人工知能は人間を超えるか

★★★

著者は人工知能の若き権威である東大准教授の松尾豊さんですが、大学の部活の先輩で、先日そのご縁でインタビューをさせて頂いた時に、ご本人からプレゼントをして頂いて読みました。

本書にもありますが、人工知能は現在3回目のブームを迎えています。2000年代以降の急速なネットとIT機器の普及によるビッグデータが利用可能になったことがその要因ですが、これまでも人工知能は20年ごとにブームを迎えてきました。

まず1960年代に大型コンピュータの普及により人工知能への期待がふくらみ、その後1980年代にはプロセッサーとメモリの機能の進化により人工知能はブームとなりました。ただ、最初のブームは推論と探索では現実社会の複雑な問題は解けないことから、2回目は人間が常識的に身に着ける知識を記述することの難しさからブームはしぼみ、その後10年以上に渡る冬の時代を迎えました。

松尾さんは第2次ブーム後の冬の時代に人工知能の研究をスタートさせたので、今でこそ人工知能は多大な関心を集めていますが、ブームの本質的な意味について客観的な立場から淡々と評価しています。

直近では、人工知能が発達しすぎると人間の存在をも脅かしかねないといった議論もよく目にしますが、そうした迷走気味の人工知能に対する論評についても、杞憂であるものが多く、心配する必要はあまりないことも明快に説明されています。

本書の白眉は、人工知能の分野で現在最も期待を集めているディープラーニングという手法についての解説です。画像認識などこれまで人工知能が苦手にしていた機能を飛躍的に発展させ、様々な応用が期待されていますが、その実態が素人にも理解できる書籍は他にほとんどないでしょう。

金融分野にも今後多大な影響を与えると考えられる人工知能について、本書をもとに概要を理解しておくことは、資産運用にも有用です。

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ITビジネスの原理

★★

マッキンゼーやリクルート、グーグルなど10回の転職を経て、現在は楽天の取締役をつとめている著者によるIT業界のビジネスモデルについての入門書です。

多くの事業会社やコンサルティング会社での実務経験から、現在IT業界で成功している企業のビジネスモデルについて、各社どこに特色と強みがあり、どのように稼いでいるのかがわかりやすくまとめられています。そして、なぜ大成功を収めているグーグルから、規模がはるかに小さく事業エリアも大きく異なる楽天に転職することになったのかという経緯を通じて、日本のIT企業が持っているポテンシャルについても解説されています。

日本社会が持っているハイコンテクストという特性から、これまでローコンテクストの国である米国が発祥で、英語というデフォルト言語による情報発信が中心だったところに、日本のIT企業が異なった発展の方向性を打ち出せるという視点は興味深く感じました。ただ、マッキンゼーの同僚で他にも楽天に転職した知り合いがおり、彼はこの本の著者と逆に楽天からグーグルに転職したのですが、本書にあるハイコンテクストなサービスの担い手として、楽天がふさわしいのかという点にはこの知り合いの話を聞く中で疑問を持っています。この点については、この見方を覆すような展開を将来の楽天が成し遂げることに期待しています。

また、原理という言葉がタイトルにありながら、フェイスブックの広告単価が低くならざるを得ないという記述や、未来のIT機器の代表例として先日開発の中止が発表されたグーグルグラスが取り上げているなど、出版から1年が経過した現在、疑問を感じるような部分があったのは残念でした。もちろん、非常に変遷が早いIT業界のことなので仕方がない部分もあるでしょうが、IT業界のビジネスモデルのより普遍的な部分についての説明を増やしたほうが、タイトルのイメージに合致すると感じました。

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イスラーム国の衝撃

★★★

イスラム研究の一線で活躍する研究者である著者が、日本人人質事件により日本でも大きな関心を集めるようになったイスラーム国の誕生と現状、今後の展開について分かりやすくまとめています。

著者の講演は東大時代に何度か聞く機会がありましたが、日本人のイスラム研究者にありがちな過度な理想のイスラム教への投影がなく、極めて中立的で学問的な見地から、わかりやすく解説をしてもらえ、とても学びが多かったことを覚えています。

本書も、イスラーム国がどのような国際情勢から生まれ、現状どのような影響力を持っており、さらに中東における歴史的な文脈から今後どのような派生が予想されるのかまで、一般的読者にも分かりやすく、かつ中立的に書かれています。

