Hard Things

レベル4 ★★★★

自分で立ち上げた会社を16億ドル(約2,000億円)以上で売却し、現在は世界有数の大手ベンチャーキャピタル(VC)を率いる人物が著者と書くと、よくある成功譚と思う人もいるでしょう。しかし、本書は上記の成功に関する記述は全くなく、起業後から売却にこぎつけるまでの苦労に焦点があたっています。

起業して、VCから初めての出資を受けた直後のミーティングで、CEOであった著者への最初の質問が「いつ本物のCEOを雇うのか」であったこと、会社が順調に成長し始めた直後にITバブル崩壊が起き大半の社員をリストラせざるを得なくなったこと、技術革新により売上のほとんどを占める事業から撤退し新規事業への転換を求められたこと、新規事業へのシフトが終わるや否や売上の8割を占める最大顧客が購入を停止したいと言ってきたこと、企業売却の土壇場になってこれまで長く付き合ってきた監査法人から財務資料を修正すべきという横やりが入り破断になりそうになったこと等、著者がこれまで経験してきたHard Thingsがこれでもかと詰め込まれています。

著者とは比較にならないサイズですが、事業を営む者としてはその苦境の厳しさが分かるだけに、読んでいて動悸を覚えるほどでした。著者が本書を記した理由は天才や超人ではない自分がこのような苦境の中で、それでも何とか事態を打破させ成長できたことが、多くの起業家に参考になるのではと考えたようですが、確かにその効果は十分にあるでしょう。

ただ、本書を一番読むべきはこれから起業を考えている若者たちです。日本でも若者が起業することが一般的になってきており、世間では起業家というと華麗な成功者のイメージを持つ人も増えてきています。しかし、本書にある通りゼロから事業を起こし世の中に問うていくことは、予想外の問題が噴出し何とか対処する頃にまた次の問題が浮上することの連続です。

私自身、この本を創業から3年目までに読んでいれば、あまりの苦しさに途中で読破をあきらめていたと思います。起業から5年が経ち、少し先のビジョンが見え始めてきた今だからこそ、本書の内容をある程度客観的に受け止め読み進めることができました。

起業家は本書の結びにあるように上記のようなHard Thingsの連続を乗り越え、できれば楽しめるくらいでないと成功できません。一人でも多くの若者が本書を読み、それでも起業することを願っています。

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ウォール街のアルゴリズム戦争

レベル3 ★★★★

以前にこのブログで紹介したマイケル・ルイスの「フラッシュ・ボーイズ」でその存在が広く世の中に知られるようになった超高速取引ですが、本書ではその実像にさらに深く切り込んでいます。著者はウォール・ストリート・ジャーナルで長く金融市場を担当していた人物で、前著にはこちらもこのブログで非常に高く評価した「クオンツ」があり、超高速取引の実態についてその黎明期からどのように発展してきたのかが詳細に解説されています。

「フラッシュ・ボーイズ」が超高速取引業者を顔の見えない悪者として、その悪者に対抗するブラッド・カツヤマを主人公に超高速取引業者を排除した新しい取引市場の設計という物語調の展開であったのに対して、本書はそもそも株式市場の電子取引を可能にしたプログラマーや、電子取引を高速化することで利益を得ようとしたヘッジファンドなど超高速取引業者という、超高速取引の担い手に焦点が当たっています。

金融関係者にとっては本書の方が「フラッシュ・ボーイズ」より読みごたえがあり、超高速取引の実像により迫ることができるでしょう。これまでほとんど取り上げられることのなかった、電子取引のプログラミングの天才ジョシュア・レヴィンが、現在の世界中の過半の取引所のシステムの基本設計を作り上げたというエピソードはとても印象的です。

「クオンツ」でも取り上げられた超高速取引で知られるルネッサンス・テクノロジーズやシタデルなどヘッジファンドに関する記述は著者の得意とするところだけあって詳細かつ迫力がありますし、これらファンドと比較してその実像がほとんど知られることのなかったゲッコーやバーチュといった超高速取引業者がどのように拡大してきたのかを知っておくことは、現在の金融市場の性質を理解する上で大変役立つでしょう。

本書の最後では機械学習など人工知能の技術も金融取引に動員されていることが紹介され、取引の超高速化、機械化がさらに進められていくだろうことが示されています。フラッシュクラッシュなどの急落や一般投資家との公平性などデメリットも目立ってきている超高速取引ですが、本書を通じてその理解が進み、より健全な形での発展につながるルール作りが行われることを期待しています。

