ホーム > 書評 > 投資以外

投資以外のアーカイブ

孫正義 300年王国への野望

孫正義 300年王国への野望

★★★★

3兆円でのアーム社の買収や10兆円ファンドの設立など、ますます活動のスケールが拡大しているソフトバンクの孫社長ですが、これまでにも彼の生い立ちやキャリアについての書籍は数多く出版されてきました。

このブログでもそうした書籍のいくつかを取り上げてきましたが、本書はその中でも傑出した出来栄えです。本書は孫社長のソフトバンク起業当初から現在までのビジネスマンとしてのキャリアを丹念に追っています。これまでの書籍は、孫社長の出自にフォーカスが当たったものが多かったですが、本書ではこれまであまり語られてこなかった創業当初の苦労話が数多く登場します。

今でこそ何兆円ものディールで世界を騒がせている孫社長ですが、創業当初は苦難の連続でその度に恩人が表れて何とか切り抜けていくエピソードの数々には同じ事業を営む者として勇気づけられました。世界に冠たる起業家となった今でもこの頃の恩人への感謝を忘れずに、必ず年1回は御礼をする場を設けているエピソードからも情に厚い孫社長の人柄が伝わってきます。

ニケシュ・アローラ氏への引継ぎやアーム買収の経緯、さらにはトランプ大統領との会談の誰も知らなかった舞台裏など、最新のトピックについても本人や周辺のコメント共に深く切り込まれています。創業期から直近に至るまでの超長期に渡ってこれほど孫社長に肉薄した筆者の取材力には感嘆するしかありません。

世の中から見れば極貧の幼少期から世界的な大富豪にまで上り詰めた超サクセスストーリーですが本人は全く満足していないことが分かります。多くのビジネスマンに前向きなパワーを与えてくれる力作ですから多くの人に手に取ってほしいと感じました。

  • コメント(閉): 0
  • トラックバック(閉): 0

ギリシャ人の物語2

ギリシア人の物語II 民主政の成熟と崩壊

★★★★

全15冊からなる「ローマ人の物語」があまりに名高い塩野七生さんのギリシャ人の物語の2作目です。前作が、ペルシャ戦役が中心であったところから、本作では民主主義の巨人ペリクレスを中心として、アテネにおける民主制に焦点があたっています。

ローマ人の物語はもちろん、ルネッサンス期に関する著作など、塩野さんの作品はほぼ全て読破しています。厳密に歴史を追っていくのではなく、まるで眼前に展開されているかの如く、数百年/数千年前のドラマが生き生きとした人物描写により展開されるので、歴史の流れがすっと頭に入ってきます。

同時に、人の世の物語は時代を超えた普遍性があり、読後に様々なことを考えさせられます。まるで、今の世界の流れを予測していたように、本作では民主主義により興隆したアテネが民主主義により没落していく姿が描かれています。誰しもトランプ大統領の米国や、ブレグジット後の英国の行く末と重ね合わせる部分があるでしょう。

ただ、こうした憂鬱な読後感だけでありません。塩野さんはローマ人の物語のカエサルやルネッサンス期のチェーザレ・ボルジアに代表されるように、自身が敬愛する人物の描写が白眉ですが、本書にはアルキビアデスという魅力的な人物が登場し、彼に関する描写はやはり冴えわたっています。

次回作は1年後となるようですが、アレクサンダー大王が登場するようです。麒麟児が大好きな塩野さんが、この人類の歴史上でも最高の部類の麒麟児をどのように描くのか今から楽しみです。

  • コメント(閉): 0
  • トラックバック(閉): 0

論語と算盤と私

論語と算盤と私―――これからの経営と悔いを残さない個人の生き方について

★★★

中々、仰々しいタイトルですが、30そこそこという異例の若さで斜陽だったミクシィの社長に就任し、短期間での立て直しに成功して、現在はスタンフォード大学のMBAの講師として活躍している朝倉さんが書いた、テンポの良い企業論です。

本書の中でも朝倉さんの異例の経歴については紹介されていますが、中学卒業後プロのジョッキーを目指してオーストラリアに渡るが身長が伸びすぎたために断念し、その後猛勉強により東大法学部に進学し、学生中に起業した後にマッキンゼーに入社して、再びスタートアップに戻った後にミクシィの社長になるという激動の内容です。

私にとっては、朝倉さんはマッキンゼー時代の後輩にあたり面識がありますが、上記の波乱のキャリアの苦労を感じさせない飄々とした好青年です。本書も、彼の人柄に沿う形で、様々な立場から企業を見てきた人ならではの多様な視点から、明快にあるべき企業の姿が語られています。