本書のタイトルは扇情的ですが、日本人人質事件が公になる以前に本書は発表されています。本書の内容も、著者がここ10年発表してきた論文が下地となっており、今後イスラーム国をタイトルとした本が次々と出版されるでしょうが、そうした注目されてから書かれた浅薄な本とは、完全に一線を画す内容といえるでしょう。

本書でも著者が度々懸念を示している通り、日本でのイスラム研究の専門家ネットワークは欧米に比べて極めて貧弱です。そのことを示すかのように、イスラーム国による日本人の拘束とその殺害後に、日本のメディアでは専門家がこぞって今回の事件を強引に日本の政権や社会批判の道具として論考するシーンを多々目にします。

著者のブログやフェイスブックでは、そうした安直な言説に痛烈な批判が繰り返されているので、本書を読んでさらにイスラーム国とそれを取り巻く中東情勢についての理解を深めたい方は、参考にされることをオススメします。

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ジョナサン・アイブ

★★★★

iPhone6の販売が世界的に好調で、株価も史上最高値を更新し続けているアップルですが、その競争力の源泉と多く人が見ている、アップルのデザイン責任者ジョナサン・アイブのこれまで軌跡について、初めて網羅的にまとめられた著書です。

ジョナサン・アイブとも親交があり、IT業界への造詣が深いライターが著者なので、これまでほとんど知られていなかった、アイブがどのように今のような傑出したデザイナーとなったのか、生い立ちからキャリアステップ、アップルでの活動まで、時系列で分かりやすく紹介されています。

アイブの才能にはスティーブ・ジョブズもほれ込み、ジョブズが亡くなるまでの数年間、彼は奥さん以上の時間をアイブと過ごしたと言われています。iMac、iPod、iPhone、iPadとジョブズがアップルに復帰した1997年以降、アップルは次々と世界的ヒット商品を生み出し、現在は時価総額で世界最大の企業となっていますが、アップルのここ20年の主力商品のデザインには、常にアイブの貢献があったことが分かります。

ジョブズの後をついでアップルのCEOとなったティム・クックは、どちらかというと能吏タイプの経営者で、サプライチェーンマネジメントなどオペレーション周りを得意としているため、アップルをアップルたらしめている洗練されたデザインの商品群とサービスの提供には、クック以上にアイブが欠かせないと言えるでしょう。

銀細工の職人であった父親からデザインの魅力について学んだアイブは、英国というデザイン教育に優れた環境を活かして成長し、アップルでの成功により世界最高にして、最重要のデザイナーとなっています。

日本でも、徐々にデザイン思考といった言葉が広まっていますが、本書を読めば優れたデザインを生み出すために、並外れた個人の才能はもちろん、徹底して上質なものを追求するこだわり、多様なバックグラウンドからなるチームのハーモニー、さらには全社的にデザインに関する機能を尊重する雰囲気まで、ありとあらゆる努力と犠牲が必要となることが分かります。

デザインに興味がない人も、こんにちのアップルの成功の秘訣についても色々と示唆を与えてくれる好著ですから、ぜひ手に取ってみてください。

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孫正義の参謀

★★

ソフトバンクの社長室長として8年以上孫正義氏を支えた著者が、入社したときには通信キャリアですらなかったソフトバンクが、どのように世界3位のキャリアにまで成長したのか、その軌跡を明かしています。

元衆議院議員からIT企業の社長室長という異例の転職をした著者ならではといえる、ソフトバンクの光の道構想や、再生可能エネルギーへの取り組み、米国第三位のキャリアであるスプリントの買収において、ソフトバンクがどのように政界への働きかけをしたのかを軸に話が展開します。

著者が民主党出身であるため、特に民主党政権時代に通信や電力といった国による規制が強い産業において、政界に巧みに働きかけたことがソフトバンクの成長の一助となったことがよく分かります。また、日本企業における米国企業の買収としては過去最高金額となったスプリントの買収時には、著者の人脈をフルに活かして上下院のキーパーソンやパウエル元国務長官など米政界の重鎮にアプローチし、支援を呼びかけ最終的にディール成功に結びつけたことが克明に描かれています。

ただ、同時に著者が元政治家であるため、ソフトバンクの成長の軌跡が主に政治面でのアプローチによる説明に偏り、ソフトバンクの創業者である孫正義氏をはじめ、ビジネス面での戦略立案についての記述があまりないことは残念に思いました。

著者も文中で指摘している通り、天才的な経営者である孫正義氏の唯一の弱点ともいえる、政治的な気配りに欠けることを著者が補完していたからこそ、政治面での記述が中心となったのでしょう。しかし、本書を手に取るほとんどの人は孫正義氏のビジョンがどのように生み出されているのかを知りたいというのが最大の動機でしょうから、本書の内容に不満を持つ人も多いと感じました。