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不動産は「物語力」で再生する

レベル4 ★★★

日本へのインバウンド観光や投資が注目される中、円安により海外の主要都市より割安感が高まっている国内不動産への海外からの投資も増えてきています。ただ、そのほとんどは東京都心に集中していて、それ以外ではニセコなど一部のリゾート地に投資対象は限られています。

京都の何有荘という重要文化財にも認定されている庭園を有した邸宅が、3代目のオーナーにより荒れ果ててしまっていたところを再生し、最終的にオラクルの創業者ラリー・エリソンにクリスティーズのオークションを通じて売却することに成功した、奈良で不動産会社を営む川井徳子氏が著者です。

クリスティーズのオークションにおける初期価格は80億円でしたから、おそらくエリソンは100億円以上で何有荘を落札したと見られています。何有荘は元々南禅寺の敷地であったところに、明治初期に近代きっての庭師とされる小川治兵衛により作られ、歴史的価値に加えて立地や希少性に優れた物件ですからここまでの価格となりました。

ただ、その素材だけでは広くクリスティーズを通じてグローバルにその価値を訴求することはできず、川井氏の人並み外れた情熱により今の姿にまで昇華したからこそ、高い評価となったことが本書からよく分かります。川井氏の不動産の本質的価値を見抜く眼力が、その波乱万丈な人生を通じて培われただろうことも印象的でした。

日本のあちこちで、歴史的価値のある不動産が適切に管理されず、荒れ果てるままになっていますが、今や日本国内だけでなくグローバルに日本の歴史的価値がある物件に関心がある投資家は数多くいます。

川井氏のように物件の本質的価値を見抜いて、多大な労力をかけてその魅力を最大限に引き出し、グローバルに訴求することでエリソンのような日本文化を愛する大富豪が購入し、長きにわたって物件が魅力ある状態で維持されていくというケースがもっと増えていけば、インバウンド投資のトレンドが地方再生につながっていくでしょう。

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国家はなぜ衰退するのか

レベル3 ★★★★

欧米の経済学者の著作には、とてつもないデータに裏付けられた力作がありますが、本書もその1つです。紀元前から様々な国や地域の経済動向を例にとって、経済発展と衰退を引き起こす条件について解き明かしていきます。

著者が本書で繰り返し指摘していることは、経済に限らず政治や社会も含めた包括的な制度が整っていることが経済発展に不可欠ということです。地理的条件や植生・動物相、遺伝的な条件などが経済発展を生み出したとする、これまで世間でもてはやされてきた理論を、豊富な事例からばっさりと切り捨てています。

本書には投資に役立つインサイトも豊富に盛り込まれています。20世紀後半まで、欧米の経済学者の多くが、ソ連のGDPが米国のそれを凌駕すると予測していたことなどは、現在の新興国投資ブームを俯瞰する上で貴重な情報でしょう。本書では、中国の経済発展など直近の事象が持続可能なものとなるにはどのような変革が必要になってくるかも具体的に指摘しています。また、本書では日本が成功例として度々登場します。明治維新についても詳細に取り上げられており、欧米の経済学者の研究の対象範囲の広さに驚かされるでしょう。

1つ残念なのは本書のタイトルが「~衰退するのか」になっていることです。経済発展への希望よりも、衰退への恐怖が勝っている日本だからこそのタイトルでしょうが、本書の核心は経済発展を生む条件です。ぜひ、本書から日本人が衰退を避ける道ではなく、再び経済を発展させる条件について学び、実践してほしいと思います。

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市場は物理法則で動く

レベル3 ★★★★

これまでも伝統的な経済分析を否定し、経済や社会構造を物理法則で読み解くべきと繰り返してきた著者による最新作です。金融危機後に執筆されただけあって、金融市場に焦点を絞って従来の経済や金融分析の手法には致命的な欠点があることを強調しています。

その致命的な欠点は、金融市場は均衡するものだという前提で、それを裏付けるための精緻な数学モデルや理論は単なる自己満足にすぎないと切って捨てています。金融市場は、周期的に大きな災害を生み出す気候や地震などと似た振る舞いで、必然的にバブルや危機などが起きる構造になっているという主張が繰り返されています。

やはり、リーマンショックを契機とした金融危機はこの主張を裏付ける恰好のイベントで、リーマンショック以外にもクオンツ危機やフラッシュクラッシュなど様々な金融市場のイベントから、金融市場の物理法則に沿った振る舞いと、その構造についての物理的な理解が紹介されています。