本書に書かれている内容は伝統的な日本の大企業観とは相いれないものあるでしょうが、少なくともグローバルのビジネスシーンでは当たり前とされているものです。ただ、語り口にこれまでの「海外ではXXX」という上から目線のコンサルタント的押しつけがましさが一切なく、日本の上場企業のトップとしても苦労した朝倉さんだけあって、すっと心に入る形で提示されています。

若い人にとってはキャリア論としても貴重な示唆に富むでしょう。様々な分野に若くして該博な知識を持つ朝倉さんならではの骨太な企業論、キャリア論をぜひ特に若い世代の方に読んでほしいと思います。

  • コメント(閉): 0
  • トラックバック(閉): 0

カジノとIR

カジノとIR。日本の未来を決めるのはどっちだっ! ?

★★

世の中ではハイパークリエイターという肩書や、沢尻エリカさんの元旦那といったところばかりがクローズアップされている著者の高城氏ですが、パーマネントトラベラーとして世界中を旅して各国の最新事情に詳しく、東京でのカジノ解禁についてのパネルのメンバーであったこともあって、世界中のカジノの実態がコンパクトにまとまっています。

トランプ次期大統領との会談の直後に急ピッチでカジノ法案が可決されたために、その背景にあるメカニズムについて色々なうわさが飛び交っていますが、めまぐるしい展開から議論が十分ではないとカジノに対して批判的な国民が過半を占めているようです。

本書では日本で今後どのようなカジノリゾートを作っていくべきか、最もお手本になると著者が考えているシンガポールのIR(統合型リゾート)を中心に、各国のカジノの展開について網羅的にまとめられています。日本では、そもそもIRがどんなものか知っている人が少なく、これ以上ギャンブル中毒者を増やすことにつながるという、IRの本質とはあまり関係ない議論ばかりが先行しています。

シンガポールで暮らしていて、マリーナベイサンズというIRによりシンガポール経済が活性化している成功例を目の当たりにしているだけに、今後の日本のカジノのあるべき姿について考える上では本書の内容は最低限の議論のベースとして把握しておくべきでしょう。

  • コメント(閉): 0
  • トラックバック(閉): 0

スティーブ・ジョブズ

スティーブ・ジョブズ 無謀な男が真のリーダーになるまで(上)スティーブ・ジョブズ 無謀な男が真のリーダーになるまで(下)

★★★★

ウォルター・アイザックソン氏による公認伝記が出版されてから5年が経過しましたが、スティーブ・ジョブズ氏と長く付き合いのあったビジネス誌のライターによる新たな伝記です。アイザックソン氏の伝記は世界中で大ベストセラーとなりましたが、その内容については出版直後から賛否両論が巻き起こりました。特に、ジョブズ氏と親交が深かった周囲の人からの評判はあまり芳しくありませんでした。

アイザックソン氏はジョブズ氏からのリクエストで、人生の最後の3年間において密着取材をして公認伝記を書き上げました。ジョブズ氏を良く知る周囲の人にも多くの取材をしたようですが、どうしても昔からの知り合いではないために、「現実歪曲フィールド」に代表されるジョブズ氏のエキセントリックなところを強調した表現が前面に出ていて、そのことが親しい人にとってはジョブズ氏の良い面を消してしまっていると感じたようです。

その点で本書は、ジョブズ氏がアップルを創業して追放される前からインタビューをしたことがあり、ジョブズ氏からの信頼を得て彼の人生の重要な局面を常に取材をしてきた2人による作品であるので、昔はエキセントリックであったジョブズ氏が多くの苦難を乗り越える中でどのように成熟してきたのか、その軌跡が詳細にまとめられています。

アイザックソン氏が描くジョブズ像では、アップル復帰後に多くの才能を束ねてアップルを世界一の企業に押し上げることは不可能だったでしょう。もちろん、ジョブズ氏のリアルな振る舞いを知っている著者による作品だけに、人生の最終局面においてもジョブズ氏が人格上の色々な問題を抱えていたことはきちんと指摘されています。

それでも、相手のことを思いやる優しさをきちんとジョブズ氏が育んできたからこそ、アップル復帰後にあそこまでの成功をおさめられたことが、本書によりよく分かりました。ビジネスマンとしては、公認伝記よりも一人の偉大な起業家の成長の軌跡がよりリアルに分かるこちらの著作の方が、参考になる部分が多かったと感じました。