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マーケットの魔術師 エッセンシャル版

レベル3 ★★★★

これまで4冊の書籍が発表されてきた「マーケットの魔術師」シリーズから、特に重要な部分を抜き出した要約版です。私たちもマーケットの魔術師シリーズは4冊とも読んでいますが、合わせて2,000ページの大著ばかりですから、手元に電子版などで持っておくといつでも読み返せて便利に感じました。

本書では著名なヘッジファンド・マネージャーやトレーダーが、金融市場で成功する上で有用だと感じているルールが数多く紹介されています。金融市場の状況は時々刻々変わっていきますが、マーケットで成功するための法則は全く変わらないことが分かります。

書店やアマゾンを見ていると、「XXXでXXX億儲ける」といった即物的な本が多々見られますが、こうした本は役に立ったとしても、通用するケースは非常に限定的です。本書のルールはそのほとんどが人間の直観や本性に反するものなので、なかなか受けづらいかもしれませんが、だからこそこれらのルールを守れる人が数少ないマーケットの勝者となれると肝に銘じて下さい。

著者自身がマーケットで長く取引をしている人物で、著名投資家にも鋭く切り込んだ質問をしているため、凡庸なインタビューでは引き出せない鋭いフレーズが引き出されています。私自身、特に心に響いた文章を電子書籍でマークアップし、読後もその部分を繰り返し検索して読み返しています。金融市場は常に人の心を惑わすものですが、本書でそれと対峙する上でのスタイルを形成していってください。

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アジアシフトのすすめ

★★★

元国会議員で現在はシンガポール国立大学の教授である田村こうたろう氏による、シンガポールを中心としたアジアの解説本です。著者には、シンガポールでの高級不動産に関する弊社イベントにゲストスピーカーとして来ていただきました。日本人には珍しいスケール感の大きな話しを、豊富なファクトに基づきながら展開してもらえ、参加者のほとんどの方に喜んでいただけました。

本書でも、東南アジアを中心としたアジア経済の将来性と、日本人・日本企業のアジアでのポテンシャルが分かりやすくまとめられています。著者は、アジアの首脳とも幅広い関係を持っているので、こうした人物たちの会談における具体的なエピソードが多いことも、アジアの現状のイメージをクリアにしてくれます。

アジアの成長性とともに、日本の将来に待ち受ける厳しい状況についても深く切り込んでおり、日本人・日本企業が積極的に進出しなければないという本書のメッセージが多くの人に切実なものと感じられるでしょう。シンガポールで生活している私たちにとっては本書の内容はほぼ全て同意できます。本書を読んでアジアへの進出に関心を持った方は、なるべく早く現地を訪れ、単なる観光ではなく自分のキャリア展開にアジアのパワーをどのように活かせそうかイメージを持つようにしてください。

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ピクサー流 創造するちから

★★★★

トイ・ストーリーでCGアニメという新しい境地を開いたピクサーの創業者エド・キャットムルが、自身のキャリアとピクサーのこれまでの歩みを振り返っています。ピクサーのアニメ映画は子供が好きなので、映画館や自宅でよく鑑賞しますが大人でも引き込まれる良作ばかりです。

エド・キャットムルは元々コンピュータサイエンスの科学者であるため、常にその文章は控えめで、ビジネス書にありがちな自分の体験の安易な一般化を避けようとする真摯な姿勢が貫かれています。ピクサーは元々スターウォーズの監督ジョージ・ルーカスの元でスタートし、その後スティーブ・ジョブズから出資を受け、トイ・ストーリーの監督として世界に名をはせたジョン・ラセターをディズニーから引き抜き、現在はディズニーの傘下にあると、エンタメ業界の大立者、巨大企業たちとともに事業を拡大してきました。

こうした人物・企業たちの知名度に本書の著者エド・キャットムルは隠れがちで、私自身本書を読むまで彼のことについて良く知りませんでしたが、本書を読むと彼なくして今日のピクサーがなかったことがよく分かります。キャットムルはまだCGがこの世に生まれたことから、いつかCGでアニメを作りたいという先駆的な夢を持っていました。そのころの夢を実現した後も、数多くの成功した作品をピクサーは生み続けていますが、その背景には優れた創造性に不可欠である自由闊達な議論を促す種々の工夫を、キャットムルがこれまで凝らしてきたことがあります。