既存の正規分布的な振る舞いを前提とした経済や金融工学では、リーマンショックのような大きな金融危機が説明できないことは、「ブラック・スワン」の著者ニコラス・タレブなどが繰り返してきましたが、本書ではさらに突っ込んでそのベキ分布的な振る舞いを生み出している構造を説明する理論や、危機を防ぐ対処法まで提案されています。

従来型の経済や金融工学の理論では、超高速取引が拡大している金融市場の実態は全く捉えられず、リーマンショックやフラッシュクラッシュを上回るような危機がいつ起きても不思議ではないという著者の懸念は正しいでしょう。本書で提案されているような金融機関がデリバティブ取引を介してどのようにネットワーク結合しているのかという、当局による金融市場の物理的な理解が進むことを期待しています。

一方、本書に金融危機として取り上げられているクオンツ危機のような事象への理解が深まり、リスクを減らすことは当のヘッジファンドにとっても有用ですから、市場の参加者からも本書にある金融市場において複雑系の物理学が有用であることの理解が広がることも望まれます。

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人の砂漠

★★★

このブログでは、基本的に資産運用やビジネスに関わる書籍しか取り扱いませんが、本書はかなり古いルポルタージュと異色です。本書を取り上げた理由は、「鼠たちの祭」という穀物の先物相場で世間をにぎわせた相場師たちについての短編が本書におさめられているからです。著者の沢木耕太郎氏はスポーツを中心としたルポルタージュに定評があり、スポーツ以外にもアジアを鉄道で旅した様子をまとめた「深夜特急」は、一時バックパッカーを中心としてカリスマ的な人気がありました。

「鼠たちの祭」には、1970年前後に世間をにぎわせた大物相場師たちが数多く登場します。現代ですら、日本においては投資家・ファンドマネージャーは異質な存在ですが、40年以上前ではいかに際物的存在であったかがよく分かります。ただ、それだけに純粋に相場を愛し、相場でしか生きられない男たちが集っていたことが分かります。当時とは金融市場の在り方も大きく変わっていますが、相場自体の人間の欲望と希望を表して鳴動するという本質は何ら変わっていないことも分かります。

この作品はシンガポールで交流している大物相場師から薦められたことがきっかけでした。本作品にも登場する相場師たちのことを良く知る人がいい作品だと薦めるだけあって、時代を超えて伝わってくる独特の迫力があります。「鼠たちの祭り」以外は、金融市場と何の関係もないですが、現代に通ずる社会の闇について考えさせられる作品ばかりです。本書で沢木氏の作品への関心が高まったので、まずは代表的な「敗れざる者」や「深夜特急」から読み進めていきたいと思います。

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Work Rules

★★★★

今アップルと並んで世界でも最も注目される企業グーグルの人事担当の責任者による本です。この書評でもグーグルに関する本は色々と紹介してきましたが、ほとんどはグーグルの技術力やビジネスモデルの革新性に関するもので、人事についての本は初めて取り上げます。

本書を読んで最も強く感じることは、グーグルでは人事についても定量分析を非常に重視していることです。徹底した定量分析により効率的なデザインを吟味して使いやすいプロダクトを作りこんでいくように、社員の評価制度や福利厚生の仕組み、報酬決定のメカニズムも、科学的な実験プロセスにより最適化されていることが分かります。

グーグルの社内にはこうした統計分析やそのための情報システムに長けたエンジニアや科学者がたくさんいるので、新たな人事制度や福利厚生の仕組みを導入するときは、必ずそれをパイロット的に導入するグループと従来のままのグループを分けて、その効果を測定しています。同じような科学的な分析は、社員のパフォーマンスの差についての分析にも適応され、その差を計測するだけでなく、差を生んでいる要因の特定と、さらには効率的な改善策にまで踏み込んでいます。

グーグルの人事制度というと、高い報酬や無料で提供される食事や送迎サービスなどに目が行きがちですが、爆発的なリターンを上げている会社が気まぐれに大盤振る舞いをしているのではなく、このように精緻な分析に基づいてこうした制度が設計されていることが分かります。

そして、社内で長い期間をかけて練り上げた知見を本書で惜しみなく伝えていることは、グーグルーの本業におけるオープンソースの姿勢と共通するもので、企業イメージをさらに向上させるでしょう。グーグルはIT業界のビジネスや科学技術だけでなく、組織設計においてもオープンイノベーションを実現させそうです。

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イーロン・マスク 未来を創る男

★★★★

電気自動車(テスラ)/宇宙ロケット(スペースX)/太陽光発電(ソーラーシティ)と、民間企業が成功することが困難と考えられていた事業で、次々と世界的な成功をおさめ、スティーブ・ジョブズ亡き後にグローバルで最も注目されている起業家、イーロン・マスクの初めての公認伝記です。