  • コメント(閉): 0
  • トラックバック(閉): 0

人間さまお断り

人間さまお断り 人工知能時代の経済と労働の手引き

★★★

最近、この書評でも人工知能に関わる本を頻繁に取り上げていますが、本書も邦題にあるように人工知能の進化によって人間の労働のかなりの部分が必要なくなるという内容です。原題は”Human needs not apply”で、人工知能のみを対象とした労働募集という、より著者の意図が伝わりやすい表現になっています。

こう紹介すると、人工知能ブームに乗っかって過剰に危機をあおろうとしていると感じるかもしれませんが、スタンフォード大学の研究所で人工知能について研究し、シリコンバレーでいくつものベンチャーを成功させたシリアルアントレプレナーという顔も持つ著者による地に足がついた分析が展開されています。

著者が人工知能による社会へのインパクトとして最も懸念しているのは経済的な格差拡大です。社会学の研究者ではなく、アマゾンのジェフ・ベゾスやDEショーのデービッド・ショウといった人工知能時代の覇者も知り合いに居る起業家が、格差拡大に関心をもっているということからも、人工知能により更なる格差拡大が引き起こされる可能性が高いことが伝わってきます。

人口知能の進化に伴って人間がやるべき労働内容と、それに必要となるスキルが急速に変化しているにも拘わらず、教育機関がそれに対応していないため、教育ローンを抱える低所得者や失業者が絶望的な環境に置かれている著者の指摘は心に突き刺さります。

単なる警鐘だけでなく、上記の問題に対しては就業機会と対応した形式の教育ローンなど、具体的な対策まで提示されているので、人工知能の進化の影響とその対応策について思索したい方にとっては絶好の入門書と言えるでしょう。

  • コメント(閉): 0
  • トラックバック(閉): 0

不屈の棋士

不屈の棋士 (講談社現代新書)

★★★

この書評では資産運用やビジネス、テクノロジー、サイエンスがテーマの本を中心に扱ってきて、将棋をメインとした書籍は初めて紹介します。この本をこちらの書評で紹介したのは、棋士たちとファンドマネージャーが置かれている状況が、人間vs人工知能/ソフトウェアという点で極めて似ていると感じたからです。

本書は、近年ソフトが飛躍的に強くなって劣勢に立たされている棋士たちに、ソフトや人工知能についてどのように感じているのかインタビューした内容を中心に構成されています。自分たちの存在価値を脅かしている存在について聞くというのは中々センシティブな事ですから、長く棋士たちに取材している筆者だからこそ聞き出せた内容でしょう。

棋士と言えば羽生善治氏が一般的には圧倒的な知名度を誇り、羽生氏は本業だけでなく、最近では人工知能をテーマとしたNHKスペシャルに出演するなど、日本では知性の象徴の様に見られています。将棋よりはるかに知名度を誇るチェスについても、20年ほど前にIBMの開発したソフトに世界チャンピオンが負けた時はセンセーショナルに報道されましたし、今年はボードゲームの中で最も局面が多いとされる囲碁でも、グーグル傘下のディープマインド社がディープラーニングという最新の人工知能の手法を用いて、これまでの予想よりもはるかに早く世界最強クラスとされる棋士イ・セドル氏を破ったことも世界的な話題となりました。

そして、冒頭で紹介したように、ヘッジファンドの世界でも近年人間のマネージャーが率いるファンドよりも、アルゴリズム取引を主とするファンドの方が総じて成績が良いということが話題となっています。これまで人間の牙城とされてきた知性にまつわる作業においても、ソフトウェアや人工知能が次々と侵食してきています。そうした時に、その道のプロは何を感じどのようにこうしたテクノロジーと向かい合うべきなのか、そして人々や社会はどのような感想を持つのかについて、本書からは色々な示唆が得られます。

  • コメント(閉): 0
  • トラックバック(閉): 0

ネルソン・マンデラ 未来を変える言葉

ネルソン・マンデラ 未来を変える言葉

★★

20世紀最後の偉人と呼ばれるネルソン・マンデラの発言の中から、ジャンルごとに明言をまとめた書籍です。マンデラは言わずと知られているでしょうが、南アフリカのアパルトヘイトに対して反抗したことで27年にもわたって投獄されても信念を曲げずに、最後は南アフリカの指導者となり世界から尊敬を集めた人物です。本書には革命の闘士だった時代から晩年に至るまで幅広い時代の発言がまとめられています。

私がマンデラにまつわるエピソードで印象的に覚えているのは、1994年のラグビーW杯の南アフリカ大会で日本代表から150点近くとるなど破竹の勢いで決勝まで来た、当時世界最強とされたNZ代表オールブラックスの面々が決勝の相手である南アフリカの指導者マンデラと握手したときに明らかに気圧された表情をしたというエピソードです。屈強な男たちを肉体からではなく、その偉業により精神的に圧倒したことが、大番狂わせといわれた南アフリカ大会での南アフリカチームの優勝を呼び込んだと複数のコラムニストが指摘していました。