ピクサーがディズニーに買収されたのちは、ディズニーのアニメ部門もキャットムルが率いていますが、過去の栄光にとらわれ優れた作品を生み出せなくなっていたディズニーを変革し、「アナと雪の女王」などの名作を再び創作できるようになったのかという物語は、ピクサーや直近のディズニーの映画と同じく一級品です。

エドの目から見たスティーブ・ジョブズ像も、これまでの数多くのジョブズにまつわる書籍のイメージと異なるもので、この章だけでも一読の価値はあります。創造性が必要とされるような仕事をしている人、そしてそのような環境を作りたい人は必読の良書です。

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How Google Works

★★★★

タイトルを見ると、よくあるグーグル本に見えます。グーグルやアップル、マッキンゼーなど世の中でビジョナリーとされる企業の働き方についてOBが解説する本は世の中に数多く出版されていますが、本書がその中で際立つのは執筆陣です。若い創業者2人のお目付け役として、長くグーグルのCEOを務めたエリック・シュミットをはじめ、どのようにグーグルという組織を活性化してきたのか、デザインした経営幹部たち自らが解説しています。

以前はマイクロソフト、最近ではアップルやフェイスブックがグーグルのライバルとしてよくあげられますが、こうしたエクセレントカンパニーであるライバルたちと比較しても、その創造性は一段高く評価できるでしょう。本業である検索事業と連動広告だけでなく、スマホのOSやマップサービス、メーラー、ブラウザなどでグローバルトップシェアとなり、まだ収益化はされていませんが車の自動運転や宇宙開発、ロボット、人工知能、バイオテクノロジーなど、21世紀のフロンティアと考えられる分野の多くで最先端を行っています。

興味深いのは、上記にあげた事業の多くが、トップダウンではなく社員の自発的な活動から生まれていることです。グーグルの働き方としては20%の時間を自分が決めたミッションに使えるルールが有名ですが、検索連動広告の改良やG-mailの開発などが、この20%ルールにより実現しました。

本書では自発的に創造的な仕事をする人材を「スマートクリエイティブ」と名付け、スマートクリエイティブたちがどうすれば気持ちよく働けるのか、グーグルのトップマネジメントが常に心を砕いていることが紹介されています。

20%ルールも、スマートクリエイティブ向けの施策の1つですが、本書で紹介される事例の多くが20世紀の企業経営では否定されてきた、もしくは考えもつかなかったようなモノばかりです。グーグルという世界屈指の人材を誇る企業だからこそ成功したと感じる人も多いでしょう。しかし、技術の革新によって変化が加速している現代において、ビジネスで成功するにはグーグルの働き方をまずは意識しておくだけでも価値があるでしょう。私たちも時間がかかりそうですが、本書で紹介されているような、そしていずれはさらに上回るような創造性を刺激する環境を自社に広めていきたいと考えています。

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シグナル&ノイズ

★★★

2012年の米国大統領選挙で、50州すべての選挙結果を事前に予測していたことで名をはせたネイト・シルバー氏による統計を用いた予測に関する書籍です。

日本でもビッグデータという言葉が良く聞かれるようになり、ビッグデータを用いた予測の申し子のように言われる著者ですから、いかにビッグデータが強力なツールであるのかについて展開されていると読む前は期待していましたが、意外や予測の難しさについて中心に説明されていました。

確かにデータは豊富に手に入るようになっていますが、そこから本書のタイトルにもあるようにノイズを除いて、意味ある仮説を立て検証し精度を高めていく作業がいかに困難であるか、著者の本業であるスポーツや政治の事例だけでなく、自然科学や金融市場の例も含めて解説されています。

完全な大統領選挙の予測を可能としたビッグデータを元にした予測のノウハウを期待して読んだ人にとっては肩透かしかもしれませんが、様々な分野で予測を行う統計分析の最前線に居る著者だからこその良心の表れとして、ビッグデータが万能ではないことをテーマとしたのでしょう。著者の名をはせるきっかけとなった2012年の大統領選挙についても運の要素があったと正直に認めています。

そもそもビッグデータがあればどんな予測も精度が高まり、巨大なビジネスチャンスがあるという今の日本でよく聞かれる言説こそが、過度な単純化を求めて高い質の予測を阻害する人間の特性を示しているでしょう。

著者の該博な知識に裏付けられた様々な業界での予測について解説されていますが、分野が多岐にわたっておりところどころにベイズ理論などの話も出てくるので、ストーリーは明快とはいえません。そのことが、読了することを難しくしているかもしれません。けれども、不確実な世界で限られたデータを元に予測することが不可欠で、失敗を繰り返しながらも精度を高めていく地道な作業が求められる投資家にとって本書は示唆に富んでいます。物事を予測するという行為の本質を知りたい方はぜひ読んでみてください。

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人工知能って、そんなことまでできるんですか?