マスクと同じペイパルマフィアのピーター・シールが「(21世紀に我々が期待していたのは)空飛ぶ自動車だったのに、手に入れたのは140文字(ツイッター)だった」と発言したように、金額的には急成長しているテック系のスタートアップも、技術的には革新性に乏しく、いかに広告のクリックレートをあげるのかなど、些末な技の巧拙を競っているだけだという声が、今のシリコンバレーを評して増えています。

その声に真っ向から反論するように、化石燃料への依存を抜本的に改善する電気自動車や太陽光発電、アポロ計画以来停滞している宇宙開発など、人類全体の課題解決に大きく資する骨太なトピックで次々とマスクは起業しています。そして、どの事業においても大成功を収めているマスクは、人類全体の可能性を感じさせてくれる稀有な存在です。マスクは南アフリカに生まれ、壮絶ないじめを経験しながらもたぐいまれな知的能力を発揮し、14歳の時に親族を頼って単身カナダに渡ります。その後、ペンシルバニア大学に進学し、スタンフォード大学の博士課程に進みますが、起業家となるためすぐに退学します。

兄弟と立ち上げた位置情報サービスの会社や、次に立ち上げたオンライン決済企業ペイパルの売却益で、数億ドルの資産を得ますが、マスクはそこで満足しません。学生時代から、人類の存続可能性を高めるために、輸送機器/宇宙開発/再生可能エネルギーの分野でのビジネスを手掛けたいと考えていて、その夢を形にするために上記の3社を起業します。骨太なトピックなだけに必要となる資金も膨大で、一時は破産寸前まで追い込まれながらも、なんとか成功に結び付けるプロセスは、本書に詳細な記述があり、その迫力に読み手としても震えました。

マスクを知る人は、彼のことを「ジョブズのセンスと、ゲイツの頭脳を合わせて、それをグレードアップした人物」と評しているようですが、ここまでの彼の歩みはそれを裏付けています。しかし、マスクは全く現状に満足しておらず、テスラでは世界にある全電池工場の生産キャパシティを1つの工場で上回るギガファクトリーという施設を立ち上げる予定ですし、スペースXでも宇宙ステーションへの荷物の運搬はあくまで1ステップで、最終的には火星への定期的な有人飛行を目的としています。

世界を巻き込みながら、自分の資産も時間もすべてをオールインして勝負し続けるマスクについて、ぜひ本書を通じて学んでみてください。

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中国のスティーブ・ジョブズと呼ばれる男

★★

優れたインターフェースの高機能スマホを、アップルやサムスンといった一流ブランドの半分以下の値段で提供することで、中国のスマホ市場を席巻しているシャオミの創業者、雷軍(レイ・ジュン)の伝記です。

本書のタイトルにあるように雷軍は、プレゼンの時の振る舞いや服装においてスティーブ・ジョブズを模倣していると言われており、中国のスティーブ・ジョブズとして欧米メディアで紹介されることが多くなっています。また、シャオミのOSはグーグルのアンドロイドを使っていますが、独自のユーザインターフェースを開発することで、製品の見た目も、使い心地もiPhoneとそっくりに仕上げられています。

こう書くと、中国メーカーにありがちな模倣者のように聞こえるかもしれません。しかし、中国の消費者も所得が上がるとともに、海外に旅行した経験を持つ人も増え、いくら安くても単なる模倣品ではシャオミのように成功することはできなくなっています。

本書で初めて、雷軍はシャオミを立ち上げる前に、大手ソフトメーカーの社長を20代で務めるなど、中国のIT業界の興隆において重要な人物であったことを知りました。そして、今まで培ってきた中国IT業界における人脈と知見がシャオミの大成功につながっていることが分かります。ただ記述が、時系列が前後しながら進むため、中国のIT業界に詳しくない人にとっては内容が理解しづらいことが残念です。

シャオミは、スマホ業界に限らず全業界で見ても、史上最速のペースで拡大している企業で、創業わずか5年で売上1兆円を達成しました。雷軍はまだ45歳で、アリババの創業者ジャック・マーが50歳、テンセントの創業者である馬化騰は43歳です。

日本では例がない40~50歳で、時価総額が10兆円以上の企業を率いる創業者たちが、これまで製造業が中心であった中国経済の次世代の成長を駆動していくと感じさせられます。

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未来のつくり方

★★★

よくあるシリコンバレーの現状の紹介や起業論とは一線を画した、シリコンバレーを中心とした米国がなぜイノベーションを生み出したのか、100年以上前からの米国の社会構造や思想体系にその解を求める大ぶりな本です。

