける厳しい状況についても深く切り込んでおり、日本人・日本企業が積極的に進出しなければないという本書のメッセージが多くの人に切実なものと感じられるでしょう。シンガポールで生活している私たちにとっては本書の内容はほぼ全て同意できます。本書を読んでアジアへの進出に関心を持った方は、なるべく早く現地を訪れ、単なる観光ではなく自分のキャリア展開にアジアのパワーをどのように活かせそうかイメージを持つようにしてください。

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シグナル&ノイズ

★★★

2012年の米国大統領選挙で、50州すべての選挙結果を事前に予測していたことで名をはせたネイト・シルバー氏による統計を用いた予測に関する書籍です。

日本でもビッグデータという言葉が良く聞かれるようになり、ビッグデータを用いた予測の申し子のように言われる著者ですから、いかにビッグデータが強力なツールであるのかについて展開されていると読む前は期待していましたが、意外や予測の難しさについて中心に説明されていました。

確かにデータは豊富に手に入るようになっていますが、そこから本書のタイトルにもあるようにノイズを除いて、意味ある仮説を立て検証し精度を高めていく作業がいかに困難であるか、著者の本業であるスポーツや政治の事例だけでなく、自然科学や金融市場の例も含めて解説されています。

完全な大統領選挙の予測を可能としたビッグデータを元にした予測のノウハウを期待して読んだ人にとっては肩透かしかもしれませんが、様々な分野で予測を行う統計分析の最前線に居る著者だからこその良心の表れとして、ビッグデータが万能ではないことをテーマとしたのでしょう。著者の名をはせるきっかけとなった2012年の大統領選挙についても運の要素があったと正直に認めています。

そもそもビッグデータがあればどんな予測も精度が高まり、巨大なビジネスチャンスがあるという今の日本でよく聞かれる言説こそが、過度な単純化を求めて高い質の予測を阻害する人間の特性を示しているでしょう。

著者の該博な知識に裏付けられた様々な業界での予測について解説されていますが、分野が多岐にわたっておりところどころにベイズ理論などの話も出てくるので、ストーリーは明快とはいえません。そのことが、読了することを難しくしているかもしれません。けれども、不確実な世界で限られたデータを元に予測することが不可欠で、失敗を繰り返しながらも精度を高めていく地道な作業が求められる投資家にとって本書は示唆に富んでいます。物事を予測するという行為の本質を知りたい方はぜひ読んでみてください。

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人工知能って、そんなことまでできるんですか?

★★★

人工知能が専門の東大准教授である松尾豊氏に、経営競争基盤の塩野誠氏が、様々な角度から質問しながら、人工知能の最前線や展望について解説する対談本です。

ちなみに、松尾さんは私の大学時代の部活の先輩ですが、これほど著名な研究者であることは初めて知りました。通常、こうした対談本は内容が浅くなりがちですが、塩野氏が該博な知識に基づいてテンポよく質問をし、それに対して松尾さんも研究者にありがちな当り障りのないコメントではなく、思い切った答えを返しているので、刺激的な話となっています。

人工知能といえば、将棋やクイズなどの頭脳ゲームで人間のエキスパートをコンピュータが上回ってきていることが大きなニュースとなっています。また、スマホの音声アシスタントやeコマースのオススメ機能など、日々の生活でも人工知能技術の発展を感じる機会が増えています。

一方、人間を人間たらしめる知能に関するトピックであることから、人工知能が発展することでXX年以内のXX%の仕事が失われるといった、ネガティブな側面を強調とした記事も増えてきています。本書を読むと、人工知能は人間の知能とは異質なもので、全く異なった特性があることが分かります。

徒に技術の発展を恐れていても生産的な活動にはつながりません。人工知能の特性を踏まえた上で、人間や個人の強みを特定してその方向にスキルを伸ばし、人工知能をツールとして使いこなしていくことを意識したいと感じました。

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究極の海外不動産投資

レベル4 ★★★

私たちもまさに本書のテーマである海外不動産投資でコラボしたことのある内藤忍さんによる、海外不動産投資の入門書です。本書の白眉は、著者が実際に足を運び購入した国について解説していることです。

円安により海外投資に関心を持つ人が多くなっており、目に見えて分かりやすい海外の不動産投資も人気となってきています。しかし、流動性が低くただでさえリスクが高い不動産投資に、さらに海外という要素が加わることで様々なトラブルも出てきています。私たちも、お客様に不動産投資をご案内するうえで、最も気を遣うのが現地の提携先の選定です。

本書では主に米国、マレーシア、タイ、フィリピン、カンボジアの不動産投資が紹介されていますが、それぞれの国について情報提供がどの不動産エージェントであるか明記されています。どれも、内藤さんが自分自身でサービスを受けて納得して付き合っている会社ですから、このリストが手に入るだけでも本書の価値はあるでしょう。

新興国を中心として外国人による不動産投資に関する規制は頻繁に変わり、ネットでは古い情報も目立ちますが、本書は今年時点の最新のもので統一されています。内藤さんは金融商品について海外投資の啓蒙家として日本の第一人者でしたが、不動産についてもそのポジションを築きつつあります。海外不動産投資に関心にある人はぜひ本書でベーシックな情報を身につけてから、関心のある場所を選び現地に足を運ぶようにしてください。

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沈みゆく帝国

★★★

スティーブ・ジョブズの病状や、アップル幹部の辞任など、アップルの番記者として数々のスクープを飛ばしてきた著者が、ジョブズ亡き後のアップルの歩みを克明にまとめたノンフィクションです。過去の出来事だけでなく、今後の予測もされていますが、その結論はタイトルにもあるように悲観的なものです。著者は以前にソニーも記者として担当しており、創業者の盛田昭夫亡き後のソニーの凋落ぶりも間近に見ており、アップルの現状もソニーと同調しているところが多いと感じているようです。

本書は、世界的ベストセラーとなったウォルター・アイザックソン氏によるジョブズの自伝には出てこなかったエピソードも豊富なので、これまでのアップルの歩みとジョブズの人となりを把握するうえでも興味深い内容です。ただ、本書の多くはアップルとサムスンの訴訟合戦や社内の混乱ぶりなど、ジョブズ亡き後のアップルの低迷についての描写です。

確かに、2010年のiPad発表以降4年近くにわたって新製品の発表はありませんし、株価も2012年9月の史上最高値をつけてから、依然この株価を更新できていません。一方、豊富な手元資金による自社株買いや他社の買収を市場は概ね好感し、株価も昨年の安値からは6割以上上昇しています。ジョブズの死の直後は、Siriや地図アプリなど大きな不具合がありましたが、直近の製品やソフトウェアのバージョンアップでは混乱がなく、ユーザーからも一定の評価を得ています。

そもそも、カリスマ創業者がなくなった後にスムーズに成長していった企業などないでしょう。ジョブズ健在の時にはありえなかった、決算発表にCEOが参加するといった企業の一般的な振る舞いをアップルが身に着けてきていることへの安心感も、投資家は感じていると思います。

長年アップルを取材してきたが故の愛の裏返しもあるのでしょうが、著者のアップルの現状に対する悲観的な論調があまりに行き過ぎで、ないものねだりとも感じました。

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