★★★

人工知能が専門の東大准教授である松尾豊氏に、経営競争基盤の塩野誠氏が、様々な角度から質問しながら、人工知能の最前線や展望について解説する対談本です。

ちなみに、松尾さんは私の大学時代の部活の先輩ですが、これほど著名な研究者であることは初めて知りました。通常、こうした対談本は内容が浅くなりがちですが、塩野氏が該博な知識に基づいてテンポよく質問をし、それに対して松尾さんも研究者にありがちな当り障りのないコメントではなく、思い切った答えを返しているので、刺激的な話となっています。

人工知能といえば、将棋やクイズなどの頭脳ゲームで人間のエキスパートをコンピュータが上回ってきていることが大きなニュースとなっています。また、スマホの音声アシスタントやeコマースのオススメ機能など、日々の生活でも人工知能技術の発展を感じる機会が増えています。

一方、人間を人間たらしめる知能に関するトピックであることから、人工知能が発展することでXX年以内のXX%の仕事が失われるといった、ネガティブな側面を強調とした記事も増えてきています。本書を読むと、人工知能は人間の知能とは異質なもので、全く異なった特性があることが分かります。

徒に技術の発展を恐れていても生産的な活動にはつながりません。人工知能の特性を踏まえた上で、人間や個人の強みを特定してその方向にスキルを伸ばし、人工知能をツールとして使いこなしていくことを意識したいと感じました。

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Zero to One

★★★★

日本でも騒がれているので読んだ方も多いかもしれませんが、米国のスタートアップシーンの頂点に君臨しているペイパルマフィアのドン、ピーター・シール氏による起業論です。ただ、一般的なビジネス書とは異なり、起業や事業に関するノウハウを解説しているのではなく、シール氏の思想体系が幅広く展開されています。

ペイパルマフィアとは、フェイスブックに初期投資をして大富豪となったシール氏をはじめ、テスラ・モーター/Space Xの創業者イーロン・マスク氏、LinkedInの創業者リード・ホフマン氏、さらにはYou TubeやYelpの創業者など、米国の著名なスタートアップの立ち上げにことごとくオンライン決済会社ペイパルの創業メンバーが絡んでいることから名づけられた名称です。

このペイパルマフィアの中において、シール氏は多くのマフィアたちを相互に結びつけている最も重要な人物として知られています。スタンフォード大学で学びロースクールを出て、一流法律事務所に入社寸前まで行っていたシール氏がなぜ起業の世界に身を投じ、巨大な成功をおさめたのか、本書からその背景が浮かび上がってきます。

本書で展開されているシール氏の持論はほぼ全て世の中の常識と逆行しています。「独占は善だ」、「投資において分散は悪だ」、「リーンな起業は止めたほうがいい」、「キャリアアップの選択肢が多くとも意味がない」、「IT企業においても営業は技術者と同じくらい大切」などが主張の例ですが、ビジネススクールで教えられている、もしくは多くのベンチャー起業家が信じているのと真逆の内容です。しかし、シール氏自身が本書で展開されている思考にしたがって揺るぎのない成功実績をあげていることから、反論できません。

また、グーグルやフェイスブックなどうまく独占状態を作っている会社は自社の競合が多いことをアピールし、独占できていない会社は声高に独占状態を築いていることを叫ぶといった指摘も、直近のグーグル会長エリック・シュミット氏の「アマゾンが手ごわい強豪である」という発言などを見てもその通りでクスリと笑えますし、他にもこうした鋭い指摘が多々あるので、今後の経済記事を読む中で本書の内容を思い出すと示唆に富むでしょう。

もちろん、シール氏の主張は巨大な成功を目指す時に必要な発想で、広く一般的にあてはまるものではありません。しかし、タイトルにもあるように社会全体の成長には、0から1の非連続な飛躍が不可欠で、それを生みたいと願う人にはこれ以上参考になる書籍はないでしょう。最後に、本書を私は英語で読みましたが、シール氏のスマートさと歯切れの良さが存分に味わえるので、英語が苦手でない人はぜひ原書で読むことをオススメします。

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