本書にまとめられている言葉は確かに素晴らしい内容です。しかし人は言葉だけでは心を動かされることはありません。マンデラ自身の不屈で気高い行動があってこそ、本書にまとめられている言葉は意味を持ちます。本書を読んで、マンデラの人生の歩みについて深く知りたいと感じました。評価が星2つとなったのは、各ページに2‐3個の言葉のみという内容の少なさによるもので、もちろんマンデラの言葉自体は珠玉のモノばかりです。

  • コメント(閉): 0
  • トラックバック(閉): 0

シンギュラリティは近い

シンギュラリティは近い [エッセンス版]―人類が生命を超越するとき

★★★

テクノロジーの進化がAIの発展により加速度的になっていくというシンギュラリティというタームは、日本でもかなり浸透してきています。本書は、そのシンギュラリティという概念を最初に世の中に打ち出した、レイ・カーツワイル氏の書籍です。

元々、カーツワイル氏によって2007年に書かれた600ページ以上の大著から、エッセンス部分を抜き出した要約版となっています。カーツワイル氏は現在、AIで世界最先端を進んでいるグーグルで、機械学習と自然言語処理の研究責任者を務めている著名なエンジニアですから、本書で展開されている2045年にはシンギュラリティが訪れて、22世紀には銀河はおろか宇宙全体に人類が進出するようになるという予想を一笑することはできません。

ただ、一方で2007年に予測された2010年代に達成される技術的内容は、残念ながら2016年現在ほとんど実現しておらず、本書の内容を全て真に受ける訳にはいきません。確かにグーグルを筆頭にAIの開発は急速に進んでいて、10年以上先と考えられていた囲碁で世界トップクラスの棋士を打ち破るなど、着実に世の中にインパクトを残す成果は出てきています。しかし、本書で予測されている2030年までにAIが完全に人間の頭脳を凌駕して、科学研究を加速度的にAIが行っていくことで、人類も脳をそのままデジタルデータとしてサイバースペースにアップロードして永遠の存在となっていくというのはあまりに楽観的過ぎるでしょう。

本書の楽しみ方としては、グーグルの研究開発者はこれくらい楽観的かつ野心的なビジョンの持ち主で、だから米国のトップIT企業は懐が深く、本書の内容のどれくらいの割合が、どれくらいの時間軸でこうした米国のトップIT企業を中心に実現されそうか、読者それぞれが想像しながら読み進めるという姿勢が良いと思います。

  • コメント(閉): 0
  • トラックバック(閉): 0

科学の発見

科学の発見

★★★

ノーベル物理学賞受賞者であるスティーブン・ワインバーグ氏の著作というと、物理学の研究の最前線について解説したものと思う人も多いでしょうが、はるか紀元前からの科学研究についての歩みをまとめた科学史です。

そして、本書の冒頭にあるように、科学史をまとめる上で変則的な手法を用いています。それは、歴史について記述する際は時代ごとの常識に沿ってまとめるのが一般的であるのに対して、本書は現代科学の視点から古代を含めて科学研究について論評するというスタイルです。当然ながら、現代科学の常識に照らし合わせると古代はもちろん、ルネッサンス期の科学革命時代の研究も色々と瑕疵があります。そして、本書ではそうした瑕疵が遠慮なく指摘されています。

では、本書は当たり前と言える昔の科学研究の不備をあげつらうニヒルな内容で、読後感が悪いものかというと全くそうではありません。むしろ、厳密な歴史学の手法に沿った科学史よりも、本書の方が一般の読者にとっては時代ごとの科学研究のスタイルの差異が明確になって学びが大きいでしょう。

もちろん、科学史を専門とする人からは色々と言いたいことがあると思います。しかし、時代ごとの科学研究の前提を知らない一般読者からすると、古代ギリシャの科学研究は現代科学と全く異なっていてその成果について過大評価であるとか、ルネッサンス期においても科学と宗教が不可分な存在であったとか、率直な感想を持ちました。

客観性を保ち、普遍性を獲得している現代科学の洗練された手法が、いかに長い時間をかけて苦難の連続を乗り越えて奇跡的に得られたのか、本書を読むことで感動する人も多いでしょう。現代では当たり前すぎる存在となった科学の成り立ちについて知りたい方にはとてもオススメです。

 