50年前に提唱されて以来、ずっと当てはまっているムーアの法則「18~24ヵ月で半導体の集積密度は倍になる」など、米国人の未来へのある意味無邪気ともいえる楽観的な姿勢が、様々な技術や社会制度の核心を生んで、未来の予測を自己成就させるというサイクルを生んでいるというのが本書の主張です。

個人的には、企業やMITとスタンフォードに代表される研究機関の性格が、東海岸と西海岸で大きく異なることについての説明が、他書にはない内容で興味深かったです。こうしたマクロ的な主張を裏付ける文化論などと同時に、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェット、イーロン・マスク、ピーター・シールといった現在の米国経済を支える傑出した個人の人物像についてもよくまとまっています。

シリコンバレーを模倣しようとして失敗することは世界中でこれまで繰り返されてきています。次々と技術革新を生み出し、それが新規産業創出につながるという表面的なサイクルをまねしようとしても無理で、まずは本書にあるようなシリコンバレーを成功に導いている文化的、社会的背景まで深く理解する必要があるのでしょう。

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アップル・グーグルが神になる日

★★

センセーショナルなタイトルですが、内容はまじめなIT業界の行く末についての予測です。エンジニアによる著作なので、スマホやウェアブル機器、最近話題のIoT(Internet of Things:モノのインターネット化)が、今後どのように発展していくのか低消費電力タイプのブルートゥースなど、技術企画の内容から予測しています。

結論からいうと、タイトルにあるようにスマホのOSで支配的になっていて、その上のアプリの課金体型までプラットフォームを抑えている、アップルやグーグルの隆盛がさらに続き、スマホに移行してから完全に米国勢に押されている日本のメーカーは、ますます劣勢になっていくという予測です。

ハードウェアのコモディティ化が進み、ソフトウェアはもちろん、その上にどのような技術的・経済的プラットフォームを築くかに、IT業界の優勝劣敗はかかっているという指摘には同意できますし、その戦いで日本企業が負け組となってしまうという予測も正しいでしょう。

以前にソニーの凋落を描いたNHKの特集番組で、ソニーをやめた技術者たちがより画質のよいテレビの開発に注力しているシーンがありましたが、これなど日本企業のハードウェア信仰の典型で、一般の消費者にとってほとんど区別できない技術進歩を、コンテンツの単なる出口の1つになりつつあるテレビパネルで実現したところで、ビジネスとしては全くうまくいかないでしょう。

せっかく、大企業をやめてベンチャーとして身軽に動けるのに、旧態依然のハード開発にこだわっている姿に暗澹たる気持ちになったところで、本書を読み他の業界でも日本企業の躍進は望めないと感じました。

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孫正義の焦燥

★★★

ソフトバンクの孫社長についての書籍は数多ありますが、本書は近年孫社長に密着している日経新聞社の記者による書籍で、孫社長以外のソフトバンクの経営陣や直近のビジネスシーンについての解説が充実しているところに特徴があります。

孫社長についてはその出自と、圧倒的な成長の軌跡が物語としても一流であるため、伝記的な著作は数多くありましたが、本書は純粋に経営者としてのビジョンと、そのビジョンの実現をサポートする孫社長以外の経営陣について焦点が当たっており、経営に携わる人にはより参考になる内容でしょう。

東南アジアやインドを中心としたベンチャー投資や、苦戦が伝えられるスプリント買収による米国進出、再生可能エネルギーへの取り組みなど、最新のソフトバンクの経営を取り巻くトピックについて、最新の孫社長の声が伝わってきて、今後の展望について色々な手掛かりが得られます。

巻末の孫社長を取り巻く人物相関図もよくまとまっていて、本書を読むとやはり日本企業の経営者で本気でグローバルトップになろうとしているのは、孫社長しかいないという思いを新たにしました。最近大きなニュースとなった、グーグルから年収165億円で引き抜いたニケシュ・アローラが、なぜ後継者に指名されたのか、そして他の日本人の経営幹部に今後の役割についての、著者の予測もあります。

ソフトバンクのロボットや人工知能への取り組みなど、これまであまり書籍で取り上げられなかった、長期的なテクノロジーに対する孫社長のビジョンも紹介されています。事業会社ではなく投資会社であるとされることも多いソフトバンクですが、本書にある長期的なテクノロジーへの情熱が大きなビジネスとして結実するところまで持続するのか、ソフトバンクの今後の歩みへの関心も本書で大きくなりました。

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