  • コメント(閉): 0
  • トラックバック(閉): 0

ロケット・ササキ

ロケット・ササキ:ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正

★★★

何年にもわたる紆余曲折を経て、台湾のホンハイに買収されることになったシャープですが、そのシャープが弱小メーカーから液晶を軸に大手電機メーカーにまで飛躍する礎を作った人物に焦点をあてたドキュメンタリーです。

その人物とは佐々木正氏で、御年101歳で今も健在です。佐々木氏は第2次大戦中に軍の兵器開発に従事するエンジニアでしたが、戦後にGHQからの命令で通信機器の開発に身を投じます。米国に渡って半導体を開発してノーベル物理学賞を受賞したウィリアム・ショックレー氏らと交流して、多くの功績を残します。佐々木氏の力量にほれ込んだシャープの創業者である早川徳次氏から猛烈な誘いを受けてまだ電器メーカーとして弱小だったシャープ(当時早川電機工業)に入社します。シャープでも電卓や液晶、太陽電池など、米国との太い人脈を活かしてシャープが総合電機メーカーとして躍進していく原動力となります。

ただ、佐々木氏の功績はシャープでの活動にとどまりません。本書でも紹介されているように、シャープのライバルだったソニーやパナソニックの創業者である井深大氏や松下幸之助氏にもアドバイスをしたり、はるか年下であるスティーブ・ジョブズ氏や孫正義氏のメンターとなったりもしました。

特に、孫氏に対しては創業期に個人保証で融資を受けられるようにまでしたり、まだ実績がほとんどないにもかかわらず研究開発費をシャープから出したりするなど、多大なサポートをして未だに孫氏は佐々木氏が居なければ今の成功はなかったと毎年感謝の席を設けているほどです。

佐々木氏のこの敵味方分け隔てなくサポートする姿勢は早川氏の姿勢に見習ったもので、「共創」というフレーズで本人はこのスタイルを表現しています。佐々木氏が去った後のシャープが凋落し、ついには海外企業に救済されまでに至ったことの背景には、この共創の精神の欠如があったと、本書を読んだ多くの人が感じるでしょう。

 

  • コメント(閉): 0
  • トラックバック(閉): 0

ヤバすぎる経済学

ヤバすぎる経済学

★★★

本作は、「ヤバい経済学」、「超ヤバい経済学」がベストセラーとなった経済学者とジャーナリストのコンビの4作目にあたります。前2作では「中絶の容認が犯罪率を大きく下げること」、「テロリストの典型的な銀行口座の使い方」、「学力テストで大規模な不正が行われている証拠とその見つけ方」など、経済学が普通対象としないような分野も含めて深く切り込んで、直観に反する鮮やかな分析結果を突きつけるスタイルで人気を博しました。日本では八百長の証拠が見つかって大騒ぎになる前から、これまでの勝敗結果から見て明らかに大相撲で八百長が行われていると指摘していたが話題になりました。

本作でも、これまでの作品と同じく「人種がオンライン取引に与える影響」、「大災害の寄付額と報道時間との関係」、「環境のために車を使わず歩くことの無意味さ」など、タブーを一切恐れない分析が縦横無尽に展開されています。このように書くと、いい加減な人物が執筆していると思う人もいるかもしれませんが、著者のスティーヴ・レヴィットはノーベル経済学賞の登竜門ともいわれる、ジョン・ベイツ・クラーク・メダルも受賞した一流の研究者です。

経済学の固定観念を取っ払って、定量的な分析が可能であれば自分が関心を持ったどんな問題でも研究対象とするのがレヴィットのスタイルです。研究に必要とあれば、ギャングや高級コールガールなどアカデミアの人間が通常付き合わない人たちにも躊躇なくインタビューしますし、本書でもその内容が色々と紹介されています。レヴィットが徹底しているのは人間性や倫理観の欠如に社会問題の答えを求めないことです。先入観を排して、どんな人間でもインセンティブ構造に沿って行動するものだというビジョンにより、直観に反する斬新な分析結果を得ています。その点で、レヴィットが指摘した大相撲で八百長が生まれるインセンティブ構造の欠陥が未だ放置されていることは気になります。

注意が必要なのは、「ヤバい経済学」、「超ヤバい経済学」と異なって、本作は著者たちが運営するブログの中から反響が大きかったコラムをピックアップする形式で、前2作と比較してより雑多な小粒なコラムの集まりであることです。その点で原題では続編でないことが分かるタイトルとなっているにもかかわらず、ヤバいシリーズの最新作と錯覚させる邦題には感心しません。

  • コメント(閉): 0
  • トラックバック(閉): 0

ホーム > 書評 > 投資以外

ページの上部に戻る